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ヒットのひみつ

ダイバーシティー推進 男性育休100%目指す会社も 日経BPヒット総研所長 麓幸子

日経BPヒット総合研究所

2016/7/28

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 エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマは、ダイバーシティーの推進。女性活躍推進法施行から3カ月が過ぎ、一服感が出てきた。しかし、女性活躍を真剣に考える企業こそ、ここでダイバーシティーを加速しようとしている。

 女性活躍推進法施行から3カ月が過ぎた。301人以上の企業は同法で女性活躍に関する行動計画を策定及び届け出を義務づけられているが、その届け出状況は、対象1万5457社のうち1万4855社が届けており、届け出率は96.1%となった(2016年6月30日現在・厚生労働省)。前回の記事(「女性活躍推進のえるぼし認定 売り上げや採用活動に効果」)では46社だった「えるぼし」認定企業も、6月30日で105社まで増えた。最高位の三つ星は78社で、イオンリテール、高島屋、日本電気、パナソニック、東日本旅客鉄道等が三つ星認定企業に加わった。厚生労働省は今後、策定と届け出が努力義務となっている300人以下の中小企業を対象とした女性活躍推進事業に注力していく。

 行動計画策定までの2015年から16年3月末にかけた企業の集中的な取り組み及び関心の高さから比べると、今は、各社が行動計画を遂行するという時期であり、多少の一服感や、計画を立て終わって“一丁あがり”という感もある。本当は、ここから女性活躍のPDCAサイクルを回していかないといけないのが、「新法対応のため(実は仕方なく)行動計画をつくったけれど、そもそも女性活躍って必要だっけ?」「ウチは女性が十分活躍しているからこれ以上はいいかも」「女性自身が昇進を望んでいないのだから無理に昇進しなくてもいいのでは?」などなど、今後のバックラッシュを感じさせるような声がないわけでもない。今後は、「女性活躍」の真意を深く理解してギアを入れて加速する企業と、絵に描いた餅に終わってしまう企業に、二極化されていくのではなかろうか。それは、ダイバーシティーをキーとした経営革新を目指すかどうかの差だともいえるだろう。

■全階層女性比率50%という長期ビジョンと経営革新

 16年7月、カゴメは「トマトの会社から野菜の会社に」「女性比率を50%に~社員から役員まで」という長期ビジョンを打ち出した。

 「当社はこれまで100年以上トマトを中心とした商品を展開してきたが、10年先の未来を見据えて、今後は野菜を供給する会社へ、野菜を供給することで健康寿命の延伸という社会課題を解決する会社へと変えていく」と同社代表取締役社長の寺田直行氏。10年先を見据えた変革を進めるにあたって重要なキーと見ているのがダイバーシティー推進だ。「全階層女性比率50%」は、20~25年後のロングレンジな目標だとしても、国内企業ではこのような目標を掲げているところはまれである。

カゴメの寺田直行社長。社内のダイバーシティー推進イベントにて

 「政治も経済も先行き不透明な時代に企業は勝ち残っていかないといけない。10年先、当社が勝ち残るためにどうしたらよいかと考えたとき、その答えがイノベーションの創出とグローバル化の2つであり、イノベーションを創出する手段としてダイバーシティー推進が欠かせないと考えている。イノベーションは様々な異質なものがぶつかりあうところから生まれるが、多様性のある組織づくりのために、まず当社が出遅れている女性の活躍から着手し、当社のすべての人材を生かしたいと思っている」(寺田社長)

 なぜ50%なのか。同社の商品を購入するのは女性が圧倒的多数であり、また食品メーカーで最も数が多い21万人超の個人株主も54%が女性(15年12月末時点のデータ)ということから、「購買者の視点に立った事業活動を目指すなら50%は必然だった」(寺田社長)という。まず手始めに、17年度の新卒採用から、これまで約30%台後半だった女性比率を50%に引き上げる予定だ。

 「50%という目標を掲げることで女性のモチベーションは高まる。また男性側にも刺激となるだろう。もちろん全役職女性比率50%といっても女性を優遇するわけでなく、成果で判断するのが大原則。そのために管理職クラスの意識改革を進め女性を育成できる上司を増やす。評価制度もより成果を重視したものに変え“年功序列の排除”も進めている。14年5月から20時以降の残業を原則禁止するなど働き方改革にも着手している。育児や介護などで時間制約が生じる社員も活躍できる職場にしていく」(寺田社長)

 「国内中心、男性中心、年功序列」といった従来の働き方の価値観、習慣、既成概念を転換し、組織にいるすべての人材や能力を生かして持続的に成長していく。その経営革新のための「女性活躍」なのである。

■「男性育休100%」標榜で企業カルチャーを変革する

 女性活躍推進法に基づく行動計画に、すべての社員のワークライフマネジメントの実現を目標に掲げ、「有給休暇取得率70%」とともに「男性の育児休業取得率100%」を目標に掲げたのはみずほフィナンシャルグループだ。「男性育休は女性活躍のリトマス紙」と16年3月3日の稿にも書いたが、いよいよメガバンクでも「男性育休100%」を標榜する企業が登場したわけだ。

