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安心・安全

NPOや行政、学習など支援子どもみちびく居場所(上)

2016/7/12

安心・安全

居場所に通う子ども(右)に勉強を教えるボランティア(東京都足立区)
居場所に通う子ども(右)に勉強を教えるボランティア(東京都足立区)

親の収入が少なく、日々の暮らしにも困る家庭の子どもたちや、虐待で親と暮らせない子どもたちが抱える問題は複雑だ。学習習慣がなく勉強についていけないだけでなく、歯磨きやあいさつといった生活習慣すら身についていないこともあるという。こういった子どもに、進学や就職の道筋をつけ自立を支援する場が注目されている。子どもの居場所の今を追った。

「先生こんばんは。今日もよろしくお願いします」。4日午後6時、東京都足立区にある建物の一室に中学生たちが姿を見せ始める。子どもたちが誰の目も気にせず通えるよう、ビルに特別な看板はなく、経済的に困窮する家庭の子どものための学習支援教室とは分からない。

区の委託で運営にあたるNPO法人キッズドア(東京・中央)の土井清子さんは「何か飲む?」と優しく出迎えた。「お茶」と言う子に「お茶下さいでしょ」と言い直させる。土井さんは「間違った言葉遣いは注意しないと直らない。将来、敬語が話せないと就職活動などで困るだろう。叱るのも役目」と話す。

◇    ◇

同区は2015年8月、経済的な問題を抱えた家庭の中学生向けに学習支援事業を始めた。室内には2、3人掛けの机が7組並び、カーテンで仕切られた空間にはちゃぶ台やソファ、玩具もある。火曜日を除く平日の放課後と土日に開室し、ボランティアの大学生やNPOの職員が勉強を教え、高校進学を支援する。

利用するのはひとり親世帯など、放課後を一人で過ごすことの多い子どもたちが大半。自宅に机がなく「家で勉強できない」という子などの居場所になっている。区のくらしとしごとの相談センターの橋本忠幸所長は「普段からいろんな話を聞き、ケアをするのがこの場」という。

今春、高校入試に落ち「働くから高校へは行かない」と言っていた男子がいた。土井さんは本当は高校へ行きたがっていると感じ、定時制高校の試験を受けるよう説得し、見事合格。高校生の今も時々顔を見せる。「見守っていたからこそ、再び頑張ってみようと思ってくれた」と土井さん。高校卒業資格があれば就職先は広がり進学の可能性もある。「将来の選択肢を与えたい」(土井さん)

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板橋区も学習支援事業「まなぶーす」を昨年6月からビルの一室で開始。月曜~土曜日のボランティアによる学習支援に加え、毎週月曜は「居場所」と呼んで場を使う。学習支援の対象は小学6年生と中学生、高校中退者や不登校生らだが、居場所は小学生から18歳までと幅広い。

通う子には、学校で習い事に行かせてもらえないことや服装など「貧困が一因と思われるいじめを受けるなどで不登校になる子もいる」と運営委託を受けるNPO法人の青少年自立援助センター(東京都福生市)の三田佳延さん。通いやすいよう午前11時半にあけ、スタッフらと折り紙やお絵描きなどを楽しむ。

昨秋から通い始めた小学校低学年の女子は、来れば笑顔もみせ、スタッフとも話すが、通学は「つまんない」と拒んでいた。この場でコツコツ何かをする習慣がついたおかげか、今年から再び学校へ行けるようになり、進級できた。「ここが気持ちの変化のきっかけになったのならうれしい」(運営スタッフ)

子どもが安心して勉強や話ができる場づくりは、各地で広がっている。愛知県高浜市は昨年7月、中学生向けの学習支援事業「ステップ」をNPO法人に委託して開始。毎週土曜日にボランティアが勉強を教える。今春から高校生や不登校生、高校中退者に対象を広げた。

日本財団は11月、埼玉県戸田市に、家でもなく学校でもない小学校低学年の子どものための「第三の居場所」と呼ぶ施設をつくる。数年内に全国100カ所に広げる。宿題や課外活動のほか、夕飯も一緒に食べる。利用料は月数万円の予定だが、低所得世帯には補助も検討している。

こういった場が求められる背景には、ひとり親世帯に加え、子どもの親世代に非正規雇用など不安定な雇用環境で働く人が増え、収入格差が広がっていることもあげられる。10年以上、居場所を運営するNPO法人の山科醍醐こどものひろば(京都市)の村井琢哉理事長は「親が生計を立てるのに必死で学習や食事や着る物に目を配る余裕がない家庭も多い」と指摘する。

日本財団で同事業を担当する花岡隼人さんも「親が宿題をしなくても注意せず、進路にも関心を示さないと、子どもにはそれが当たり前になってしまう」と懸念する。そのような環境だと「どうせ進学できず、希望の就職もできない」など、「最初から人生に夢を描けないこともある。自分にも可能性があると伝えたい」(花岡さん)。

■貧困6人に1人、先進国で最悪

日本の子どもの貧困率は16.3%(2012年)と諸外国と比べ突出して高い。00年よりも、1.8ポイント上昇した。世帯全体の可処分所得が全体の中央値の半分に満たない場合を「相対的貧困」と定義する。12年は122万円未満で、これが貧困かどうかのラインとなっている。

統計上、子どもの6人に1人は貧困状態という日本。経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の10人に1人を大きく上回る。ドイツや英国など先進諸国と比較しても最悪のレベルだ。

そんな中で政府は子どもの貧困対策を急ぐ。14年に「子どもの貧困対策推進法」が施行。国や自治体は学習や食事支援などを進めている。政府は、早期に、学習支援や食事を提供する子どもの居場所を年間延べ50万人分用意するという数値目標を掲げている。

[日本経済新聞夕刊2016年7月12日付]

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