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キリンとトラウマと夏休み

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 動物園で飼育している動物は野生の本質は失われていませんが、野生で生きる根本である食べることと身の安全を保障しているという点で、本来の生息地での暮らしとは全く違う生き方をしているといえます。ある意味、宝くじに当たったような生活です。食っちゃ寝でだけで生きていけるのです。本来持っている能力や感覚を使う場面は限られてきます。特に警戒心については顕著かもしれません。

動物園の動物は野生に比べるととても長寿なのですが、その一つによく眠れることが挙げられます。もちろん本来、生存競争や食物連鎖の中で生きることは食べる食べられる、奪う奪われる関係でもあり常に死と隣り合わせなので飼育下よりも短命なのは当たり前なのですが、それを差し引いてもという意味です。

意外なキリンの寝姿

動物園のキリンはよく寝ます。夜になると4本の足をすべて折って地面に座り、長い首を後ろに回して熟睡します。昼間でも放飼場で座り込んで休んだりもします。野生下では、座り込んで寝ることは珍しく、立ったままうつらうつらするような寝方をします。私たちが電車の中で吊革につかまりコックリコックリ寝る、そんなイメージです。

キリンは立ち上がるのに時間を要するので、座ることは無防備な状態になります。野生下では座ることはライオンなどに狙われやすくなりまた襲われたらひとたまりもありません。出産でさえ立ったままするくらいですから。飼育下ではよく眠る、脳がまとまった時間休めることが長生きにつながっていると言われています。

今年の3月アミメキリンのオス「ゲンキ」が、日除け雨よけと、高いものに身を寄せる安心感を狙って設置した遊具の枝の股の間に頭を入れ、抜けなくなりました。首を真上に伸ばし鼻先からY字に開いた枝の股の間に頭を入れ180度向きを変えて頭を抜こうとしたので角が引っかかってしまい首つりのような状態になりました。

全くノーマークの箇所でした。積雪で地面が高くなっていたこと、3年前に旧きりん舎から引っ越してきた時よりもゲンキの背が若干伸びていたことが原因でした。ゲンキは当初パニックになりもがき危険な状態になりましたが数分で落ち着きました。

飼育係が脚立を持ち込み登って遊具のボルトをゆるめ、無事脱出となりました。実はゲンキは引っ越す前の旧きりん舎でも歴代のキリンがやらなかったことをよくやっていました。とにかく隙間から頭を出すのです。

頭を横にしたり斜めにしたりして角を片いっぽうづつかわして、こちらがどうやったら頭が出るのか?と困惑するような箇所から頭を出し抜けなくなるのです。ただこんな時ゲンキは焦らずああでもないこうでもないと、パズルを解くように頭を傾けたり首の角度を変えたりしてあら不思議抜け出すのです。

一度だけ鉄筋の間に首を挟み、鉄筋を曲げてやって事なきを得たことがありました。ゲンキは足癖も悪くて老朽化が激しく網に開いた穴から足を出したりとヒヤヒヤさせられることの多い個体ではありました。

飼育下でもキリンは種として神経質な方で、たとえばいつもと違う場所にバケツが置いてあるだけで寝室に入ってこなかったりします。ゲンキも基本的に神経質な一面もあるのですが、警戒という点ではそう感じる閾値(いきち)が違うのかもしれません。ヒヤッとしたことは二度と繰り返さないのが生き抜く原点ですから。自力で首が抜けない体験は強烈なトラウマとなってもおかしくはないはずなのですが。

夏休みに受けた心の衝撃

若い個体ほど新しい環境や変化への順応力はあります。年を重ねると同じ行動をとろうとします。新たな行動をとることはその結果を予測できませんが、うまくいったあるいは問題が起きなかった行動を繰り返すことはある意味生き抜く知恵でもあります。ゲンキもいい意味でもう少し大人になって欲しいと思ったりします。

僕のトラウマと言えばケムシ。

小さい頃はケムシをたくさん捕まえて砂に埋め誰が一番先に出てくるかなんて遊んでいました。ケムシは他の虫やクモと同じように好きでした。ところが小学校2年生の夏休み、父親と虫取りで山道を歩いていてふと目の前に巨大なケムシを発見しなぜだか覚えていないのですが前に進めなくなりました。

父親が「男のくせに情けない」とあろう事かそのケムシを虫かごに入れて歩かされたのです。その日からケムシが苦手になってしまいました。父にしたらスパルタ教育なのでしょうが、「またケムシがいたらどうしよう」と言う不安が先に立ち、ケムシが怖くなり父と虫取りに行くのが怖くなってしまいました。

もう一つ、大きな魚。

海水浴が大好きなのですが、小学校4年生の夏休み透明度の高い岩場の海で泳いで遊んでいました。ふと観ると大きなボラ(たぶん)が群れで泳いでいて近づいてきたのです。目が合ってなぜか怖くなり慌てて陸に上がりました。

また父の登場です。「情けない!」ゴムボートに乗せられ海に放り投げられました。そのとき以来、水中で出会う大きな魚はトラウマです。釣りをして大きめの魚が掛かり水面近くまで巻き上げた時目が合うともうダメです。

夏休み、子供と過ごす時間も多くなりますね。せっかくだからと張り切るお父さん、過度の価値観の押しつけには要注意!

ゲンキは1歳で旭山に来ました。まだ親や大人に見守られながら育つ年です。旭山ではやはりまだ子供の3歳のお姉ちゃんキリンのマリモと過ごし成長しペアーとなりました。マリモが死んで現在は3歳になるメスの結(ゆい)と同居しています。

ゲンキは大人を観ることなく教えられることなく大人になりました。結果、自分の思いとおりに生きてきました。何でも思い通りになるのではなく、大人やたくさんの個体と過ごすことで、生きるために必要なトラウマを生む感性も生まれるのかもしれません。

今回トラウマと言うことばを使いましたが、精神医学的な定義に基づいてではなく、日常会話の中で使う、日常生活や精神に支障を来さない程度の意味でトラウマと言う言葉を使わせてもらいました。

坂東元(ばんどう・げん) 1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長。

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