心に平安を アーノンクールの遺書的録音
クラシックCD・今月の3点
ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
アルノルト・シェーンベルク合唱団(エルヴィン・オルトナー合唱指揮)
ローラ・エイキン(ソプラノ)、ベルナルダ・フィンク(アルト)、ヨハネス・クーム(テノール)、ルーベン・ドローレ(バス)
ベートーヴェンは晩年の1823年に完成した「ミサ・ソレムニス」の第1曲「キリエ」(主、憐れめよ)の冒頭に、「願わくば心より出でて、心へと還らんことを」と記した。
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮読売日本交響楽団
あまりに長く、発音しにくい名前のため、国際的にも「ミスターS」と呼ばれているマエストロ(巨匠)。ブルックナーの交響曲は得意のレパートリーだ。第8番にも1993年のザールブリュッケン放送交響楽団盤をはじめ、複数の録音がある。2007~10年に常任指揮者を務め、現在は桂冠名誉指揮者の称号を持つ読売日本交響楽団とは10年3月の演奏会のライブ盤を残している。今年1月には92歳3カ月の高齢ながら年1回ペースの読響客演を実現し、同月21日、池袋の東京芸術劇場で指揮した第8番が再びライブ盤となった。演奏会に出かけた人の話では、ミスターSは90分近い全曲を一度も座ることなく振りおおせ、オーケストラが退場した後も舞台へ呼び戻されるほどの名演を成し遂げたという。世代交代が進む読響の楽員たちも全員、ミスターSへの尊敬と愛情を共有し、最高水準の合奏でこたえている。老境のマエストロならではの味わい深さはもちろんだが、永遠のモダニストとしての切れ味にも事欠かないのがいい。(コロムビア)
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
1975年に旧ソ連ゴーリキー市(現在のロシア、ニジニ・ノブゴロド市)で生まれた女性ピアニスト。10代で注目を集め、日本のレコード会社と契約した。1997年に日本人と結婚して定住、現在は京都市を本拠に演奏と教育の両面で活躍する。最初はロシア語、英語くらいしか話さなかったが、最近ではよどみない日本語を身につけ、歌舞伎など日本の伝統文化にも深い造詣を示す。ピアニストとしてはモスクワの名教師ウラディーミル・トロップからロシア伝来の奏法を受け継ぎ、打鍵は豊かな音の厚み、色彩を備える。さらに少女時代から傾倒してきたロシアの文学、絵画などの芸術全般への教養が演奏に独特の陰影を与え、技の巧みさよりも「語りくち」の味わい深さで魅了するタイプの音楽家に成熟した。「四季」はチャイコフスキーが月刊音楽誌の依頼に基づき、1876年1月の「暖炉のそばで」から5月の「白夜」、6月の「舟歌」、9月の「狩り」、11月の「トロイカに乗って」などを経て12月の「クリスマス週間」まで12曲の「連載」で作曲した名作。併録の小品4曲ともどもロシアへの思いが隅々までこもり、強い説得力を持つ。真夜中にそこそこ音量を上げて聴いても、うるさくないピアノ曲のCDは珍しい。(若林工房)
(コンテンツ編集部 池田卓夫)
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