高齢男性、地域でケア
――孤独死とはどのようなものなのでしょう。
「単身者が誰にも気づかれずに亡くなることを指す。高齢者が大半を占め、死因は虚血性心疾患が最多。夏の時期には熱中症で亡くなる人も多い。糖尿病など医者にかかれば大事には至らない病気でも、単身者の場合は食生活などに自制がきかず、合併症で亡くなることもある」
「孤独死するケースは、生活のあらゆることを放棄する『セルフ・ネグレクト』の状態だった人が多い。配偶者との死別や人間関係のトラブルから他者との接点を断ち、掃除や洗濯、食事などの生活行為を放棄してしまう。住環境は廃れてゴミ屋敷状態となり、周囲から隔絶し孤独死へと至ることもある」
――なぜ孤独死は男性に多いのでしょうか。
「現役の頃は地域の行事に参加できず、妻を通じた交流しかなかった。そんな退職後の男性が孤立してしまうというパターンがある。介護の問題もある。親につきっきりだと地域と関わる時間がなく、周囲も異変に気づけない」
「自ら周囲との関係を断つ人もいる。人の世話にはなりたくないというプライドを持つ男性は多い。その他、人の世話になるのは申し訳ないという遠慮や人間不信など、様々な感情が地域との間に距離を生んでしまう」
孤独死予防へ挨拶や食事
――対策はありますか。
「男性本人に、自分から地域と関わろうと思わせるのが大前提だ。地域ぐるみで顔を見かけたらあいさつを交わすなど、接点をつくるとよい。地域の催し物も効果的。男性介護者の集いなどは、悩み相談の場にもなる。勤務先の企業が退職前に地域のシルバー人材センターへの入会を勧め、地域交流を提案するのも策だろう」
――地域に溶け込むのを拒む男性にはどうすれば。
「地域住民は自分の身近で孤独死が起きてほしくない、と心から願っている。その思いのあまり、他者と関わろうとしない人にも無理に介入するケースがあるが、それはいけない。拒まれれば、住民は厚意をむげにされたと幻滅し、これ以上の接触は避けようと考え、孤立がより深刻化する恐れがあるためだ。自ら孤立を選ぶ人には、行政の力を借りる方がよい」
「単身の男性高齢者を一律に考えては、孤独死を防ぐことはできない。本当は地域と関わりたいと思っているのか、それとも一切の接触をしたくないと考えているのか。そうした個別的な性格を把握するには根気強く見守る姿勢が必要だ。その意味でも、地域住民が果たす役割は大きい」
(聞き手は田村匠)
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賃貸住宅での実態調査 発見遅れ、原状回復の費用かさむ
女性より男性の方が発見が遅い、病気がありながら医者にかかっていないケースがある――。賃貸住宅の入居者向けの「孤独死補償」を手掛ける保険会社の調査などから孤独死の実態が浮かび上がってきた。
まとめたのは日本共済(東京・千代田、松田隆社長)。賃貸住宅の入居者向けの家財保険を扱う。通常の補償に加えて、孤独死補償を始めたのは2012年10月。契約に占める単身高齢者の比率が高まるなか、誰にもみとられずに部屋で死亡し、発見が遅れる例が増えてきたためだ。
発見が遅いほど部屋の清掃等にお金がかかり、遺族が多額の費用を求められることもある。このため、同社は契約者を対象に、孤独死によって発生した部屋の清掃費や遺品の片付け費用を補償するサービスを無償で加えた。
同社が認知し、支払い対象とした孤独死件数は13年に133件、14年は158件と増加傾向で、15年は180件。約8割が男性だった。
死亡原因別にみると、心疾患が最も多く31%、自殺が10%、脳疾患が7%などとなっている。がんなどの病気にかかっていながら通院の形跡がなかった例もあった。金銭的困窮や社会からの孤立など、生活の厳しさの一端がうかがえるという。
孤独死した場合、男性は女性に比べ発見が遅れがちであることもわかった。発見が遅いほど、部屋の修復や清掃、消臭などに費用がかかっていた。同社が扱った案件の中には、原状回復費用で200万円以上求められたケースもあった。
孤独死が増えれば、単身者の賃貸住宅への入居が家主側から敬遠されるなど、生活現場で支障が生じることも考えられる。家主側にとっても、部屋の借り手が見つからないといったリスクが増える恐れがある。日本共済は「逸失家賃」を補償するような家主向けの保険も開発中だ。
松田社長は「単身世帯が増えるなか、孤独死は珍しいことではなくなってきている。社会全体の問題としてとらえ、対処すべき時期にきているのでは」と指摘している。
(編集委員 篠山正幸)