過度な早寝早起きの中高年に「夜型光」のススメ

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/8/16
ナショナルジオグラフィック日本版

PIXTA

前回は中高年が早寝早起きになる原因について解説した。今回はその対策編だが簡単に復習をしておきたい。ほどほどの早寝早起きであれば問題はないが、睡眠のリズムが早くなりすぎると夕食後の早い時間から強い眠気や倦怠(けんたい)を感じ、いったん寝ついても早朝から目覚めて熟眠感がなくなるなど生活に支障がでてくるようになる。

このような過度の早寝早起きが生じる背景には、中高年、とりわけリタイア世代では必要睡眠時間が短くなるだけではなく、体内時計の時刻調節にかかわる光の浴び方に変化が現れることも深く関わっている。例えば、早朝の散歩が日課になり体内時計を朝型にずらす朝日をたくさん浴び過ぎる、早寝をして体内時計を夜型にずらす夜間の室内照明をシャットダウンしてしまうなど、ライフスタイルの変化によって体内時計が朝型に傾きやすくなる。早朝覚醒がさらなる早朝覚醒を招く悪循環を作り出しているのだ。

このような知見を踏まえて、早くなりすぎた体内時計を遅らせることで中高年の中途覚醒や早朝覚醒を治療できないか、というごく自然な発想が生まれた。そして現在までに幾つもの臨床試験が行われ、成功している。

ヒトの体内時計をずらすには主に2種類の方法がある。本コラムでも何度も登場している「光」と「メラトニン」である。

体内時計が朝型に傾いた中高年は「朝よりも夜」

図に示したように、光を浴びる(網膜に光が入る)もしくはメラトニンを服用する時間帯によって体内時計を動かす方向が真逆になる。前進し過ぎた体内時計を遅らせる(夜型にする)には、光の場合は夕方から深夜にかけて浴び、メラトニンの場合には早朝から午前にかけて服用するとよい。

睡眠時間帯が深夜0時~朝7時である人をモデルとして、光を浴びる時刻(左)およびメラトニンを服用する時刻(右)によって体内時計のどのようにずれるか表した24時間図。過去の研究データから近似的に示した

ただし、メラトニンは国内で販売されておらずネット通販などで国外から入手するしかない。また服用直後に眠気もでるため朝に服用するのは現実的でない。したがって、実用性があるのは「夜の光」となる。

夜の光というと、インターネット上でもしばしば「眠気が出やすいように室内照度を落としなさい」、「明るい光、特にブルーライトは眠りを妨げます」などと書かれるなど評判はあまり良くないが、それは一般向けか夜型で寝つきの悪い若者へのアドバイスである。

体内時計が朝型に傾きすぎている高齢者では「朝よりも夜」がおススメだ。夕方以降に強い光を浴びて体内時計を遅らせることで、23時過ぎから朝6時頃にかけて持続的に質の良い睡眠が取れるようになることが明らかになっている。

これまでに行われた臨床試験で採用された方法とその効果をまとめると以下のようになる。まず方法は、

効果のある人:中途覚醒、早朝覚醒のある中高年
光の強さ:2500~5000ルクス
時間帯:20時~1時にかけての2~3時間
実施期間:2日~2週間、連日実施
(その後、週に2日ほど維持療法を行うこともある)

そして、夜型光の効果は概ね以下の通り。

体内時計の位相:90分~150分後退
中途覚醒時間:40分前後短縮
総睡眠時間:40~50分延長
覚醒時刻:30~60分後退

夜型光の浴び方について説明が必要だろう。残念ながら2500~5000ルクスという強い光は自宅で簡単に作り出すことは出来ない。コンビニの明るい店内で立った高さで目に入る光でも1500ルクス程度である。

見事に理論通りの成果は得られたが…

最近は自宅用のポータブル高照度光照射器も数万円程度で販売されている。体内時計の調整作用が強いブルーライト照射器もある。自宅でパソコンやテレビ鑑賞をする方であれば、輝度を上げることで照度も上がる。光照射装置ほど強力ではないが毎日数時間鑑賞するのであればそれなりに蓄積効果が期待できる。

