子乗せに最適 「ミニ後輪」電動アシスト自転車
ブリヂストンサイクルが自社開発した「前輪モーター」と「後輪ベルトドライブ」による両輪駆動の「デュアルドライブ」を搭載した電動アシスト自転車「アルベルトe」を発表してから1年半。今回、このデュアルドライブを搭載した、子乗せ電動アシスト自転車を2016年の秋に発売することになったという。
これまで同社が発売してきたデュアルドライブ搭載モデルは、アルベルトe、「ステップクルーズe」という、通学用を想定した自転車だけ。「電動アシスト自転車といえば、メーンは子乗せ自転車でしょう」という声が寄せられる中、約2年をかけて、今回の子乗せ電動アシスト自転車を開発したという。
正式発表を前に、この新型モデルのプロトタイプを取材する機会を得たので、企画・ 開発チームを統括した同社瀬戸慶太氏へのインタビューを含めて、早速お届けしよう。
後輪は20インチのまま、前輪を24インチに
新型モデルは同社の「bikke」シリーズから発売する予定という。bikkeはもともと、親子で楽しめるように、同じデザインとカラー編成で幼児用から大人用までを用意した自転車のシリーズ。ユニセックスな北欧風テイストのデザインが特徴で、サドルカバーやハンドルグリップなどをコーディネートできるパーツが多数そろえられており、例えば親子オリジナルの"ペア・バイシクル"にできる。現在電動アシストタイプの「bikke2 e」の他、子乗せ自転車「bikke2 b」、102~118cmくらいの子ども向け自転車「bikke m」、116~141cmくらいの子ども向け自転車「bikke j」をラインアップしている。
なかでもbikke2 eは保育園や幼稚園の送り迎えに使っている人を見かけることが多いモデルだ。子どもを持つ都市部の家庭は、クルマを所有していないケースも多く、 子どもの送り迎えだけでなく、休日に子どもと公園に行く場合にも、子乗せ電動アシスト自転車を使うことになる。その分、人から見られる機会も増えているので、乗っている自転車に、「その家族のライフスタイルが表れる部分があると考えています」と瀬戸氏は言う。
しかし、これまでの子乗せ電動アシスト自転車は、主に女性にとっての扱いやすさやデザイン性が重視されてきた。「bikkeシリーズの電動アシスト自転車にしても、前後ともに20インチのタイヤで、女性が自分の乗り降りも子どもの乗せ降ろしもしやすいように設計しているため、男性には小さい場合があったり、不釣り合いに見えたりすることもありました。そこで体形に合わせた大きさ、乗り心地を備えて、そしてより男性が選びやすいかっこいいデザイン、でも女性でも使いやすく、パパにもママにもご夫婦のどちらにもフィットするものを提案したいと考えました」(瀬戸氏)
新モデルは、デュアルドライブ搭載の子乗せ電動アシスト自転車第1号ではあるが、最大の特徴はユニットではない。見た目にも現れているが、前輪が後輪よりも大きいことだ。
「前輪を24インチにしているんです。後輪はこれまでのbikkeシリーズと同様に20インチ。つまり、前輪が後輪より二回り大きいんです」(瀬戸氏)
なぜタイヤサイズが前後で異なる?
bikke2 eは前輪が直径20インチ×幅1.95HE(約5.2cm)、後輪が20インチ×幅2.125HE(約5.4cm)と太さがわずかに異なるだけで直径は同じだ。しかし新型bikkeは横から見てひと目で分かるくらい、直径が異なる。また太さも20インチの後輪が2.125インチに対し、24インチの前輪は1.75インチ(約4.5cm)と1cm細い。
今回の新型モデルでは、なぜ前後で異なるタイヤサイズにしたのだろうか。
「まず、ハンドリングの改善が挙げられます」(瀬戸氏)。タイヤはサイズが小さければ小さいほど、ハンドル操作が敏感になる。子乗せ電動アシスト自転車の場合、前輪の上に荷物かごやフロントチャイルドシートを付けるのだが、重さが増すとハンドリングは不安定になりやすい。このためbikkeシリーズの荷物かごは、少しでも安定性を高めるため、ハンドルポスト(ハンドルの回転軸)に近い場所に取り付けている。
またフロントチャイルドシートはハンドルポストに直接固定することで安定感を出しているという。この結果、かご、フロントチャイルドシートともにハンドルポストに密接させるために、フロントチャイルドシートの位置が少し高くなってしまう。「前輪を24インチにすると、20インチより直進安定性が高まってふらつきにくくなり、かごの位置を前に出せるのでチャイルドシートも下げることができて、安定感が高まるんです」(瀬戸氏)
結果的に、かごの高さはbikke2 eより高くなる。
また、見た目のイメージアップにもつながるという。東京・世田谷区の二子玉川周辺のファミリーを対象に行った事前の座談会でも、前輪24インチ、後輪20インチへの反響は大きかったと言う。
「弊社の電動アシスト自転車の場合、前輪のサイズが20インチでも、ギア比を大きくしてひと漕ぎで進む距離を26インチのタイヤに近くなるようにしています。ところが一般的に、前輪が小さいとたくさん漕がなければならないというイメージを持つ人が多く、逆に前輪が大きいと"たくさん漕がなくても大丈夫"というイメージになることが分かりました。
また、男性がタイヤの小さい自転車に乗っていると不釣り合いな印象があると答えた人も、前輪が大きな新型bikkeは自然に感じると言われました」
タイヤサイズを大きくすることでタイヤ内の空気の容量を増やせて細くできたわけだが、結果的に駐輪場の駐輪レーン(通常最大5.5cm幅に対応)に入れやすくなるというメリットも生まれた。
ひと目で分かる違いは、前輪のサイズだけではない。bikkeシリーズではこれまで1本だった前フレームが、2本になっているのだ。
フレームを2本にしたら、何が変わる?
