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「日本から何かが始まる」を世界に伝えたい 文部科学省参与 藤沢久美氏インタビュー(中)

スポーツイノベイターズOnline

2016/9/1

スポーツ・文化・ワールド・フォーラムのリーダーを務める藤沢久美氏(写真:加藤康)

2016年10月に経済界、地方公共団体の協力を得て、東京と京都で開催される国際会議「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」(主催:文部科学省、スポーツ庁、文化庁)は、20年、そしてその先へ向けて、世界全体の新しい成長を目指す対話の場として期待されている。

このフォーラムは「世界経済フォーラム」と連携して開催するもので、同フォーラムのヤング・グローバル・リーダーの会議も同時期に開催される予定である。両会議への参加者の強力なグローバル発信力を活用し、最先端科学技術などをテーマとして「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」と「世界経済フォーラム」とのジョイントセッションを設けるなど、投資誘致の取り組みにつなげる。

その後の20年東京オリンピック・パラリンピック(オリパラ)では、経済効果だけでなく、「オリパラ後」の日本のあるべき姿も問われることになる。さまざまな価値観を受け入れつつ独自の文化を形成してきた日本が、文化・芸術の持つ多様な役割を提示し、積極的に世界に貢献することで地域活力の創出や経済振興などをどのように進めていくかということである。「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム リーダー」として開催準備にあたる藤沢久美氏(シンクタンク・ソフィアバンク代表)のインタビュー第2回は、今回のフォーラムが及ぼす影響と、「オリパラ後」の日本の姿について聞いた。(聞き手は、上野直彦 スポーツライター)

――「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」(以下、ワールド・フォーラム)は、19年のラグビーワールドカップ(W杯)、20年の東京オリパラ、21年の関西ワールドマスターズゲームズといった日本で開催される大型国際スポーツイベントにどのような影響があるでしょうか。

藤沢 まずは世の中全体の機運が高まればと、3つ考えていることがあります。

第1に、東京オリパラに向けて考えている政策を実行するためのキックオフ・イベントなので、「こういうふうに実行していこう」と、皆で約束する場になったらいいなと思っています。例えば文化庁では、20年に向けた文化プログラムとして20万件のイベントを日本各地で開催する目標を掲げています。20万件の文化プログラムを実現するにはどうしたらいいか。どんな工夫が考えられるかなどを議論します。

スポーツでは、「Sport for Tomorrow」という国際貢献事業があります。これはオリパラの誘致のときに、安倍晋三首相が国際オリンピック委員会総会で、いわば国際公約として出したものです。開発途上国をはじめとする100カ国以上の国において、1000万人以上の人たちを対象に、日本がスポーツを通じて国際貢献していくことを掲げており、これに関連するテーマについても議論します。

それ以外に、政府の日本再興戦略の一部である「改革2020」の中に掲げられているいくつかの方策についてもワークショップで議論し、政策実行の具体化を推し進めていきます。

第2に、これから取り組むべき新たなイニシアチブなどを、ワークショップを機に生み出そうと考えています。例えば、高齢社会や再生医療の実施など、日本が世界に先んじて整備すべき課題を世界経済フォーラムとも一緒に考えます。引き続き、ダボス会議でそれらのテーマを議論する際に、日本が中心となってリードできるようなきっかけをつくることができたらと考えています。

第3に、フォーラム後に「日本は面白そうだ」「世界が元気になっていきそうだ」「日本から何かが始まる」「オリパラに向けて自分も何かをやってみよう」といった、国内外のすべての人を巻き込むような機運が高まることを期待しています。

――「日本から何かが始まる」と世界に伝えていくために、どんなことが必要なのでしょうか。また、ワールド・フォーラムの成果をどのように生かしたいのですか。

藤沢 大きなビジョンがあります。この間、馳浩前文部科学相とも議論を深めたのですが、世界では宗教や経済、格差といったさまざまな対立が起きています。そうした情勢の中で、アジア、そして世界は真の助け合いを実現する絆をどう深めていくか。これがとても重要なフェーズになってきています。

そこで、日本が歴史的にずっと培ってきたものをベースにして世界やアジアの絆を深めるために、日本がリーダーシップを発揮するには具体的に何を実践していけばいいかについて、議論・実行につなげていきたいと考えています。

