波瑠、北川景子、桐谷美玲 夏ドラマは女優が主役

日経エンタテインメント!

2015年の夏ドラマは、男性が主役の作品が圧倒的に多かったが、2016年はその比率が逆転。女性を主人公にした新作が数多くラインアップされた。今の時代ならではの女優ドラマの作り方とは? 併せて、注目作のプロデューサーにその狙いを聞いた。

■女優たちの活躍が目立つクール

今年の夏のラインアップは、17作品中10作品が“女優もの”。過去5年の夏ドラマを振り返っても、女性主人公の作品数が男性主人公の作品数を超えたことはなく、久々に女優たちの活躍が目立つクールになった。

ラブストーリーの『好きな人がいること』(フジ系)や、刑事ドラマの『ON』(フジ系)、学園モノの『時をかける少女』(日テレ系)など、ジャンルも多岐に渡る。そのなかでひとつ目を引くのは、キャリア25~30年のベテラン脚本家3人(大石静、井上由美子、遊川和彦)が、女性が主役のオリジナル作品を手がけていることだ。

大石静の『家売るオンナ』(日テレ系)では、不動産会社のスーパー営業ウーマン・三軒家万智の活躍が描かれている。万智はコンプライアンスに縛られる上司を尻目に、生ぬるい仕事をする部下を厳しく指導し、独自の哲学で家をバンバン売っていく。主演は北川景子。『悪夢ちゃん』(12年)に代表される、コミカルな演技に定評のある北川が、やり手の人物にふんする痛快なお仕事ドラマだ。

心揺さぶる社会派なテーマ

『営業部長 吉良奈津子』(フジ系)は、女性の産後復帰がテーマ。『白い巨塔』(03年)や『昼顔』(14年)など、世の中に一石を投じるような社会派の作品を数多く世に出している井上由美子の新作。キャリアウーマンだった奈津子は、出産と育児休暇を経て3年ぶりに仕事に復帰。しかし元の職場に居場所はなく、仕事を頑張るほどに家庭でのストレスが増していく。そんな厳しい現実で奮闘する女性を、松嶋菜々子が演じる。松嶋主演×井上脚本の連ドラでの組み合わせは、NHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ひまわり』(96年)以来、20年ぶりとなる。

『家政婦のミタ』(11年)や、『偽装の夫婦』(15年)など、家族や夫婦のあり方を問う作品が多い遊川和彦は、『はじめまして、愛しています。』で、特別養子縁組制度に切り込む。ピアニストとしての夢が実現するまでは、子どもを作らないことを決めた主人公の美奈役には、尾野真千子が起用された。親に捨てられた5歳の男の子と家族になろうとする姿が、感情表現豊かに描かれる。

同性人気の高い桐谷美玲をヒロインに応援したくなる恋を描く

キラキラした恋愛模様とともに、桐谷のコミカルな演技が光る。ヒントにしたのは、90年代後半にヒットした海外ドラマの『アリー my Love』。月曜21時(フジ系)放送中

『好きな人がいること』は仕事一筋に打ち込んできたパティシエのヒロイン・美咲(桐谷美玲)が、イケメン三兄弟(山崎賢人、三浦翔平、野村周平)と海辺のシェアハウスでひと夏を過ごすラブストーリー。昨年、福士蒼汰主演で特に10代の支持を得た『恋仲』のスタッフが再集結して制作している。

 プロデューサーの藤野良太氏は、「今の時代を生きる女性を応援するドラマを作ってみたいと思った」と語る。女性の社会進出が当たり前になっているが、「キャリアと恋愛・結婚の道をバランスよく進めている女性って、僕の周りでは意外と少なくて。それに対する社会の理解もあまりないなと感じていたんです」(藤野氏、以下同)。そんななか、現実で行き詰った主人公が、キラキラした非現実の世界で人生を見つめ直し、リスタートする話は、女性の背中を押せるのではないかと考えた。

最も意識している点は、共感できて応援される主人公であること。「『恋仲』は初恋を引きずった男が主人公。男性目線だったのでヒロインの感情を細かく描けず、女性がストーリーに入り込めなかったという反省があります。今回は、女性がより感情移入できるものをと考えています」。桐谷を主演に選んだのも、同性人気が高く、女性に愛されるヒロインになると思ったから。浮かれていると思ったら急に怒り出すなど、1シーンのなかで喜怒哀楽をガラッと変化させ、コメディで光る桐谷の魅力を生かしているという。

恋愛ドラマならではのときめきを感じさせるシーンは、周囲の女性の意見を積極的に求め、参考にしている。「チーム一丸となって世の中をキュンキュンさせるぞと意気込んでいます(笑)」。そうして作った三兄弟のキス顔を映したイメージ映像は、6月22日時点で40万再生に。ツイッターフォロワー数は24万超えで(7月末では39万超え)、4月期ドラマで最も多かった『世界一難しい恋』の約21万を放送前に上回った。

■表と裏の二面を表現できる波瑠を起用

『異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』は難解な異常犯罪に隠された真実を暴くために、驚異的な記憶力を持つ新人女性刑事(波瑠)と捜査班の面々が凶悪犯と対峙する。原作は内藤了のホラーミステリー小説だ。

制作するのは、火曜22時枠を担当する関西テレビ(以下、カンテレ)。興味の高さや人気が視聴率だけでは判断しにくい今、「話題にしてもらえるような振り切れている何かが必要」と、プロデューサーの河西秀幸氏は語る。河西氏は、菜々緒が演じるシリアルキラーが怖すぎると評判になった、15年10月期の『サイレーン』も手がけた。視聴率だけで見れば、2ケタに届いたのは初回と最終回のみ。しかし、番組がらみのニュースがネットで連日報じられ、ツイッターも盛り上がり、平均視聴率13.4%を取った『銭の戦争』(15

年1月期)と同等の反響を感じたという。同枠で放送された4月期の『僕のヤバイ妻』も、木村佳乃の悪女ぶりが高く評価された。カンテレは“共感型”とは真逆の、女優の怪演とハラハラするサスペンス路線で活路を見出しつつある。

今回の作品では、緊張感のある刺激的なシーンに加えて、原作にはないヒロインの設定がオリジナルで盛り込まれる。「仕事をするときのONのモードでは、社交性のある表情豊かな子。でも、OFFになったときは謎に包まれている。そこで視聴者を引きつけたいと考えています」(河西氏、以下同)。犯罪者に対する興味に突き動かされる比奈子は常軌を逸していて、いつかとんでもないことを起こすのではないかという危うさを持つ。「波瑠さんとは、『逃亡弁護士』(10年)でご一緒しました。偽装妊娠する女子高生役で、危ないところのある女の子のお芝居がとてもうまかった。一方、NHK朝ドラの『あさが来た』では芯のある女性をはつらつと演じきっていました。表と裏の二面を表現できる方なので、力を発揮してくれると期待しています」。

主人公はいったい何者なのか。インパクトのある描き方でまた驚かせてくれそうだ。

(注)視聴率はビデオリサーチ関東地区調べ。平均視聴率は編集部調べ。

(ライター 内藤悦子、田中あおい、松下光恵)

[日経エンタテインメント! 2016年8月号の記事を再構成]

エンタメ!連載記事一覧