 しかし、同社の男性の育休取得率は15年度で1.5%と、現状では、民間企業の平均2.3%を下回る。「当社は13年から育児と仕事の両立支援策を拡充してきたものの、現状ではほとんどの男性が育休を取得していない。男性が育児に参画するような風土ではないということ。男性育休取得100%とストレッチした目標を設定することで、現在の企業カルチャーを変革することがねらいだ」(同グローバル人事業務部長・宇田真也氏)

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 同社は、16年6月17日に「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I) ステートメント」を公表したが、そこに重点ポイントとして明記されているのが、「多様な人材活用を最大限実現する人材マネジメント革新」「ワークライフマネジメント改革」そして「すべての役員・社員の意識改革・行動変革」である。その主要施策の一つとして、男性の主体的な育児参画が盛り込まれている。同社には、生後8週間までに5日間を有給で取得できる育休制度があるが、この取得期限を延ばすことを検討しており、2018年度に100%取得を目指す。

社員向け研修で説明するみずほFGの宇田部長

 「男性の育児参画を進めて、仕事と育児の両立がいかに大変かということの理解を深めていただきたい。大変さを男性に体感してもらうことで、両立支援に魂を込めたい」と宇田部長。「男性育休の取得目標が30%、40%ではダメ。それでは、取得した人、しない人で意識に差が生じてしまい、文化を変えることにならない。全員取得で例外なしとすることで退路は断った。ただし、『男性育休100%』というのはあくまでもツール。それ自体がゴールではない。その真意を店長研修で話をしたり全営業店を回り説明したりすることでマネージャー層の意識を変えていき、男女ともに働きやすい職場づくりを目指す。生産性を上げるというのが目標だ」(宇田部長)

■リテンションマネジメントにもよい影響

 このような各社の「女性活躍」「働き方改革」をリテンションマネジメント上でも重要と指摘するのは、青山学院大学教授の山本寛氏だ。リテンションとは、人事管理では企業が社員を確保する、引き留める、定着させるという意味だ。

山本教授

 「現代は人材獲得競争の時代。定着率の高さが人事管理の重要な指標として注目されている。しかし今は、採用活動において内定を出したのに学生側から辞退されるというケースも多くなっている。つまり、入社前の学生のリテンションですら課題となっている。だからこそすでにいる社員に長く勤めてもらうことがより重要となる」(山本教授)

 山本教授の研究結果として、評価・昇進の適切な実施や雇用の保障などがリテンションを促進すること、そして、ワークライフバランスを向上させるような施策や職場内のコミュニケーションを促進する施策がリテンションに寄与することが判明している。

 「働き方改革やワークライフバランス施策を導入し、従業員がその認知を高めると、女性だけでなく男性も、その会社がいい会社だと思い働き続けたいと願うという結果となった。これは、育児や介護などが男性にとっても関心事となり、ワークライフバランスが男性にも自分ごととなってきていることの表れだろう。つまり、ワークライフバランスが共通基盤、リテンションマネジメントのプラットフォームになっている。社員だけでなくその家族までも大切にしているというメッセージとなる」(山本教授)

 なお、高業績人材だけを定着させたいと思う企業は多いが、山本教授の研究によると高業績人材に限定したリテンションマネジメントは困難だということだ[1][2]。女性対象と思われがちだが、ワークライフバランス施策が男性にも奏功したり、非正規を重視する施策が正社員のリテンションも促進したりすることが明らかになったという。

[1]山本寛(2009)『人材定着のマネジメント―経営組織のリテンション研究』中央経済社
[2]Hiroshi Yamamoto(2011)“The relationship between employee benefit management and employee retention”, The International Journal of Human Resource Management,Vol.22,No.17, pp3550-3564

 「女性活躍」の目標は、「女性のみの活躍」や「女性だけの登用」ではない。むしろ、「女性が活躍できていない現状」を客観的に分析しそれを経営課題としてとらえて施策を打つことが重要だ。その課題を深堀すれば、働き方改革や管理職層の意識改革、企業カルチャーの刷新など企業のすべきことが見えてくる。それが経営革新につながるだろう。

麓幸子(ふもと・さちこ)
日経BP社執行役員。筑波大学卒業後、1984年日経BP社入社。2006年日経ウーマン編集長、2012年同発行人。2016年より現職。2014年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。筑波大学非常勤講師。内閣府調査研究企画委員、林野庁有識者委員、経団連21世紀政策研究所研究委員などを歴任。2児の母。編著書に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(いずれも日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。
日経BPヒット総合研究所

日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

ダイバーシティトップセミナー「ダイバーシティと経営革新」
ダイバーシティーをキーとした経営革新をテーマに、日産自動車志賀副会長など先進企業の経営層や有識者に登壇をいただくセミナーを2016年9月16日に開催します。
http://www.nikkeibpm.co.jp/item/seminar/0916woman.html

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