「梅」息長いヒットへ 女性の健康志向が後押し
日経BPヒット総研 渡辺和博
古来、申(さる)年の梅干しは縁起が良いと言い伝えられている。平安時代に、村上天皇が梅干しと昆布茶によって病気が治ったのがたまたま申年だったからであるなど、その理由は諸説ある。これまでにも梅干しに含まれるクエン酸が持つ疲労回復効果や、殺菌力などの効果・効能が知られていた。申年の2016年、梅干しや梅関連商品がちょっとしたブームになっている。
きっかけになったのは16年春以降テレビのバラエティー番組が梅干しのダイエット効果について立て続けに取り上げたことだ。これは、14年10月に和歌山県高等専門学校の奥野祥治准教授らのグループが公表した、バニリンという梅干しに含まれる物質に肥満などの生活習慣病を予防する効果が期待できるという研究結果に基づいたものだった。
完売続きの「梅酢」
ともあれテレビ放送をきっかけに梅干しはスーパーの店頭などで好調に売れた。ここまではよくある話だ。筆者はこの梅ブームはもう少し長く続くと考えている。その根拠の一つが、これまでにはない新しいジャンルの梅関連製品が売れ始めていることだ。
その一つとして、糸井重里氏が主宰するウェブメディア「ほぼ日刊イトイ新聞」の企画商品で登場したうめ酢が大きな人気を博している。16年6月中旬に発売した飯島奈美さんの「紀州の、うめ酢」で、発売直後に完売し、1カ月後の追加発売したものも、すぐに売り切れた。
梅酢は梅干しを作る過程で出てくる副産物の、塩味と梅風味の酸味の強い液体だ。これまでは大半が捨てられていた。梅干しの生産地では、調味料として使われていたものの、その強い塩味と酸味のせいで、広く一般に使われることはなかった。
今回の「紀州の、うめ酢」では『難のがれレシピ』という使い方と梅酢に関する知識ををまとめた小冊子も同時に発売している。購入者に健康への強いあこがれを持つ人を想定していることが、タイトルからもうかがえる。
NHKからブレイクした「さしす梅干し」
もう一つの梅関連の新ジャンル商品は「さしす梅干し」。従来の塩や紫蘇で漬けた梅干しとは違い、「砂糖(さ)、塩(し)、酢(す)」で漬けてから干すというものだ。通常の梅干しにくらべて塩味が少なく、ピクルスのような味わいで酸味もマイルドになり食べやすい。らっきょうや新生姜の漬けものと同じような味わいで、以前から信州地方では作られていたという。
16年5月30日にNHKの「今日の料理」で紹介されて以降、梅干しの本来の美味しさを生かしながら塩分を減らせる方法としてネット上の口コミで大きく話題になった。
従来の梅干しは、塩だけで漬けた白干しを脱塩し塩分濃度を調整したのちにはちみつ風味やかつお風味、昆布風味などの調味液に漬け直して味付けしたものが主流になっていた。こうした味のバリエーションはさまざま試みられている。最近ではブドウジュースやバルサミコ酢に漬けたピクルス感覚の梅干しも登場してきている。
団塊ジュニア女性が後押し
筆者が梅干しブームが少し長く続くと考えている理由は、単に新ジャンル梅関連商品のバリエーションが増えてきたためではない。現在、さまざまなヒット商品の生み出す中心的存在となっている団塊ジュニアの女性消費者が一段と健康志向を強めているからだ。この層は1970~1973年生まれが多く、今年43~46歳になる。そろそろ中年への入り口にさしかかり、健康により敏感になっている。同時に30代のころのように運動や摂食などの努力を続ける気力もやや衰えてきている。
自然志向が強いのもこの世代の特徴であるため、梅干しは無理せず健康につながるかっこうのアイテムだといえる。「腸活」と呼ばれる現在の発酵食品ブームも同じ流れのなかにある。
日経トレンディ16年7月号が取り上げた16年の上半期ヒット商品のラインナップを見ても、こうした無理しない団塊ジュニア女性をターゲットにしたヒット商品が数多く生まれている。たとえば乳酸菌ショコラやグリーンスムージー、衣料品のスカンツ&スカーチョなどが挙げられる。
今年後半のさまざまなヒット商品の浮き沈みについて、43~46歳の「無理しない女子」をキーワードにチェックしてみると面白いはずだ。
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。86年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の商工会議所等で地域振興や特産品開発の講演やコンサルを実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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