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マネー研究所
税務署は見ている

たこ焼き屋をこっそり査定 2人の国税調査官

2016/7/12

税務署は見ている

PIXTA
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7月の人事異動では新米調査官が各税務署の現場に配属されます。今回は、新米調査官A子さんとその指導担当のベテラン上席調査官が外観調査に出かけ、喫茶店でランチを食べた後の会話に聞き耳を立ててみましょう。

(A子が窓の外を眺めながら、ベテラン上席調査官に話しかけます)
A子:「そこのたこ焼き屋さん、めっちゃ店の前で人待ってますよね」
ベテラン上席調査官(以下、上席):「そうやな。はやってるなぁ。昼飯がたこ焼きなんかな?」
A子:「どうなんでしょうね? 上席、たこ焼き屋さんって、調査に行かれたことあるんですか?」
上席:「たこ焼き屋はないな~。ラーメン屋やったらあるけどな」
A子:「へぇ~、ラーメン屋さんですか」
上席:「昔、いつも人だかりができてるラーメン屋があってなぁ。飲んだ後で食うたら、これがまた、うまいんや~。んで、そこを調査したことがあったかな」
A子:「えっ? それって資料から選定したんじゃなくって、上席が飲みに行った帰りによく行かれてて、そういう理由で選定されたってことなんですか?」
上席:「そやぞ。そんなもん、昔は資料いうたかってしれてるし、そのラーメン屋、もともとの申告も適当な数字並べて出しとるだけやったからな」
A子:「資料収集の研修で“足で稼ぐ”っていわれてたのは、そういうことやったんですね」
上席:「昔はそうやって、常に情報収集してたってこっちゃ。街に出たら、なんぼでも生きた情報があるんや。ほな、ちょっとA子調査官。あのたこ焼き屋、なんぼくらい売り上げあるか言うてみろ」
A子:「えっ? そんなこと急に言われても……」
上席:「訓練やからな。毎日、目に入ったもんは、どんだけ売ってるんか考えてたらだんだんわかるようになる。あの店、売り上げいくらやと思う?」
A子:「え~っと……。1舟8個300円って書いてます。営業時間は午前10時から午後10時で、定休日は毎週火曜日。今、お店の前に並んでるのは、1、2、3……7人ですね。今は一番忙しい時間帯なんでしょうか?」
上席:「そやなぁ。一日中あんだけ並んでたら、店主、倒れよるぞ」
A子:「そうですよね。でも1時間でお客さんが1人しか来ないとかなったら、10時まで開けてませんよね」
上席:「おお~、そうやな。たこ焼きは酒のあてにもなるしな」
A子:「じゃあ、例えば平均して1時間に10人お客さんが来て、1人1舟たこ焼きを買って帰るとしたら『300円×10人×12時間=3万6000円』。えっ、1日3万6000円も売り上げあるんですかね」
上席:「1年にしたらなんぼになる?」
A子:「定休日は1週間に1日ですけど、年末年始はどうなんでしょう?」
上席:「お盆と年末年始は休みなんと違うか」
A子:「そしたらお盆で7日、年末年始も5日休むとして、1年間の休みは『4日×12カ月+7日+5日=60日』で計算してみます。『3万6000円×(365日―60日)=1098万円』。え~、年間で1000万円超えるんですね。私、署に戻ったらこの店の申告内容確認します!」

最近、街中でビジネススーツに身を包んだ男女が並んで歩いている姿をよく見かけるようになりました。男性の方が年上の場合もあれば、女性の方が年上というペアもありますね。40~50代の男性と20代半ばの女性が一緒の場合、それはもしかすると、新米調査官とベテラン上席調査官かもしれません。

先日、メンタルヘルスケア研修のご相談でとある税務署を訪ね、署長とお話をさせていただきました。その署では最近は、いったん定年を迎えて退職された方(再任用)が新人の指導をするというパターンも増えているというお話でした。50~60歳の年齢の方がこれまでに行ってきた調査というのはアナログ感満載です。きっと、新米調査官も学ぶべき部分が多いのだろうと思います。

今回、A子さんが試みたたこ焼き屋さんの売上金額の計算過程について、「それは調査官の話であって自分には関係ないなぁ!」と思われたでしょうか?

いえいえ、この計算は何も調査官だけに必要なものではないのです。例えば、ご自身で何か事業を始める場合も年間の売上金額がどれくらい見込めるのか試算してみないといけません。

サラリーマンであっても次なるプロジェクトはどれだけの売り上げが見込めるのか、試算しないと企画が通らないでしょう。また、税理士さんや、税理士事務所で働いていてお客様の帳簿を作成したり、申告書を作成したりする業務に当たっている方には、お客様である経営者から預かっている資料が真実の売り上げを物語るに足るものなのかどうかを判断するためにも、必要なスキルになってくると思うのです。

何より、事業を行っている当のご本人が、どれくらい売り上げがあるのか試算してみることは大切だと思います。

売上金額をごまかして申告するのは最も悪質だといわれています。今回のたこ焼き屋さんのように売上金額が1000万円を超えるかどうか微妙な場合は、税務署も毎年の売上金額の動きに注目しています。

ランチを食べ終えてもすぐには店を出ず、きょろきょろしながら、ひそひそ話をしている2人組を見つけたら税務署や国税局の調査官かもしれません。ご用心あれ。

飯田真弓(いいだ・まゆみ) 税理士。産業カウンセラー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生。26年間国税調査官として7カ所の税務署でのべ700件に及ぶ税務調査に従事。在職中に心理学を学び認定心理士の資格を取得。2008年に退職し12年(社)日本マインドヘルス協会(http://jamha.org/)を設立し代表理事に。税務調査とメンタルヘルス研修という切り口で、企業が活性化する研修を全国で開催し好評を得ている。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』(ともに日本経済新聞出版社)。

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