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日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者(CEO)は、「成功する人と失敗する人の違いは、状況をすばやくつかみ決断する能力」だと語る。社内外の幹部候補生を前に、ゴーン氏はこれまでの改革を振り返るとともに、これからの日産だけでなく、自動車業界の将来像も語った。日産グローバル本社での特別講演を独占リポートする。

<<(上)「CEOが後継者を決めてはダメだ」日産ゴーン氏

成功する人は『決して失敗しない人』ではない

――ゴーンさんは挫折や失敗をした経験がありますか。

日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEO

日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEO

「成功する人は『決して失敗しない人』ではありません。状況が悪くなったことにすぐに反応できるから、成功につながるのです。誰でも失敗します。問題はいつ是正するか。とにかく速やかにやればいいのです。『悪い兆しが出てきた、ああどうしよう』とグズグズしていると大きな失敗につながるのです」

「簡単ではありません。商品が悪かったのか人材配置が悪かったのか、それ以外なのか、診断しなければなりません。実績も出ない、うまくいかない理由もよく分からないがとにかく『黄信号』のときは、徹底した解析が必要です。診断し結果が出たら、決断力を持って行動する。今の世界では常にすみやかな決断が求められます」

そう我々は三菱自動車への出資を決めました。ただまだ未知の面がありますから、色々決めるのはこれからです」

「自動車業界の場合、新しい技術や商品などが競合他社から常に出ます。常にチャレンジが求められるなかで、いつも必ずその決断が正しいわけではない。大切なのは『ミスを早く検知すること』です」

「米グーグルのようなソフトウェア企業は、このことをよく理解しています。彼らは最初にエラーがあると分かっています。最後に完璧な商品になるのは、ミスを早く見つけすぐに修正する作業を繰り返すからです」

「ミスはシグナルなのです。体の痛みと同じで、痛いのに無視したらトラブルが生まれる。経営も間違ったときの信号をすばやく検知し、修正するのです」

――今後、自動車には大変革が起きます。日産、そしてゴーンさんはどのように変わるのでしょうか。

「ビッグデータや自動運転などの新しい技術が業界を変えるでしょう。自動車業界がそれだけで決まるのなら、私たちは降伏です。グーグルにバトンを渡します。しかし、車はそれだけではありません。自動車業界特有の技術を磨くことも肝心なのです。排出ガスなどをどう改善していくか、ということも重要です。グーグルなどIT(情報技術)企業はその分野で技術を磨こうとはしないでしょう」

「ビッグデータを使って消費者を知り、その情報を商品に反映することも、新しい技術を使って商品を差異化することも必要です。自動運転のテクノロジーもこれから進むでしょう。新しい技術も、既存の技術も必要だということを理解しなければならない。将来の車のために改善していくことが必要なのです」

周りが全員「同意」なら要注意

――失敗の予兆をどうやって検知すればいいのでしょうか。

「私たちが『電気自動車(EV)を商品化する』と決めたのは確か2007年です。当時、EVを量販すると決めていませんでした。変化のサインを検知してどう順応したか。執務室にいたらある日突然、神託が降りてきたわけではありません。原油が高くなったり排ガス規制の問題が生まれたりして、EVだと考えたのです。今こそ動き始めた、と思いました」

日産本社で開かれたゴーン氏による人材研修

日産本社で開かれたゴーン氏による人材研修

「こういう時みんな反対するのです。それでいいのです。もし周り全員があなたのアイデアに同意したら、気をつけたほうがいいですよ。チャレンジしていないということですから。もしみんなが反対したら、あなたは実行する理由を説明しなければなりません。私の見えていることが周りは見えてない、ということなのですから」

「中国への進出、EVの商品化、そして三菱自動車への出資など、様々な意思決定をしましたが、みんながイエスなんてありません。反対されましたよ。しかし、状況を素早くつかみ、実行してきました。これには決断が必要です。そして結果を出さなければなりません」

「中国への進出は『素晴らしい決断だ』と言ってもらえました。販売が好調だからです。年間130万台規模に膨らんでいます。しかし全然車が売れず赤字だったら、『なんてバカな決断をしたのだ』と今ごろいわれているでしょう。決断を下し、徹底して実行する場合は(社員を)フォローしなければいけません。リーダーシップとは、優先順位を決めることもあります。それも仕事です」

――ゴーンさんが下した決定で一番驚いたのは、日産再建のためオファーを受けたことです。情報も不足していたのに、なぜ受け入れたのですか。

「成功すると分かっていたからオファーを受けたわけではありません。正直なところ、失敗か成功は50対50だと思いました。しかし、受け入れたのは、ワクワクしたからです。潜在的に失敗もあるよなと考えましたが、恐怖心よりワクワクが勝ったのです。(1999年に発表した再建計画の)『リバイバルプラン』の3つの約束のうち、1つでも約束を守れなかったら(CEOを)辞めると話しました。次のプランなんてありません。もしもうまくいかなければ取締役会は全員クビでした」

「学んだことはたくさんありました。結果を出せたことも大切なことですが、それより重要なのは99年に2兆円の債務を抱え、破綻させた社員たちが、再び日産を復活させたことです。私は化学変化を起こした触媒です。日産には成功する材料はあったけれど、反応を起こす人がいなかったのです。成功と破産を同じ人間がやったということ。これこそ、マネジメントの真骨頂です」

――ゴーンさんはこれまで自動車関連の会社で変革を生んでこられました。もし10年若ければ、どんな仕事をしていますか。

「会社の変えるときに商品の中身はあまり関係ありません。変革とは結局人なのです。事業が成熟し確立された企業でも、スタートアップ企業でも同じです。社内にある課題を具体化すると解決策は社内にあり、多くの優秀な人間もいました。彼らがモチベーションを持てる環境をつくることです」

「リーダーの仕事とは人を引っ張ることであり、技術のエキスパートになることではありません。そしてリーダーシップとは、人にやりたがらないことをさせ、結果を出させること。それこそがリーダーシップの神髄です」

「あなたが飛行機に乗っているとき、機長が誰かなんてどうでもいいでしょう。目的地に無事、着きさえすればいい。しかし事故が起きれば機長が誰なのか気になります。経営も同じです。リーダーが重要になるのは悪いことが起きたとき、危機を感じたときです。周りを説得できる選択をするリーダーを求めるでしょう」

リーダーはポーカーフェースでなければ

――ゴーンさんは高いモチベーションをどうやって維持されていますか。

「リーダーも焦ることがあります。しかし、それを外に見せないという責任を負っているのです。ポーカーフェースで、心のなかを見透かされてはならない。もちろん前向きな気持ちをあえて外に見せたいときは積極的に見せます。みんなそれぞれに仕事以外にも大切なことがあるでしょう。家族や友人、スポーツ、NPO活動など人によって違うと思いますが、それが大切です。ときには仕事から離れることです」

「私はとても恵まれていた。今は大人になり家を出たけれど、4人の子供たちは誰も私を社長とは思わない。恋人だったり、夫だったり、親であるときに一呼吸がつけるのです。音楽も音符と音符の間の休符で成り立っています。呼吸が重要なんです。リーダーシップを執るということは一回で終わるものではなく、継続されるものです。だからこそ、一息ついて呼吸するということがとても重要です」

(松本千恵 代慶達也)

前回掲載の「『CEOが後継者を決めてはダメだ』日産ゴーン氏」では、ゴーン氏が考えるトップに求められる資質を紹介しています。

「探訪ビジネススクール」は随時掲載です。

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