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老後の安心へ 任意後見人に財産管理託す選択も

2016/7/23

 高齢者らが認知症などで判断能力が低下する前にあらかじめ信頼する人と契約して財産管理などを任せる「任意後見制度」が注目を集めている。医療や介護、施設入所などの面で自分の希望をかなえやすい仕組みだからだ。ただ、契約の相手方である任意後見人を誰にするか、人選は容易ではない。後見人に財産を流用されてしまうケースもある。賢い利用法を探る。

 「任意後見制度があったおかげで、いざというときの心配をしないで暮らしていける」。東京湾を一望できる高齢者向けマンションに住む佐々木紀子さん(86)は話す。夫に先立たれ、子どもに世話をかけたくなくて2008年、介護・医療サービス付きのマンションに移り住んだ。

 ただ気がかりだったのが自分が認知症や重病になること。「もしも判断力を失ったとしても、自分らしい生活をしたい」。そう考えた末に知ったのが、任意後見制度だ。知り合いの司法書士と相談して、財産の使い方や施設入所の方法などを決めて10年に契約をした。「重い介護が必要になったときは、静かで清潔な施設に移る契約にしてある」と佐々木さんはいう。

 認知症などで判断能力が低下した人のために、代わりの人が財産を管理したり、施設入所の手続きをしたりするための仕組みを成年後見制度という。形態により2つに分かれる。

 すでに本人の判断力が衰えている場合、家族らが家庭裁判所に申請するのが「法定後見」制度。もうひとつが、元気なうちに契約によって希望を反映できる「任意後見」だ。両者の違いは大きい(図A)。

 法定後見では、後見人を選ぶのは家裁で、本人や家族が望む人がなるとは限らない。判断能力がほぼないと、後見人が介護施設への入所、財産の使い方を自らの権限で決めることがあり、本人や家族の希望が通るとは限らない。

 一方、任意後見制度では原則、自分が希望する人を後見人に選べる。さらに、どのように介護や医療を受けたいか、どんな施設に入りたいか、財産をどのように使ってほしいか、といった内容を細かく契約に盛り込むことも可能だ。

■月5万円が目安

 この任意後見への関心は高齢者らの間で着実に高まっている。契約の締結数は、成年後見制度ができた00年には約800だったが、15年には1万件を突破した(図B)。自分が元気なうちに行く末の心配を減らしておきたいと思う人が増えているようだ。

 任意後見制度では、図Cに示した範囲の中から、後見人の仕事を決めて契約する。財産や身上に関わる重要な仕事なので、「本人を保護するための仕組みが厳しく決められている」と成年後見制度に詳しい北野俊光弁護士は指摘する。

 契約する際は、公証役場に行き、公正証書の形にしなければならない。契約書に公的な信用力、強制力を持たせるためだ。

 後見人が契約通りきちんと仕事しているかを監視する仕組みもある。後見人は、本人の判断能力が衰えてきたと判断した場合、本人の同意を得て家裁に「任意後見監督人」の選任を申し立てる。監督人が選ばれて初めて契約が発効する。

 公正証書は作成料や印紙代などで費用が約2万円かかる。任意後見人は契約により、任意後見監督人は家裁の決定により、本人の財産から報酬をもらう。財産額によるが、合計で月5万円程度が目安とされる。

 任意後見の契約を結ぶだけでは不十分なこともある。例えば本人と後見人との連絡が途絶えがちになると、いざ本人の判断能力に異変があっても後見人が気付かない恐れがある。そうならないよう、後見人が本人を定期的に訪問・連絡する「見守り契約」を別途、結ぶことが有効になる。

 後見人の選び方が容易でない点も心得ておきたい。基本的に誰を選んでもいいが、友人だと「不仲になった場合が大変」と司法書士の後見人の団体である「成年後見センター・リーガルサポート」相談役の大貫正男氏は言う。

 家族の中から任意後見人に選ぶ場合、「誰にするかでもめ事の原因になることも目立つ」(大貫氏)。そこで専門職に依頼することが少なくないが、その場合は信頼関係を築くため、「何度か話し合いをしてから契約する必要がある」(司法書士の船橋幹男氏)。

■財産流用の懸念

 「任意後見人が本人の財産を不正に流用する可能性もある」と司法書士の斎木賢二氏は注意を促す。本人の判断能力が低下しているのに後見人が家裁に監督人の選任を申し立てず、「本人が元気なうちに結んだ任意代理契約を悪用して本人の財産を使い込むケースがある」(関係者)という。

 契約発効後の不正は監督人が摘発できるが、「元気なうちは本人も後見人の行動は時々注意することが必要だ」(船橋氏)。

 実際、最近は年間1万件前後の任意後見契約が結ばれているのに、実際に監督人が選ばれ契約が動き出したのは約2200人にとどまる(図B)。この差について「本人が元気だから」と見るのが一般的だが、関係者の中には「後見人の不正が含まれるのでは」と疑う向きもある。

 弁護士の北野氏は「任意後見制度は上手に使えば理想的な制度」という。法定後見制度では、利用者の就業や公的資格などに対する制限が200以上ある。この点、任意後見制度には制限がない。長所を生かし、問題点も自覚しながら、賢く制度を使う必要があるだろう。

(M&I編集長 後藤直久)

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