ベンツ、BMWを急追 アウディが受けた意外な追い風
イマドキの"ちょっといいクルマ"ってどういうものなのだろう。気鋭の自動車ジャーナリスト、小沢コージがちょっといいクルマの真実を追い続ける連載。今回はメルセデスやBMWを急追するアウディの人気の秘密に迫る。
手あかが付いてないという根本メリット
「メルセデスとBMWは、既に手あかが付いているというか率直な表現で言えばお金持ち、かつての定番というイメージもあるようです」と答えていただいたのはアウディ世田谷のトップセールス、山崎純さん。
日本の輸入車業界で現在プレミアム御三家といえば、やはりメルセデス・ベンツ、BMW、アウディのドイツブランド勢だ。中でも2007年から8年連続で国内販売を伸ばしていたのはアウディ。2015年は増税の影響もあってか久々に落ちたが、リーマン・ショック後の2009年でも唯一台数が落ちなかったのは記憶に新しい。ウラを返せばアウディが、1998年に再出発した事実上の最後発プレミアムだということでもある。
かつてはフォルクスワーゲンと併売され、"豪華なフォルクスワーゲン"的なイメージすらあったが、以降見事ブランドを再構築。そこから伸びてきたわけで、絶対数は2014年のピークでも年間3万台ちょいと、メルセデスやBMWグループの6万台オーバーレベルと比べるとまだまだ少ない。
「その分、伸びしろはデカいですよ。単純にメルセデス、BMWに並ぶクオリティーを持ち、歴史も長いんですから」とは某自動車ジャーナリストの弁。
それはそうだろう。アウディは市場規模に対し、まだまだ伸びるポテンシャルを備えている。なによりもすごいのはある種の渇望感だ。
山崎さんはもともと国産自動車メーカーにいたというが、「アウディに移ってきて一番すごいと思ったのは来客数。多い時には週末だけで20組もいらっしゃいます。正直、これは売れる! と思いました(笑)」という。
いまどき自動車ディーラーで行列とは珍しい。はたしてアウディの一番の魅力はなんなのだろう。
4気筒エンジンだったらアウディでもいい?
「購入動機はほぼデザイン。『店舗がきれい』『サービスの品質が高い』といったお褒めの言葉もいただきますが、選んでいただく理由はカタチが6、7割で、単純に『カッコいい』とよく言われます。アンケートも見事にそれを反映した結果になっていますね」(山崎さん)
一方、中身のクオリティーに関しては意外なほど無頓着なユーザーが多く、品質イメージの高いドイツ車であることを「時折、分かっていない方もいらっしゃいます」とか。さらに面白いのは、結構ないいとこ取りブランドでもあること。
「アウディはもともと1899年創業の自動車メーカー、ホルヒから始まっていて歴史的にマニアックな会社なので、オーナーの中にはクルマに詳しい方が多くいらっしゃいます。これはBMWと同じような評価を得ている部分ですよね。一方で、メルセデス・ベンツのユーザーはステイタス重視の傾向が強いともいわれますが、アウディは最近、そうしたステイタス重視傾向の方からの評価も上がっていて、両側からお客様がいらっしゃるイメージなんです」
最近は特にBMWからの買い替えが多いらしいのだが、その理由の分析がまた面白い。
「BMWはここ数年エコ対策もあって伝統の滑らかなフィーリングの直列6気筒エンジン"シルキーシックス"のことをうたわなくなっていますよね。代わってBMWの中で台頭しているのが直列4気筒エンジンですが、『だったらBMWじゃなくてもいいのでは?』と思われるお客様が多くなった気はしています」
BMWが直6をメーンにしなくなったことによるマイナスの影響はないといわれているが、実はあるのかもしれない。感覚的なものなので判断しきれないが、アウディが意外な追い風を受けていた可能性はある。つくづくプレミアム商品とは難しいものだ。
「とにかく、今はどのクラスでも3ブランドが常に競合しています。完全にライバル関係になったということです。BMW3シリーズはメルセデス・ベンツのCクラスを、CクラスはアウディのA4を見ています。実際に競っているかいないかはモデルによって多少異なりますが、そういうことも含めて今のアウディには追い風が吹いているといえます。購入の俎上(そじょう)に載せていただいているということですから」(山崎さん)
検討対象が増えるということは、販売側は数値競争や値引き競争になりがちだが、それは台数を増やしていくうえでは避けられない道ともいえる。
「最近はジャガーの新型XFとも比較されますから。そのうち新しいボルボSUVも入ってくるかもしれないし、ますます気はゆるめられませんが、やりがいもあります(笑)」と山崎さん。
仏経済学者トマ・ピケティ教授の『21世紀の資本』ではないが、世の中リッチ層は確実に増えている。ますます激化するプレミアム戦国時代とは、ますます選択肢が増えていく未来を示しているのかもしれない。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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