具体的には、3つの柱があります。まず、「人間力の向上」。日本が昔から持っている価値感に「知・徳・体」という考え方があります。例えば、スポーツや文化では「柔道」「剣道」「華道」「茶道」というように「道」という言葉がついていますが、これはスキルやノウハウをただブラッシュアップするのではなく、生き方そのものをしっかり磨いていくということを意味しています。

実はビジネスでも同じで、総合的に人間として成長していく「経営道」のようなものをワークショップで議論し、文化イベントを通じて海外の人に日本の価値を体感していただきたい。技術を高めるだけでなく、人間としても心身を共に磨いているという日本の姿を知ってもらいたいのです。それによって、「世界で戦う」という意味が、本当に“戦う”のではなく“分け合う”という意味に変わっていくことや、ただの「つながり」から「絆」へと変化する一助になればいいなと思います。

日本は2度目の夏の五輪なので、文化や、価値、人間の成長をめざしたいと話す藤沢氏(写真:加藤康)

次の柱は「世界の人々の交流促進」で、人が交流できる機会や場をつくっていきたいと考えています。今回のワールド・フォーラムには、海外から約600人の参加を予定しています。年齢、国籍、宗教の違いだけでなく、障害のある人やアーティスト、アスリート、経営者など、様々な価値観を持った人たちが、ワールド・フォーラムで交流することを通じ、交流の意味やその価値を顕在化し、さらなる多様な交流が生まれるきっかけにしていきたいと考えています。

最後の柱は「新しい経済・文化の創発」です。高度経済成長が終わって、新しい経済が必要であることは皆が実感していると思います。文化もまた一段変わっていくはずなんです。昔はカリスマ的なリーダーがいて「俺について来い」と言っていたけれども、インターネットの時代には皆がつくっていく時代に変化しています。

ワールド・フォーラムでも、登壇者と聴衆という関係ではなく、参加者全員が考え、共に何かをつくっていこうという機運が生まれると、新たな文化を創発する動きになっていくでしょう。それが具体的なビジネスや取り組みであれば、新たな経済へとつながっていくと思います。

――今までリーダーシップと聞くと、軍事力を背景にしたものであったり、外交の力によるものであったりする印象でしたが、それとは全く違いますね。

藤沢 米ハーバード大学のジョセフ・ナイ先生が語っているように、昔はハードパワー、まさに軍事力や経済力で世界が動いていましたが、今はソフトパワーが重要になっています。共感や使命感などによって人が行動し、つながり、それが大きな力になっていく時代です。日本が本来持っている価値を再発見し、世界に発信していくべき時期が到来しています。

例えば、今、世界ではどんどん自分の国を守る動きが目立ちますよね。米大統領選の「トランプ旋風」、フィリピンのドゥテルテ新大統領や、英国のEU(欧州連合)離脱が話題になっています。一方で、“ガラパゴス”とも揶揄(やゆ)される日本ですが、現実には、世界から様々な文化や技術を取り込み、それを日本に合う形に変えていっています。

私たちにとっては当たり前だから特別には感じないかもしれません。でも、自国主義に向かっている世界から見ると、日本が歴史的に持ち続けている「受容性」が世界の絆を深めるリーダーシップのもとになるのではないかと見直されたりしています。

――2020年も単なるスポーツのイベントで終わらせてはいけませんね。

藤沢 オリパラはスポーツだけのイベントではなくて、スポーツと文化のイベントといわれています。日本は2度目の夏の五輪ですので、文化や、価値、人間の成長といったものも体現できたらと個人的には思います。(次回に続く)

[スポーツイノベイターズOnline 2016年7月20日付の記事を再構成]

藤沢久美(ふじさわ・くみ) シンクタンク・ソフィアバンク代表。大阪市立大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。99年に同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。13年から現職。2007年に世界経済フォーラムの「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。文部科学省参与、政府各省の審議委員に加え、豊田通商の社外取締役などを兼務。
上野直彦(うえの・なおひこ) スポーツライター。兵庫県生まれ。ロンドン在住時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグを長期取材している。 『Number』『AERA』『ZONE』『VOICE』などで執筆。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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