後田(以下、U):「『生命保険料控除の枠をじゅうぶん利用しましょう』と、代理店の人に言われているとのことですが、どういう経緯で出てきた話なのでしょうか」
Sさん(以下、S):「最近、出産をきっかけにマンションを購入したので、必要な保険について考えたくて保険ショップに相談に行ったんですが、その際に、金利の低さに加えて住宅ローン減税があることを理由にマンションを購入したと話したからでしょうか」
U:「なるほど。生命保険の場合、死亡保険と個人年金保険、それから介護・医療保険の3つの保険料を足して、所得税で最大12万円、住民税で最大7万円まで控除が受けられますから、フルに使いましょうということなんですね」
S:「はい。税金が安くなるというのは確実に得られるメリットなので、利用しないと損だということでした。でも、本当にそうなんでしょうか」
U:「まあ、よくあるセールストークですよね。税金が安くなるという説明はその通りです。とはいえ、そもそも3種類の保険に加入する必要はないと思うんです」
S:「なぜですか?」
U:「一般論を言うと、債務者が死亡したときにローン返済に困らないよう保険に加入する必要はあると思います。民間金融機関から住宅ローンを借りるなら、団体信用生命保険(団信)の加入が条件になっている場合が多いでしょう。また、子供さんが自立するまでの間、世帯主の万が一に備える必要もあります。ただ、Sさんのご主人も団信に加入しているのであれば、公的な遺族年金もありますし、死亡保険金の額はさほど高額にはならないはずです。それ以外の個人年金保険や介護・医療分野の保険加入は、税金が安くなるメリットより、デメリットの方が大きいと思います」
S:「具体的にはどんなことでしょうか」
U:「個人年金保険は元本割れ期間が長く、満期まで継続してもお金がそれほど増えません。金利が低い上に手数料などが高いからだと思われます。介護保険はSさんご夫婦の場合、年齢的に40年くらい先の保障を買う可能性が高くなります。そんな遠い将来まで保障内容が有効だろうか、と素朴に思いませんか?」
S:「確かにそうかもしれません」
U:「それから、医療保険は保険会社で商品設計にかかわっている人によると、保険料の30%程度が保険会社の運営費に消えるとのことです。医療保険専用ATMに1万円入金すると3000円が利用料として引かれる、というふうに想像してみると嫌じゃないですか?」
S:「嫌ですね(笑)」
U:「だから、1000万円単位のローンに関連した保険などはともかくとして、10日入院しても給付金は5万円や10万円といった保障内容であれば、入院関連のお金は自分で用意することにしたほうがいいはずなんです。ポイントの還元率が高いからといって、欲しくもない商品を買い込むのはどうだろうかと、そんな感じです」
S:「税金が安くなると言われて、一瞬『悪くないかも』と思いましたけどね」
U:「税金絡みでいうと『確定拠出年金』の利用をお勧めします。ご存じですか?」
S:「名前は聞いたことがありますが、詳しいことは知りません」
U:「5月に改正法が成立して、来年1月から現役世代は原則、誰でも加入できるようになりました。企業年金がある方でも年間14万4000円(確定給付年金しかない会社の場合など)、企業年金がない会社員の場合は年間27万6000円まで掛け金を拠出できて、この全額が所得控除の対象になりますから、生命保険料控除より大きなメリットがあります。私も最優先で利用している制度です」
S:「自分で運用を指図するわけですよね。自己責任で投資リスクをとるというイメージがありますけど、大丈夫なんですか?」
U:「リスクをとりたくないなら定期預金のような商品を選ぶこともできます。他にも金融機関の選び方など、勉強しなければならないことはありますが、いいガイドブックも増えてきています。ご主人の選択肢についても確認なさることをお勧めします。『利用しないと損』といえるのは、生命保険より確定拠出年金ですよ」