実際、我々が行った実験でも1000ルクス程度の光(ノートパソコンの画面を30cmくらいの距離で眺めたときの明るさ)でも体内時計を遅らせる一定の効果が見られた。光が弱い場合には浴びる時間帯が遅いほどよい。その効果は明け方(図であれば朝5時頃の最低体温のあたり)に近いほど強くなるからだ。

(イラスト:三島由美子)

これまでの臨床試験では20時~23時にかけて光を浴びるのが主流だが、遅い時間のほうが効果が高いため、午前1時まで浴びた試験もある。何日も連続で深夜まで浴びるのは大変だが、遅い時間帯での光照射は数日でも効果が出る。年齢や体調に合わせて光の浴び方を決めてもよい。

夜型光の効果はかなり強い。1週間から10日で体内時計は2時間ほど後退する。20代の若者に比較して、高齢者の体内時計は、70代の健康な人で約1時間、早朝覚醒のある人で2時間ほど進んでいるが、夜型光でほぼ若者型と同程度まで戻せる計算だ。

実際、これまでの臨床試験に参加した中高年では、夜型光を浴びた結果、目覚め時刻が1時間近く遅くなったほか、中途覚醒が減り正味の睡眠時間も1時間ほど長くなった。これは睡眠薬でもなかなか達成できない数値である。

夜型光を浴びている間は体内時計が若者型に近づくのだが、夜型光をやめると緩やかだが中高年型に戻っていく。実生活に戻ると若者に比べてどうしても朝型光を浴びやすくなるからである。そこで、最初の2週間ほど集中して夜型光を浴び、その後は短めでも良いので週に2日ほど続けると体内時計を若者型に維持しやすいことも分かった。

このように、中高年の中途覚醒、早朝覚醒に対する夜型光の臨床試験ではまさに理論通りの成果が得られたわけである。

ところが、オーストラリアの研究者達が行った試験では不思議な現象も見つかった。この試験では強い夜型光のグループと効果の乏しい弱い夜型光のグループに分け、それぞれ4時間、2日間だけ浴びてもらった。その結果、強い夜型光のグループでのみ体内時計は2時間以上後退し、睡眠の質も先の研究と同様に格段に改善した。ここまでは計算通り。

この試験ではその後、実生活に戻して強い夜型光のグループの体内時計と睡眠がどのように変化するか(元に戻ってしまうか)4週間にわたって精密に計測するのが目的であった。結果はと言うと、案の定、夜型光を中止した後に体内時計は中高年型に戻ってしまったが、意外にも睡眠改善効果は中止後も保たれたのであった。

睡眠改善効果だけがなぜ持続した?

体内時計が中高年型に逆戻りしたのに、睡眠改善効果だけがナゼ持続したのか未だはっきりとした説明ができないのだが、1つの解釈として「不眠というのはそのようなものだ」と開き直った意見もある。

眠れない体験が続けば緊張でさらに眠れなくなる。「夜型光で眠れた」という体験で自信をつけて不眠恐怖が和らぐこともなきにしもあらずだろう。ちょっと苦しい説明だが……。

高照度光には即効性の覚醒作用もある。普段であれば早すぎるウトウトが始まっている20時頃でも夜型光を浴びる最中から脳波上の覚醒度は格段に高まる。その分夜の睡眠のニーズも高まることが期待できる。そのような体内時計以外への効果も働いたのかもしれない。

いずれにせよ、朝型光と夜型光のバランスが前者に傾きがちな中高年では中途覚醒、早朝覚醒が生じやすい。そのアンバランスを夜型光で補ってやることで過度の早寝早起きを改善することができることがお分かりいただけたと思う。

もう少しマイルドだが似たような効果は「朝型光を減らす」ことでも得られる。午前中の日光をできるだけ避ける、午前中に外出が必要なときはスティービーワンダー型の濃くて側面もカバーするような大きめのサングラスをかける、という方法である。「夜型生活から脱却する効果的な方法」で紹介したサングラス法の真逆をやるわけだ。これはお金もかからず最初に試すべき対処法だろう。

三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2016年6月23日付の記事を再構成]

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