今だからはまる、大人のピアノ(第2回)誰かのために自分で弾きたい

(写真:鈴木愛子)
(写真:鈴木愛子)
30代、40代になってからピアノにはまっている、という人が少なくありません。忙しい中で時間を捻出し、熱中する理由は何なのでしょうか。自らも5年前にピアノを再開した津田千枝さんが、「大人のピアノ」に魅了されている男性2人にお話を聞きました。

第2回でお話を伺うのは、医師の高畠琢磨さんです。東京都江戸川区で、小児科医院の院長を務めておられます。日ごろレッスンを受けているヤマハミュージックアベニュー銀座でインタビューさせていただきました。

■友人の結婚をピアノで祝ってあげたい

(写真:鈴木愛子)

―― よろしくお願いいたします。まずはピアノを再開されたいきさつを教えてください。

5~6歳のころに2年ぐらいピアノを習っていました。私の実家は富山で、小児科の診療所を経営しています。私は大学を卒業後、金沢の病院で小児科に勤務していました。小児科だけでなく、保育園の経営も勉強させていただくために今の勤務先に移りました。金沢にいたときはかなり激務だったのですが、こちらにきて少し余裕ができたのでまた始めました。

富山の実家にグランドピアノがあるんですが、それを弾きたいなと思いまして。実は妹が高校も大学も音楽の学校に行って、現在フリーの音楽家として活動をしているんですが、それを見ていて少しくやしかったんですね。

高畠琢磨さん:医師。都内の小児科医院の院長を務める(写真:鈴木愛子)

―― 現在、お仕事はどのような状況なのですか。

小児科医院に保育園を併設した施設で、今年の4月からは診療のかたわら、病児保育も始めました。お母さんたちが仕事に行けるよう、病気のお子さんを1日預かります。だいぶ評判もよく皆さまにご利用いただいています。

―― それはかなりお忙しいですね。ピアノの練習時間を確保するのは大変でしょうね。

毎回練習不足で、先生に対しては気まずい思いをしていますね。

―― 実際にピアノを再開されたのはいつごろですか。

1年半ぐらい前ですね。今は月3回、個人レッスンを受けています。

―― 再開された直接のきっかけは何ですか。

私の友人の結婚式があったときに、ピアノの弾き語りをした男性がいたんです。友人の職場の上司ということでしたが、「わぁー、かっこいいなあ」と思って。私は仲の良い友人が何人かいるのですが、その人たちの結婚式で自分も弾き語りをしてお祝いしてあげたいなと思ったんですね。その方が弾いていたのは中島みゆきの「糸」でした。その日のために1曲勝負で練習されていたような感じでしたが、その一生懸命さがとてもかっこいいなあと思えたんです。

―― それはすてきですね。それまでにもいろいろな方がピアノを弾いているシーンを目にされていたと思うんですが、なぜその方をみてピーンときちゃったんでしょうか。

なぜでしょうね。これまで、演奏は受け身で聞くだけだったんですが、とにかく「友達に弾いてあげたい」という気持ちになりました。弾き語りといっても歌のほうは練習不足ですが。

―― ご実家で、5歳のときにピアノを習い始めたきっかけは何だったのですか。

あまり覚えてないんですが、多分自分から習いたいと言い出したと思います。そして1年ぐらいで飽きちゃったと思います。当時は周りにピアノをやっている男の子もいなかったし、私は3人きょうだいの次男なんですが、長男もピアノはやっていません。妹は私がピアノを習ったのをきっかけに始めて、さっき申し上げたように音楽家として活動しています。

―― 小さいころから家の中にピアノの音は聞こえていた環境だったのですね。今、ピアノを再開したことを知ってお母さんや妹さんはいかがですか。

ちょっとうれしそうですよね。妹も両親も音楽が好きなので、共通の話題ができると楽しいですね。私はいま自宅に電子ピアノを持っていますが、習ったばかりの曲を妹に弾いて聞かせると、「まだまだね」みたいな反応ですね。

■無心になれて、リラックスできる

―― 今、お忙しい中で練習をされているわけですが、どのように時間を見つけているのですか。

休みは月に2、3日ですし、今また少し忙しくなってきているので、朝起きて外来が始まる前に10分か15分ほど練習します。それでも最近は時間がなかなかとれなくて……。先生も理解してくださって、練習ゼロのまま次のレッスンに臨んで、最初の10分は前回の復習ということもあります。個人レッスンなので先生にフォローしていただいて、徐々にですが前進はしています。

―― 忙しすぎて、ちょっと1カ月ぐらいレッスンをお休みしたいと思うことはないですか。

まあ、たまにありますけど、レッスンに行けば絶対楽しいというのは分かっていますから。行くまでは少し疲れたなというときはありますが、行くと本当にすっきりするんです。ストレスがたまったなと思うときは特に、気分転換になりますね。レッスンが終わるころには、今日は来て良かったなあと思うし、先生にも「気分転換になりました」とお礼を言いますね。

―― 結婚式の弾き語り以外に、近い将来で何か目標はありますか

技術的な目標では、初見で楽譜をある程度弾けるようになればいいなと思います。まだまだですね。2、3年かかるかもしれませんね。

(写真:鈴木愛子)

―― お友達の結婚式で弾き語りを披露されたのは面識のない方ですよね。ピアノを再開するきっかけになったということをお伝えしたら喜ばれそうですね。ご実家のグランドピアノでお母様に弾いてあげたい曲は何かありますか。

今弾くと、1年やってこの程度なのと言われちゃいますので……(笑)。でも、それを目標として宣言しましたから、これからは練習もやる気が出ると思います。

―― ご家族はきっとうれしいでしょうね。ちなみに私がピアノを再開したきっかけも、実家のグランドピアノなんです。実家に帰ったとき母が「ピアノがもったいない」とぼそっと言ったんです。「自動演奏の機械とかをつけたらピアノの音が出るかしら」と言うので、だったら私が弾けばいいのかなと思って、再開することにしたんです。いま実際にピアノを弾いているときは、どんな気持ちですか。

無心ですね。それがリラックスできる理由だと思います。まだ曲にあまり慣れてないうちは、譜面を見て頭を動かして手を動かして、普段使わないような部分を使うので、それこそ、ちょっと難しいクイズを解いたような気持ち良さがありますね。

―― 小さいころにピアノを少しやっていたのにやめてしまったという方は多いと思うんですが、これから始めてみたいなと思っている方へ何かメッセージをお願いできますか。

これまで、憧れるけども実際に自分でやってみるところまではなかなかいかなかったのですが、ピアノはかっこいいなという憧れだけでは終わりたくなくて一歩踏み込みました。いざ始めてみると先生もフォローしてくれますし、大変じゃないかなとか通えるかなという心配もなくなりますので、踏み込んでみてもいいんじゃないかなと思います。始める前に体験レッスンもできますが、それも楽しかったですね。

実は、もう一つ目標があるんです。医院に来るお子さんたちの前で、アニメの歌なんかを弾きたいんです。

■未来の夢の中にはやはりピアノがある

―― いずれはご実家に帰って医院を継がれるわけですね。ピアノの弾けるお医者さんって、すてきですね。

子どもの病気を診るだけでなくて、子育てしやすい社会づくりをするのが小児科医の取り組みだと考えているので、実家を継ぐときは、保育所を併設した小児科医院を開設したいと思っています。子育て支援ができれば地域活性化にも役立つと思うので。そのために、いまこちらでも修業中なんです。

―― 将来、どんな医院になりそうですか?

実家にあるグランドピアノを置く場所を作りたいですね。妹が許可すればですが(笑)。今考えているのは、プレイルームのようなカラフルで楽しい待合室を作って、そこにグランドピアノを置きたいですね。

―― 将来の夢の中に、やはりピアノは一緒にあるのですね。

そうなったらかなり幸せですね。実現できるんじゃないかな、と思っています。

―― 医院がオープンされるときにはぜひ拝見したいですね。今日のお話が実現しました!となったらうれしいです。

(写真:鈴木愛子)

*  *  *

高畠さんも私も、普段レッスンで通っているヤマハミュージックアベニュー銀座で、ピアノを前にリラックスしてお話を伺いました。未来の夢をいきいきと自然に語られる様子に、ピアノの不思議な力を実感しました。

(第3回に続きます)

津田千枝(つだ・ちえ)
 大手外資系通信社でセールスマネジャーを務める。シンガポールで8年間の勤務経験がある。旅や観光、地域振興にも詳しく、インバウンド向けの地方観光の広報コンサルタントも現職で行っている。小型船舶免許も保有し、瀬戸内海を自由にクルーズするのが当面の夢。香川県出身。

[取材協力:ヤマハ音楽振興会、ヤマハミュージックアベニュー銀座]