介護費用の目安は 自宅で総額300万~400万円程度

筧ゼミの「介護に備える」の2回目は、実際に介護状態になったときに払う費用について取り上げます。引き続き宗羽士郎君が発表します。介護費用はどれくらいかかり、どんな準備をすればいいのでしょうか。
筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

 私もそろそろ介護のことを考えたほうがいい年齢になってきました。でも「佳人薄命」と言われるので心配ないかしら。

宗羽 ……。公的介護保険は介護が必要な度合いに応じて2段階の「要支援」と5段階の「要介護」に分かれているのは前回話しました。公的介護保険で賄える限度額は地域で異なりますが、自宅介護の標準的な例では最も重い要介護5で月に36万650円強です。

屋久仁 そのうち利用者負担は費用の1割、所得が多いと2割でしたよね。

宗羽 限度額まで使うケースは少ないのですが、要介護5の人が仮に限度額まで使うと1割負担なら3万6065円、2割なら7万2130円です。

 でも一定金額以上は払い戻してくれるという仕組みもありますね。

宗羽 はい。高額介護サービス費といいます。一般的な所得なら3万7200円が最終的な負担額の上限で、これを超えると払い戻してくれます。昨年8月からは、夫婦世帯で収入が520万円以上の現役並みの所得の人は最終負担額の上限が4万4400円に上がりました。

屋久仁 実際に介護でかかるのは、最大でこの最終負担額ですか。

宗羽 そうともいえません。生命保険文化センターの調査では実際に払った費用の平均は自宅介護の場合で月4万5000円でしたし、10万円を超えている人も1割あまりいます。

屋久仁 え、どうしてでしょうか。

宗羽 介護に詳しいファイナンシャルプランナー(FP)の柳沢美由紀さんは「要介護度別の限度額を超えた部分や、配食サービスなど介護保険の対象外の費用はともにすべて10割負担で、これらは高額介護サービス費が適用されません」と指摘しています。

屋久仁 だから人によっては高額になるのですね。

宗羽 要介護度が重いと介護保険での自己負担に加えてこうした「超過部分」や「対象外部分」も金額が大きくなりがちです。

 介護の期間はどれくらいですか。

宗羽 やはり生命保険文化センターの調査では、平均4年11カ月でした。自宅介護の月平均費用4万5000円をかけると約266万円です。ただしこれには自宅のバリアフリー化のため段差をなくしたりするといった一時的な支出が含まれていません。こうした出費は百数十万円かかることもあります。柳沢さんは「自宅での介護は大まかに総額300万~400万円はみておくべき」と言います。要介護度が重ければ実際の費用はもっと膨らむかもしれません。

 施設に入居するとさらに費用がかさみそうね。

宗羽 施設では介護サービス以外に食費や住居費などの負担もかかりますから、費用は大きくなりがちです。施設のうち負担を最も抑えられるのが特別養護老人ホームで、月に5万~15万円程度で賄えることが多いようです。ただ入所を待つ人がとても多いし、昨年4月からは原則要介護3以上に限定され、とても狭き門です。

屋久仁 一方、有料老人ホームは高そうです。

宗羽 高額な入居一時金を払って、さらに月に15万~30万円程度かかるのが一般的な目安です。一時金と5年程度の入所で、計2000万円程度かかることも珍しくありません。

 もう少し費用が低い施設もあるはずですが。

宗羽 グラフに入っていませんが、安否確認などのサービスがあるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のうち、介護費用がほぼ定額で施設内介護がついているタイプでは月10万~25万円程度と有料老人ホームよりは安くすみます。こうした施設でも、介護が長引くのに備えて1000万円くらいは考えておいたほうがいい気がします。

屋久仁 結構かかりますね。民間の介護保険も考えた方がいいですか。

宗羽 多くのFPは「貯蓄で備えるのが基本」と言います。介護状態になる人が急に増えるのは80歳以降ですが、厚生労働省の統計では80~84歳でも介護保険の受給者の比率は男性で18%、女性で27%と一部です。85~89歳でも男性で32%、女性で49%です。

 かなり高齢でも介護が必要ない人はいるのね。

宗羽 人生のお金のニーズは介護だけでなく医療、家のリフォーム、趣味など様々だと思います。FPの内藤真弓さんは「貯蓄を増やしておけば介護に充てられるし、介護にならなかったときはそれ以外に使える」と指摘しています。

屋久仁 でも自分がどうなるかは分かりませんし、やはり心配です。

宗羽 どうしても不安な場合は、退職金の一部で民間介護保険に入るのも一案です。例えばソニー生命保険の「5年ごと利差配当付終身介護保障保険」は60歳で約253万円を一括で払い込むと、要介護2以上になれば40万円の一時金と、同じ状態が続く限り終身で年40万円の年金がもらえます。類似の保険は他にもありますが、割安なものを探し、保障額も抑えることが老後資金を圧迫させないために大切です。

■60歳で介護用通帳を作成
ファイナンシャルプランナー紀平正幸さん
例えば介護資金を夫婦で600万円とします。しかしそのために民間介護保険などで別枠で備えるのは、資金使途が限られるのでお勧めしません。介護資金を含めた老後資金全体をなるべく大きくできるように準備しましょう。定期預金で積み立てるだけでなく、介護が必要になるまでの数十年間を生かして、余裕資金の一部でリスクを抑えながら資産運用をする選択もあります。個人型確定拠出年金や少額投資非課税制度などの枠を優先して使うことが大事です。
そのうえで例えば60歳になったとき、介護用の通帳を作って600万円を入れておきます。退職金から振り向けてもいいでしょう。生活費や趣味など介護以外で使わないようにします。「介護貯金」が明確にあると心理的に安心感がありますし、使わないで済めばそれにこしたことはありません。(聞き手は編集委員 田村正之)

[日本経済新聞朝刊2016年7月16日付]

近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし
注目記事
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし