荒れ相場ではコンセンサスを疑え(藤田勉)日本戦略総合研究所社長

「英国のEU離脱決定は大きな教訓を投資家に与えてくれた。コンセンサスを疑うことの重要性だ」

英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票の結果は、大きな教訓を投資家に与えてくれた。それは、コンセンサスを疑うことの重要性だ。

筆者は、ファンドマネジャー、ストラテジストなどとして証券界で33年を過ごした。その経験から、市場のコンセンサスが間違うことは数多いということを学んだ。そして、果敢に間違ったコンセンサスと逆の投資行動をとれば、ときとして大きな収益を生むことがある。

コンセンサスが間違っているかどうか見極めるには、以下の2つの視点が重要となる。英国の事例を取り上げながら分析してみたい。

第1にグローバルな視点だ。日本では英国のEU離脱を「愚かな判断であり、自殺行為」「英国は大変な混乱に陥る」と批判する声がある。そして、「リーマン・ショックの再来」などといった悲観的な見方がまん延し、離脱決定直後の6月24日には日経平均が約8%下落した。

ところが、世界の株価は比較的底堅かった。24日の下落率は米ダウ工業株30種平均が約3%、当の英FTSE100も約3%にとどまった。年初来の騰落率(7月21日時点)を見ても、MSCI世界株指数は約3%上昇している。主要国中、最も株価が上がっているのが英国(約7%上昇)であり、米国も約6%上昇している。一方で、日本株は約12%下落している。

つまり、世界の株式市場は英国離脱は当面、大きな影響が出ないと判断しているといえよう。なぜなら英国離脱は不可避だが、通告までにはかなり時間を要する。通告後の交渉期間は2年間あり、さらにEUの同意後も無期限で交渉期間延長が可能となる。この間、英国はEU加盟国であり続ける。英国政府の資料によると、10年以上かかることも考えられるという。

第2に歴史的な視点だ。ドイツとフランスは、ナポレオン戦争、普仏戦争、2度の世界大戦などを戦い、欧州を大きな戦乱に巻き込んだ。そこで、1952年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が、67年には独仏を含む6カ国による欧州共同体(EC)が発足。93年にEUとなった。つまり、EUの本質は独仏不戦のための安全保障同盟なのである。

発足当初のEUは加盟国の経済水準、文化、社会が比較的近い西欧同盟だった。

ところが冷戦終結後、EUは経済水準の低い東欧諸国を加盟させることにした。歴史的にロシアと多くの戦争をした独仏は、ロシアに隣接する東欧諸国をEU陣営に引き入れる必要があったからだ。

EU加盟国の国民はビザなしで他の加盟国で働くことができる。東欧諸国を加盟させれば、多くの低賃金労働者が流入することは不可避だ。人口減少に悩むドイツは移民を歓迎するが、英国は元々、旧植民地からの移民が多い。ドイツが欧州一の金持ちと思われがちだが、実際には、英国の1人当たり国内総生産(GDP)はフランスやドイツを上回る。だからこそ英の過半数の国民は、EU離脱は国益にかなうと判断したのだ。

英国が離脱の国民投票をするのは、これが初めてではない。73年に英国はECに加盟したが、翌年にはさっそく離脱を主張した。ECが譲歩したので、75年の国民投票では残留となった。このように英国の外交交渉はしたたかだ。英国とEUは交渉事なので互いに厳しい表現を使っているが、最終的にはうまく妥協点を見つけることだろう。

以上を踏まえると、英国のEU離脱問題は短期的にどうなる性質のものでもないし、悲劇的な結果になるとも思えない。これほど日本と海外では英国離脱についての認識が異なっているのである。

過去にも間違ったコンセンサスの例は数多い。その代表的な例として、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)がある。これらの国々は成長力の高い新興国として注目を集め、BRICs関連の投信は日本でも大いに人気だった。

しかし、ブラジルとロシアは、その後マイナス成長に陥り、株式や為替相場が大きく下がった。中国の株式や為替相場もさえない。こうして、BRICsは今では、すっかり死語になってしまった。

日本でも2013年当時は、「黒田バズーカ」でデフレ脱却実現といわれ、銀行株や不動産株が大きく上がった。しかし、最近は再びデフレ懸念が台頭して、銀行株や不動産株は大きく値を崩した。

今後、注目されるテーマは米大統領選だ。下馬評を覆して大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が勝つことがあるかもしれない。そのときに日本の株式市場はどのような反応を示すのだろうか。

日本では「トランプ氏は大統領にはふさわしくない」という論調が目につく。しかし、前回6月13日付コラム「米大統領選、どちらが勝っても株高期待」で述べたように、米国では議会の権限が大きい一方で、大統領の権限は意外に小さい。大統領は予算案や法案を議会に提出する権限を持たない。

歴史的に見ても、外交経験がまったくなかったロナルド・レーガン大統領は冷戦を終結させた。あるいは経済の専門家ではないビル・クリントン大統領(元アーカンソー州知事)が、情報スーパーハイウェー構想を成功させ、IT(情報技術)革命を実現した。このように米国は大統領一人に過度に依存しない統治機構を持つ。

相場が荒れたときこそ、コンセンサスを疑ってみることが有効だ。そのためにも、歴史とグローバルという軸を通じて、世界の様々な事象について分析する訓練をしておくことが望ましい。

藤田勉(ふじた・つとむ) 山一証券、メリルリンチを経て、現シティグループ証券顧問。2016年に日本戦略総合研究所社長。10年まで日経ヴェリタス人気アナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。慶應義塾大学「グローバル金融制度論」講師。SBI大学院大学教授。内閣官房経済部市場動向研究会委員、経済産業省企業価値研究会委員などを歴任。一橋大学大学院修了、経営法博士。1960年生まれ。
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし
注目記事
近づくキャッシュレス社会
ビジネスパーソンの住まいと暮らし