日本製囲碁AI、世界トップ棋士に「詰め碁」で圧勝
囲碁の日本製人工知能(AI)と世界トップ棋士らが、詰め碁を解くスピードと正確さを競う"詰め碁対決"が8日、東京・渋谷のホテルで開かれた。人間側は9カ国・地域の24人(男女2人1組の12ペア)が出場。6問の詰め碁が出題され、AIが圧倒的な大差で優勝した。2位は韓国のチェ・チョルハン九段(31)とオ・ユジン二段(18)のペア。日本は3組が参加し、今年4月に七冠となった井山裕太王座(27)と謝依旻(シェイ・イミン)女流本因坊(26)のペアが最高で4位だった。
「これで解けたかな」「いや妙手があってうまくいかない」。どこに黒石を打てば白石をすべて取れるのか。1問ずつ配られる問題図をもとに、プロ棋士らがパートナーと碁盤を挟み、一緒に碁石を並べては崩す。今回の詰め碁6問は、日本人プロ棋士が腕によりをかけて作ったもの。難問を前に、1問10分という制限時間で答えられないペアが目立ち、不正解も続出した。
対する囲碁AI「パンダ先生」は、ステージに設置された家庭用デスクトップ型パソコンの中で頭脳をフル回転させていた。オペレーター役の女性が問題を入力すると、モニター上に「判定中」の文字。しばらくすると、正解手順を一手ずつ表示していく。第1問こそ解答に時間がかかったものの、2問目からは2~3分で解くようになり、速くて5分という人間に大きく差をつけた。さらに問題が複雑になるにつれて実力を発揮。1問も間違えなかった。
採点は速さと正確さの両面から行われた。まず、AIと棋士12ペアのうち、早く解答ボタンを押した5ペアが解答権を獲得する。解答権を得られなかったペアには得点がつかない。権利を得たペアの中で最初に正解すると5点、2番目だと4点の得点が入るが、不正解だと逆に2点減点されるルール。AIは4問で最初に正解し、合計24点を稼いだ。
一方の人間側の得点は、2位に入った韓国代表プロでさえ6点。井山王座のペアは2問の不正解があり、結果的に0点で4位だった。井山王座は「第1問は私たちの方がAIより先に正解したのでチャンスがあると思ったが、途中からAIにまったくかなわないと思った」と脱帽した様子だった。
今回対決した囲碁AI「パンダ先生」は、日本の囲碁ネット対局サービス会社のパンダネットが開発した。ネットで対局する利用者の勝敗の判定に必要となり、約30年前に開発をスタート。今ではプロ棋士が囲碁ファン向けに詰め碁の問題を作るとき、出題ミスがないかを確認するためにも用いられている。「AIが強いのはわかっていた。ただ第1問で解答に時間がかかるなど課題が見つかってよかった」と開発したパンダネットの担当者は言う。
「パンダ先生」はAIの技術のなかでも旧来型とされる「エキスパートシステム」という手法を用いている。囲碁のルールや詰め碁のテクニックを人間が知識として事前に与え、それをもとに正解を調べていく。
今年3月に韓国のイ・セドル九段(33)を破った米グーグルのAI「アルファ碁」は、大量のデータを与えるディープラーニング(深層学習)という手法で強くなった。ただ対局中には細かな手順でのミスがあったこともわかっている。「パンダ先生」など様々な手法のAIを組み合わると、さらに進化する可能性もあるという。
詰め碁マッチは、9~10日開催のペア碁ワールドカップ2016東京のイベントとして開催された。井山王座のほか、中国トップの柯潔(か・けつ)九段(18)や、韓国首位のパク・ジョンファン九段(23)ら世界を代表するプロ棋士が参加した。
(文化部 山川公生)
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