よく「尊敬する投資家は誰ですか」と聞かれます。
米国の偉大なる投資家、ウォーレン・バフェットさんはこのコラムで何度も取り上げましたし、その師匠のベンジャミン・グレアムさんも尊敬しています。でも日本人の投資家でとてもすごい方がいました。
本多静六さんです。
東京の日比谷公園、明治神宮、福岡の大濠公園、長野の臥竜公園、福島の鶴ケ城公園などはいずれも日本を代表する公園ですが、これらはすべて、本多静六さんが造った公園です。
彼は1866年生まれ。東大教授なども務めた明治・大正時代の造園技師です。超一流の造園技師であり、投資家でもあるというスーパーマンです。彼の造った公園は今でも名庭園として多くの人に愛されています。そして彼はその仕事のかたわら、収入の4分の1をコツコツ貯蓄に回し、タイミングを見て株式に長期投資しました。退官するまでに現在の価値で100億円を超す資産をつくったそうです。また彼は1日1ページ書くというノルマを自分に課して、生涯で300冊以上の著作も残しています。
まずはその本から本多静六さんの言葉をいくつか紹介しましょう。
「人生は生ある限り、これすべて、向上への過程でなくてはならない。社会奉仕への努力でなくてはならない。もし老人のゆえをもって、安穏怠惰な生活を送ろうとするならば、それは取りも直さず人生の退歩を意味する」
本多静六さんの主張は一貫していて、努力と成長を尊んでいます。それも利他的な努力です。社会的な成功は利己的な動機に基づくことがほとんどで、それはごく自然なことです。しかし、利他的な目標にするとより大きな成功をもたらします。私は多くの成功した経営者や投資家を見てそう思います。おそらく利他的な動機による努力の方が社会的な影響度が高く、より大きなパワーを周囲から得られるのではないでしょうか。
「もしやむを得ず、他人の説や他人の仕事を批評する場合には、必ずその改良案を添えることである。単に人の説を攻撃し、破壊するだけでは、何ら世のためにならないばかりでなく、かえって恨みを買って敵をつくることにより、成功する上で大損である」
交流サイト(SNS)の普及により、作家や有名人でなくても世界に向かって発信できる時代になってきました。そのような中で本多静六さんの言葉は大きな重みを持ちますね。
言いっ放しにせず、自分の意見を相手の説に「改良して」展開するということは、いまこそ有効な方法論ではないでしょうか。
「人生最大の幸福はその職業の道楽化にある。富も名誉も美衣美食も、職業道楽の愉快さには遠く及ばない」
私の最も好きな本多静六さんの言葉です。実際に仕事が道楽であればいつまでやっても飽きないし、飽きずに打ち込めば打ち込むほど仕事の品質は上昇し続けます。私自身、仕事で疲れたと思うことはとても少なく、仕事をすればするほど元気になっていく感じがします。それが「仕事の道楽化」です。
ソニーが生まれたときに、創業者の井深大さんは設立趣意書を書きます。そこで「愉快なる夢工場の建設」と言っているんです。
その後、ソニーが世界を代表する会社になった背景にも「愉快さ」を追求する気持ちがあったからこそだと思います。
「人生最高の幸福は、社会生活における愛の奉仕によってのみ生じる。わかりやすくいえば、他人のために働くことだ」
造園技師としての成功は社会のためによい公園を造りたいという強い動機であり、そこにお金もうけというものは前面には立っていなかったでしょう。よい公園を造るという気持ちには利他の気持ちが強かったように思います。
本多静六さんは株式投資でお金持ちになっても質素倹約を旨にして、公園技師として努力をし続けました。彼は退官した後、自身の財産を匿名で、寄付し続けたそうです。結局、その資産のほとんどを寄付にまわしてお亡くなりになられました。彼にとってそれはつらいことではなく、「人生最高の幸福は社会生活における愛の奉仕によってのみ生じる」という実践であったのでしょう。
私はせっかくこのようなすごい投資家がいるのに、現代社会で広く知られていないのが残念でなりません。戦後、日本が焼け野原になったときに、本多静六さんの本はベストセラーになり、多くの人が「本多静六ウエー」を実践したといわれています。私も本多静六さんにはまだまだ程遠いですが、少しでも爪の垢を煎じて、ちょっとでも近づいていきたいと思っています。
それにしても刻苦勉励して少しずつ投資をして、巨万の富を築いてそれをさっと寄付するなんて、あまりに粋すぎます。