外国人の投機的な売買動向を知るには(窪田真之)楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト

「今の日本株の短期的な動きを決めているのは外国人投資家だ。とりわけ、足の速いヘッジファンドなどによる先物売買が相場の急騰・急落に大きく影響している」

私は2013年まで25年間、日本株のファンドマネジャーをやってきました。その大部分が年金や投資信託での長期投資でした。3~5年の投資期間を想定し、投資価値が高まると考える銘柄を選別して投資していました。

ただし、その中で銘柄選別を一生懸命やっても意味がない時期がありました。1990年代の前半です。バブル崩壊後の日本では何を買っても、下がるのが当たり前でした。そのころの私は、銘柄選別よりも日経平均先物やオプションの売買に熱中していました。先物やオプションの短期売買しか、安定的に利益を積み上げていく方法がなかったからです。

先物の短期売買で重要なのは、需給の分析です。投機筋の買いポジションや売りポジションの変動を読みながら、誰が何を考えてどう動くか、一日中考えていました。そのとき、一番重視していた需給データのひとつが裁定買い残高の変動です。

裁定買い残高は、主に外国人投資家による株価指数先物の投機的な売買動向を見る上で有効です。外国人投資家が先物を買うと、先物が現物に対し一時的に割高になるので、裁定業者(主に証券会社)が先物売り・現物買いの裁定取引を実行します。すると裁定買い残高が増えます。

一方、外国人投資家が先物を売ると、先物が現物に対し一時的に割安になるので、裁定業者が先物買い・現物売りを実行し、裁定取引を解消します。すると裁定買い残高が減少します。

今の日本株の短期的な動きを決めているのは、外国人です。とりわけ、足の速いヘッジファンドなどによる先物売買が、短期的な急騰・急落に大きく影響しています。したがって、裁定買い残が増加するとき株価は上昇し、裁定買い残が減少するとき株価が下落する傾向が鮮明です。

裁定買い残高はその時々の投資環境によって一定のリズムで変動します。ひとたび減少トレンドに入ると、一定期間減少が続きます。増加が始まると、一定期間増加が続きます。慎重な判断が必要ですが、増加・減少の転換点となるところで、きちんとデータを見て判断すれば、思い切って売買することができます。

90年代前半の私の売買に勝つ方法は「裁定買い残高が減少を続けるときは、外国人の先物の売り圧力が強いとみて、先物の売り建てで攻め、裁定買い残高が上昇に転じるときは、外国人の先物の買いが増えるとみて、先物の買い建てで攻める」ことでした。

私はオプション取引では得したり損したりの繰り返しで、安定的に勝つことはできませんでしたが、先物の短期売買では、かなり収益を稼ぐことができました。

今日、ご紹介したいのは東京証券取引所が毎週発表している裁定買い残高の変動の見方です。当時は今みたいに情報機器が充実していませんでしたから、私は裁定買い残高のデータを、大手証券会社からファクスで取り寄せ、自分のファイルに打ち込んで管理していました。今は様々な情報機器で、裁定買い残高の変動を見ることができます。

グラフで見ると、今年に入ってからの裁定買い残高の減り方は、2008年のリーマン・ショック時と同じくらい急です。その意味で、今はリーマン・ショック並みの規模で外国人が先物を使って日本株を売ってきていることが、わかります。

前述したとおり裁定買い残高が高水準のときは、外国人による先物の投機的な買いが大きいので、何らかのきっかけで外国人が買いポジションのアンワインド(巻き戻し)に動くことを警戒していなければなりません。

逆に今のように裁定買い残高が1兆円を割っている(7月8日時点で5772億円)ときは、ここからリーマン・ショック並みの危機が起こらない限り、さらに外国人が先物を売りこんでくる可能性は低いと考えられます。買い残高はリーマン・ショック時以来の低水準となりました。

ただし、世界的な危機が起これば、裁定買い残高が2000億~3000億円まで減ることもあり得ます。08年のリーマン・ショック時がまさにそうでした。裁定買い残高だけを見て、相場の転換点を知ることは難しいでしょうが、そろそろ転換点が近づいていると考えてもいいかもしれません。

株式投資は常に、景気や企業業績といったファンダメンタルズと需給の両方を見ていなければなりません。需給の面ではそろそろ相場の転換点が近づいていると考えることができても、ファンダメンタルズの面ではまだまだ不安材料だらけです。今後とも需給とファンダメンタルズの変化を慎重にウオッチしていく必要があります。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏とレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏が交代で執筆します。
窪田 真之(くぼた・まさゆき) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。87年住銀バンカース投資顧問(当時)に出向、日本株ファンドマネジャー兼アナリスト。90年住友銀行証券部海外業務開発プロジェクトチームに異動、91年ニューヨーク駐在。92年住銀投資顧問(当時)日本株ファンドマネジャー、99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー、2014年2月楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト。15年7月から所長兼務。大和住銀投信投資顧問では日本株の運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。99年の運用開始から13年まで担当した「大和住銀日本バリュー株ファンド」(愛称「黒潮」)は長期に安定した成績で知られる。金融庁企業会計審議会の会計部会臨時委員も務める。著書に「投資脳を鍛える!株の実戦トレーニング」(日本経済新聞出版社)、「クイズ 会計がわかる70題」(中央経済社)など多数。
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