「例えば弊社の電動アシスト自転車でも『HYDEE. II』はフレームが2本でサドルの最低地上高は74.5cmですが、bikkeシリーズはフレームは1本でサドル最低地上高を73.5cmにして、身長が143cmの方でも乗りやすいようにしてきました。1本にすると、剛性を確保するためにフレームが太くなりますが、新型ではフレームを2本にすることで細くでき、さらに直線的 なデザインにすることで、スポーティーに仕上げられます。
ただし子どもを乗せる前提の自転車なので、1本1本のフレームの太さは剛性が失われないように、強度を計算したうえで決めています。また、乗りやすさ(またぎやすさ)は損なわれないように、サドル側に近づくほど、フレームが低くなるようにしています。もちろんデザインは大事にしたいのですが、デザインを重視しすぎると、乗りにくくなってしまいます」(瀬戸氏)
カラーはbikkeのE.XBKホワイト、E.XBKダークグレーの2色に加え、森、海、大地を表現するグリーン、ブルー、オレンジの合計5色を予定。まさに「休日に公園に行って、家族で楽しむイメージ」(瀬戸氏)だと言い、より男性が違和感なく乗れるように図られている。
いうなればHYDEE. IIがスーツスタイルでさっそうと乗りこなす"コンサバなママ"イメージだとしたら、新型bikkeはアウトドア仕様。しかし、男性だけが使うことを前提にしているわけではなく、夫婦で1台の子乗せ電動アシスト自転車を使うというケース(例えば保育園の送迎で送りは父親、お迎えは母親というケースなど)を想定しているという。
「結局、JISが規定する全長1900mm以下、全幅600mm以下という枠の中で、子どもと 荷物との"場所の奪い合い"が起きてしまっています。そんな中、バランスよく、効率よく、そしてなにより安全面に最大限配慮して、男性にも女性にも見た目も使い勝手もいいものを考えた結果、誕生したのが新型bikkeなんです」(瀬戸氏)
後輪が20インチだから、これまでのbikkeシリーズ同様に子どもの乗せ降ろしができるというのは、女性ユーザーへの配慮もあってのことなのだ。
デュアルドライブの採用でのメリットは?
ここまでは、デザインの違いから新型bikkeの性能の違いについて見てきたが、ではデュアルドライブ採用で、性能面はどう変わったのだろうか。
デュアルドライブの特徴は、「前輪モーター」と「後輪ベルトドライブ」による両輪駆動であること。また後輪(左)ブレーキをかけると自動で前輪のモーターに発電ブレーキがかかるブレーキアシスト機能があることと、ブレーキアシストで生まれたエネルギーを電力に変換し充電すること(バッテリーが満充電の時や高温時・低温時には動作しない)。
このうち後輪のベルトドライブは、チェーンに比べて静粛性に優れ、注油の必要がない。つまり静かで、伸びない、錆びない、注油不要がメリットという。
また前輪モーターはアシスト出力がチェーンや駆動部を介さないので、モーターの力を引き出しやすく、能力の限界までアシストするというもの。ただ、急激にグっと踏み出る、いわば"押すような"アシストではなく"引っ張るような"アシストとのこと。「両輪駆動の安定感と、パワフルなアシストを感じていただけると思います」(瀬戸氏)と言う。
またアシストブレーキのメリットは、回生充電よりも「安全に下れるというところ」(瀬戸氏) だといい、あくまでも安全性を優先した結果のようだ。「子乗せ電動アシスト自転車を求める方にとって、ユニットの性能はもとより、重視されるのは乗りやすさや運転しやすさ、安全性だと考えています」と瀬戸氏は言う。
電動アシスト自転車は買い替える時代
では、ブリヂストンサイクルが自社で開発したデュアルドライブを、子乗せ電動アシスト自転車に搭載することに、どんな意味があるのか。
「そもそもデュアルドライブを開発しようと考えたのは、電動アシスト市場でイニシアチブを持つためです。今や、各社の電動アシストユニットに関して、求められるのはモーターの性能差というよりは、ITを使って変化させられる"乗り味"などの部分といえます。
そうなるとスポーツ車や子ども向け、学生向け、シニア向け、そして電動アシスト自転車まで、様々な車体開発で得てきた知見を最大限に生かすためには、車体だけでなくユニットも、いうなればチャイルドシートまで自社製でないと、車体との性能のマッチングにしても、コストにしても、ベストな状態にはできません。例えば、もう少しタイヤを大きくしたい、もう少しデザインをスマートにしたいなどと考えたときに、他社製ユニットを使っている限り、柔軟性に欠けてしまう部分があります」(瀬戸氏)
とはいえ、従来型を好むユーザーもいるので、従来通りのユニットを搭載したモデルは、今後も発売していくという。
「子乗せ電動アシスト自転車に関しては、10年前は生活をアシストする意味合いが強かったと思いますが、今は、それだけでなく、その家族のスタイルを表現するアイテムになりつつあります。一度買ったらそれを10年乗り続けるというのではなく、買い替え需要も出てきました」と瀬戸氏は話す。そのなかで新型bikkeがどんな存在感を示すようになるのか。正式発表時には、ぜひ、試乗体験もしてみたい。
(写真・文 ライター 山田真弓)
[日経トレンディネット 2016年6月9日付の記事を再構成]
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