マネー研究所

Money&Investment

会社員の老後資金、持ち家なら65歳で3500万円

2016/7/24

 65歳でリタイアしたとき老後資金はいくらあればいいのか。多くの人は公的年金だけでは賄えない可能性が大きいが、不足額は老後の暮らし方や夫婦の年金、持ち家の有無などで千差万別。タイプごとの不足額やどう用意するかを考えた。

 老後資金は少なくとも4人に1人が生きている年齢までを考えるのが一案だろう。国立社会保障・人口問題研究所の予測では2050年時点で男性は93歳、女性は98歳なので、今回はこの中間に当たる95歳までを想定した。

 まずは持ち家を前提に支出を考える。総務省の家計調査では高齢夫婦無職世帯の1カ月の支出は約28万円。これを「平均的な生活」とみなすと30年で1億80万円だ。しかしファイナンシャルプランナーの紀平正幸氏は「介護やリフォーム費用などの予備費を少なくとも夫婦で600万円は見ておこう」と話す。すると1億680万円になる。

 一方、生命保険文化センターの意識調査で「ゆとりある老後生活のための費用」を聞いたところ、月35万円だった。旅行や趣味などにお金をかけたければ、必要額は増える。この30年分と予備費600万円を足すと、支出は1億3200万円となる。

■個人型DC活用

 年金は夫婦の職業などで大きく変わる。会社員(厚生年金と基礎年金)と専業主婦(基礎年金のみ)の場合、厚生労働省が想定するモデル世帯は月22万円。30年で7920万円だ。しかし厚労省の財政検証では30年度の所得代替率(現役世代の平均的な所得に対する年金額の比率)は現状より1割前後減る。財政検証では実額は必ずしも減らないとみるが、厳しめに所得代替率の減少と同じ1割減として計算すると7128万円だ。

 平均的な生活には3552万円、ゆとりある生活には6072万円足りない。大企業の会社員の退職金は平均2000万円強なので、平均的な生活なら退職金とは別に1500万円強、ゆとりある生活は4100万円弱の準備が必要だ。ただ退職金は企業により大きく異なるし住宅ローン返済などで全額は手元に残らない例も多いのは要注意だ。

 早くから65歳時点の資産を増やすことに取り組みたい。運用次第で将来の年金額が変化する個人型確定拠出年金(DC)は最優先で活用したい制度だ。掛け金全額が所得から控除されるなど節税効果が大きい。現在は自営業者や企業年金のない会社員しか加入できないが、来年からは原則誰でも入れるようになる。

 共働きで夫婦ともに厚生年金があると老後資金は余裕が出てくる。厚生年金の額は収入で大きく変化するが、社会保険労務士の井戸美枝氏は「リタイアするまで正社員を続けた場合の厚生年金と基礎年金の合計額の平均的な水準は夫16万円、妻が12万円程度」と指摘する。夫婦で28万円なので30年で1億80万円。1割減だと9072万円だ。不足額はゆとりある生活でも4128万円とかなり減る。

 「退職金を夫2000万円、妻1000万円と考えると、ゆとりある生活でも別途準備するのは1100万円ですむ」(井戸氏)。ただし出産などを機にいったん退職すると年金額も退職金も大きく減りがちだ。妻が正社員として働き続けることが重要だ。

 基礎年金だけの自営業者は厳しい。夫婦合わせた基礎年金を月13万円とすると30年で4680万円。1割減で4212万円。平均的な生活でも6468万円も足りない。

■収入を減らさず

 ただ自営業者は65歳以降も従来通りの仕事を続けやすい。年収300万円で10年間働けば3000万円と、不足額はかなり埋められる。紀平氏は「65歳以降も事業収入を減らさない工夫を早めに考えておくことが必要」と話す。

 自営業者の個人型DCの掛け金の上限は、年81万6000円と会社員(27万6000円)より大きい。個人型DCとは別に、掛け金が年84万円まで全額所得控除となる小規模企業共済という仕組みもある。税率3割の人がこの2つを満額で20年続けると、掛け金の節税効果だけで990万円程度にもなる。

 忘れがちなのが持ち家でない場合の老後の賃貸費用だ。実は家計調査での住居費の支出は月に2万円弱。持ち家の比率が9割超だからだ。賃貸の人が月10万円の家賃で30年暮らすと、3600万円かかる。紀平氏は「現役時代に住宅ローン負担が軽い分を貯蓄し、老後の住居費を確保しておくことが不可欠」という。

 自宅での最低限の介護費用は予備費として織り込み済みだが、いずれ有料老人ホームへ入居を希望する場合は別途大きな支出が生じる。施設などでまちまちだが「入居一時金と、平均で5年程度の費用を合わせると2000万円程度必要なケースも多い」と井戸氏は指摘する。

 今回の試算はあくまで一例だ。自分の収入や支出に合わせて修正しながら、老後資金の準備を早めに始めよう。(編集委員 田村正之)

■小規模企業共済 所得控除の優遇
 個人型DCとは別枠で所得控除が受けられるのが小規模企業共済という仕組み。国が作った「経営者のための退職金制度」だ。従業員20人(サービス業などは原則5人)以下の個人事業主や会社役員などが加入できる。掛け金の月額は1000円から7万円までの範囲で選べ、全額が所得控除となる。商工会議所や金融機関などで申し込む。
 運用は確定利回りで、退職や事業を廃止したときなどに受け取る。受け取り方法は「一時金」「年金」「2つの併用」のいずれかを選ぶ。一時金は退職所得控除、年金なら公的年金等控除の税制優遇がある。制度があまり知られておらず、加入者は対象者の3割程度にとどまる。

[日本経済新聞朝刊2016年7月20日付]

マネー研究所新着記事

ALL CHANNEL