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不動産リポート

中古住宅の流通拡大 住宅診断、価格交渉の材料に 不動産コンサルタント 長嶋修

2016/7/13

新築住宅も買って住んだ瞬間から中古住宅になる。その中古住宅市場についていうと、取引数や新築住宅に比べた流通比率は限定的にとどまっている。これまで適正な価格査定手法や金融評価などの仕組みが整備されてこなかったこと、また建物の劣化について見極めるためのホームインスペクション(住宅診断)といった慣行が根付いてこなかったからだ。「中古住宅はよくわからない」という漠然とした不安から、新築へ流れるという状況が長らく続いてきた。

ところが数年前に国が中古住宅・リフォーム市場の育成に本格的に乗り出すと、市場のプレーヤーも増加。中古住宅に対する不安や懸念が以前より払拭されやすくなったのか、中古住宅の流通比率も徐々にではあるが高まりつつある。

とはいえ、建物の価値が一律に25年程度でゼロになる価格査定が行われている中で、全国に6000万戸以上ある中古住宅(出所は不動産流通経営協会)の実際の品質はまちまちだ。価値ゼロとされても、まだ十分に長く使えそうなものもあれば、査定上の価値は残っていても今後必要な修繕費などを考慮すると割高に思えるものなどが混在する。

ある中古住宅の購入を検討していたOさんから依頼されたホームインスペクションの実例をひとつご紹介しよう。首都圏某市に建つ築9年の木造住宅。立地もよく、建物に目立った劣化も見られなかったが、過去に雨漏りがあったようだとのこと。

写真1 雨漏りがしていた箇所をシーリング材で塞いでいる

雨漏りがしていた箇所はゴム状のシーリング材で塞がれており現在は問題ないものの、このゴム材が劣化したり隙間が空いたりすれば雨漏りが再発する可能性が高い(写真1)。ゴム材の平均的な寿命は一般的に7~10年程度とされているが、定期的に目視で点検をしておく必要はあるだろう。

日本の住宅の設計・建築技術は世界的にみても高いのものの、結局のところサッシや排気口など、建物に穴を開ける部分の防水についてはこうしたゴム材に依存しているので、定期的な点検は築年数によらず必要だ。

次に建物全体が傾いていることを発見した(写真2)。数値にして1000分の5程度。10メートルの間隔で5センチの傾きがあることになるので、敏感な方なら気づくはずだ。

写真2 1000分の5程度の傾きがあった

「住宅品質確保促進法」によると「1000分の3以上1000分の6未満」の傾きは「構造耐力上主要な部分に瑕疵(かし)が存在する可能性が一定程度ある」といったレベルだ。しかし、このケースでは原因は建物そのものの問題ではなく、地盤の一部が沈下する「不同沈下」によるものだと推定できた。

建設当時には地盤改良も行われていて、ある程度地盤状態も落ち着いているとみられることから、これ以上傾く可能性は低そうだ。雨漏りの跡と建物の傾き。この2点のために長らく売れなかったこの中古住宅。現状と可能性を把握し、価格交渉の上、Oさんは納得してこの物件を契約した。

中古住宅は一般に価格交渉が可能だが、その根拠としてホームインスペクションを利用するのは賢明だろう。ホームインスペクター(住宅診断士)は価格査定を行うことはないが、建物の劣化具合や修繕の時期、その概算費用などを教えてくれる。こうした交渉材料をうまく利用できれば、根拠のある値引き交渉も可能だろう。

長嶋修(ながしま・おさむ) 1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など、著書多数。さくら事務所では、7/30(土)不動産業者&物件選びの極意をホームインスペクターが教える『戸建て購入セミナー』を開催。詳しくはこちらhttp://www.sakurajimusyo.com/160730

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