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自立手助け、足りぬ受け皿 まず生活習慣/就労体験も 子どもみちびく居場所(下)

2016/7/13

自立援助ホームの入所者と談笑する施設のスタッフ
 虐待などの理由で親と暮らすことのできない子どもが生活する児童養護施設や自立援助ホーム。入所者は、一定の年齢に達すると退所を迫られる。多くは未成年で、大人の手助けがなければ、一人で新たな住まいや仕事を探したり、自立したりするのは容易ではない。施設を出た若者たちを支援する取り組みは、どこまで進んでいるのだろうか。

 東京都内の自立援助ホーム「あすなろ荘」。児童養護施設を出た4人が暮らす。

 今年3月に入所した18歳の女性。小売店でレジのアルバイトをしながら生活する。働くのは週5日。平日5時間、土・日曜日は8時間勤務。アルバイト代から毎月3万円の寮費を納め、施設を出た後のために5万円を貯金する。

 母親から虐待され、今春に高校を卒業するまで児童養護施設で暮らした。夜更かしで朝起きられない不規則な生活が習慣になり「一人で暮らす自信がないから」と入った。

 ◇   ◇

 あすなろ荘は、入所の際に本人と利用契約書を結ぶ。「仕事を見つけて働く」「お金の使い道を相談する」「きちんと挨拶をする」など「社会人として最低限の生活ができるよう基本を身につけさせる」(恒松大輔ホーム長)。守れないと退所となる。

 職員から将来の進路について助言を受け、自立を目指す女性は「施設を出ても、できればレジの仕事を続けたい。ここにいる間に独り立ちできる力をつけたい」と語る。

 社会福祉法人カリヨン子どもセンター(東京・文京)が都内で運営する男子自立援助ホーム「カリヨンとびらの家」と女子自立援助ホーム「カリヨン夕やけ荘」には、男女計9人が働きながら生活している。入居は半年から1年程度。スタッフと一緒に暮らし、家事やコミュニケーション能力を身につける。

 企業や個人からの寄付をもとに、入居する子どもや退所者に、定時制高校などに通うための奨学金や就職活動に使う支援金を支給している。「『フリーターでいい』などと、将来像を描けないでいる子どもたちの自立を促す」(石井花梨事務局長)狙い。

 親の死亡や貧困、虐待などで家庭で暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設。全国に約600カ所ある。入所は1~18歳までだが、必要性が認められれば、20歳までの入所延長ができる。ただ、高校進学しないとか、中退の場合に退所を促される例が多い。そういう子どもには、義務教育を終えた若者対象の自立援助ホームが「最後の受け皿」の一つだ。

 児童養護施設で暮らす子どもは約3万人、毎年1000人以上が退所する。退所後に自立援助ホームに入りたくても、国内全体の入居可能人数は400人程度で支えきれない。自立援助ホームに入る子どもには学力だけでなく一般的なマナーすら身についていない例も多く、就職先も限られるという。虐待や不適切な養育環境での体験から心に傷を持つ例も目立つ。

 全国自立援助ホーム協議会の事務局長を務めるあすなろ荘の恒松ホーム長は「誰にも相談できずに、行き場を失い、ホームレスになる若者もいる。施設退所後の支援の拡充は喫緊の課題」と訴える。

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 社会福祉法人が運営する「アフターケア相談所ゆずりは」(東京都国分寺市)は、児童養護施設や自立援助ホームなどの退所者に対し、アフターケア事業を手掛ける。

 高橋亜美所長は「虐待など幼くして過酷な体験をした子どもは、学習やコミュニケーション能力の低下や欠如、自尊心の欠落がみられ、社会に適応しづらい」という。ゆずりはでは、生活相談のほか、行政機関での諸手続きや住まい探しにも付き添う。高卒認定資格取得の学習会やパソコン教室なども開く。就労経験のため今年から「ゆずりは工房」を始め、退所者がジャムづくりに取り組んでいる。

 施設退所者と企業の橋渡しをする企業もある。人材紹介のフェアスタート(横浜市)は、児童養護施設などを出た若者に就職先を無料で紹介する。2011年に事業を開始、製造業などに計61人が就職した。9割が正社員だ。

 施設退所後、いったんは就職したもののなじめず短期間で退職、同社のあっせんで希望するIT会社へエンジニアとして転職を果たした中島希望さん(24)。「最初は給料さえ高ければどこでもいいと決めてしまった。2度目は仕事へのイメージを持てたことで転職できた」と話す。

 同社の永岡鉄平社長は「人手不足で、施設出身かどうかによらず若者を採用し育てたいという中小企業は増えている。意欲も能力も高い若者もいる」と語る。巣立ちのための両者のマッチングが要だ。

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■自立援助ホーム対象年齢、22歳の年度末まで

 自立援助ホームは、義務教育を終えた20歳未満の若者に、寝食の場を提供し、就労や生活相談などにものって自立を支援してきた。5月の法改正で対象年齢を就学中に限り22歳の年度末までに引き上げ、来年度施行する。

 定員は5~20人。社会福祉法人やNPO法人が運営する。月3万円程度の利用料が必要な施設が多い。全国自立援助ホーム協議会によれば、2014年時点で全国に約120カ所あり、暮らす子どもは約440人。

 対象年齢の引き上げは、居場所を提供し、子どもが大学や専門学校などに進学できるようにし、よりよい就労条件を得やすくするためだ。

 ただ、「施設内でも、働く子と学校へ通う子の『格差』が生まれ、共同生活に影響が出る」と指摘する施設関係者もいる。「進学する子を優先すれば、本当に居場所が無い子を受け入れられなくなる」と懸念する声がある。

 この連載は大橋正也、小柳優太、田村匠が担当しました。

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