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正社員つかんだ自信 貴重な戦力、求人増える ひとり親一歩踏み出す(上)

2016/7/25

建設廃材の引き取りで打ち合わせをする丸忠建工の藤村千秋さん(写真左、横浜市)
子どもを抱えたひとり親は、貴重な戦力――。雇用の場が限られパート・アルバイトで働くことが多かったひとり親を正社員として採用する企業が目立ち始めた。人手不足が背景にあるが、採用された親も仕事に手応えを感じキャリアを積み上げる。人口減に悩む地方は、社会へ踏みだそうとする親を活用。ひとり親は就労のハンディではなくなりつつある。

内視鏡用のポリープ切除装置など医療機器を開発するリバー・ゼメックス(長野県岡谷市)。58人の正社員のうち女性は51人。さらに女性の4割は30~40歳代のシングルマザーだ。

技術職の女性Aさん(56)は38歳の時、離婚した。5年後の2003年、小学生から高校生までの子ども3人を育てながら生きていくには、正社員として働くしかないと決断。ハローワークでリバー・ゼメックスの求人を見つけ入社した。仕事は装置の穴開けから、はんだ付け、工程検査まで経験のないことばかり。それでも正社員として働き続けるため「必死に仕事を覚えていった」。

周囲はシングルマザーをはじめ育児経験のある女性社員が多く、「子どもが急病になったら、『病院に早く行きなさい。あとは私たちが穴埋めするから』」と温かく迎えられた。会社自体が女性の就労を積極的に支援していることもあり、Aさんは正社員として経験を重ね、能力を発揮できることに手応えを感じるようになった。西村幸会長はシングルマザーの雇用を今後も進める。「責任感が強く、長く働いてくれる」からだ。

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ただ「シングルマザーは、子どもに何かあったら休んでしまう。だからお断り、といった誤解が日本の企業にはある」と西村会長は指摘する。このため正社員になれずパートやアルバイトで生活を維持するのが多くのひとり親の実像だ。

母親のなかには暴力が原因で離婚した夫からの二次被害を恐れ息を潜めて暮らす人もいる。働きたくても働けず経済的に苦境に陥るケースも少なくない。そうした事情を理解し、ひとり親を雇用したいという事業所が増えている。

東京都町田市と横浜市で介護施設を展開する社会福祉法人合掌苑(町田市)はその一つ。このほど、シングルマザー専用の社員寮型シェアハウスを開設した。木造2階建てで入居世帯数は5組。5つの個室は約20平方メートルで月額家賃3万5千円だ。ハローワークなどを通じて募集している。

「介護は人手不足。働く意欲のあるお母さんが欲しい。シングルマザーは宝の山。離婚で心に傷を負った人の働き方にも配慮する」と森一成理事長は語る。正職員に自信がなかったら、非正規も認める。日勤と夜勤を分離するなど、仕事と家庭の両立を進めている。森理事長は「シングルマザーは、自分たちは夜勤を伴うような働き方は無理と思いがち。その意識を変えたい」という。

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ひとり親は介護現場だけではなく営業職でも求められている。産業廃棄物処理会社、丸忠建工(横浜市)に昨年10月、正社員として入社した藤村千秋さん(52)は、首都圏の建設会社や工務店に約束なしで訪れ廃材引き取りの商談に汗を流す。高校1年生の長男の今後の進学でお金がかかる。非正規職員として病院の受付をしていたが収入アップへ正社員の道を選んだ。

同社は藤村さんを、横浜市の母子家庭支援拠点「ひとり親サポートよこはま」を通じて雇用。前職の病院受付業務で培った調整能力が、現在の営業職に生かされている。同社は「男性中心の職場環境を変えたいので、あと5人雇用したい」(鈴木哲也社長)という。藤村さんには65歳の定年まで働いてもらうつもりで、後に続く女性にとってのロールモデルを期待する。

日本シングルマザー支援協会(横浜市)代表理事の江成道子さん(47)のもとには、業種を問わず人事担当者から相談が相次ぐ。協会はこれまでに約100社の求人を出した。「企業の間で、ひとり親を多様な人材の一つと位置づけ始めたのでは」という。「自立には責任ある仕事に就くのが不可欠。殻を破って外に出よう」と、江成さんはひとり親に呼びかける。

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■働く母の年収223万円 5割弱がパート・アルバイト

母子家庭・父子家庭の現状(2011年度全国母子世帯等調査)
母子世帯父子世帯
世帯数(推計値)123.8万世帯22.3万世帯
ひとり親世帯になった理由離婚80.8%死別7.5%離婚74.3%死別16.8%
就業者80.6%91.3%
 就業者のうち正規職員・従業員39.4%67.2%
 就業者のうちパート・アルバイト47.4%8.0%
平均年間収入
(母または父の収入)
223万円380万円

全国にひとり親はどのくらいいるのだろうか。国がまとめた「2011年度全国母子世帯等調査」によると、母子が123.8万世帯と、父子(22.3万世帯)を上回る。いずれも、ひとり親になった大きな理由は離婚だ。

就業状況をみると、働く母のうち5割弱は雇用が不安定なパート・アルバイト。これに対し働く父のほぼ7割は正規の職員・従業員だ。母の平均年収は223万円にとどまる。父も収入が多いとはいえないため、母子・父子世帯いずれも1割が生活保護を受給する。

国は手をこまぬいているわけではない。12年、ひとり親が仕事と育児を両立しながら自立できるよう支援する新法を制定。特に母には再就職口を紹介する「マザーズハローワーク」を全国21カ所に設置。母に続いて父にも、新法ができる2年前から児童扶養手当を支給している。

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