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睡眠

ナゼ、年をとると必要以上に早寝早起きになるのか

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/8/2

ナショナルジオグラフィック日本版

(イラスト:三島由美子)

加齢とともに早寝早起きになることはよく知られている。中高年に「若いときよりも早寝早起きになったか」と聞けば7割以上の人は「イエス」と答える。特に60歳以上のいわゆるリタイア世代になるとその割合はさらに増加する。

高齢者の早寝早起き、それ自体が悪いわけではない。しかし、過度の早寝早起きになると問題だ。

夜9時過ぎには眠気が強まり、頭がぼんやりして、知らぬ間にソファーで寝込んでしまう。いったん寝ついても2、3時間もすれば目を覚ましてしまう。まだ暗いうちに何度も目が覚める、二度寝ができないなど睡眠満足感が低下することが多い。

あまりにも早い時間帯から寝落ちすると一般的に睡眠の質は低下する。ホルモンや自律神経など眠りを支える心身の機能がしっかりと準備が調っていないためだ。いくつかの研究によれば、健康な70代の体内時計は、若者と比較してもたかだか1時間程度しか進んでいないため、夜10時前は多くの高齢者にとって寝るには早すぎる時間帯なのだ。

ところが、睡眠習慣調査を行うと分かるのだが、体内時計の加齢変化以上に早寝早起きをしている中高年がとても多い。この傾向は特にリタイア後に顕著になる。

ナゼ、年とともに必要以上に早寝早起きになってしまうのか、そこには大きく4つのステップがある。各ステップには中高年で多い中途覚醒や早朝覚醒を改善する生活上のヒントも隠されている。

■「朝の光で体内時計をリセット!」のワナ

中高年では早寝早起きが自然光や家庭照明の浴び方を変えて体内時計の朝型化を加速させ、さらなる早寝早起きをもたらす悪循環に陥る。(イラスト:三島由美子)

【第1ステップ:早朝覚醒】

年齢とともに進行する「早寝」と「早起き」だが、実はこの両者が同時に起こることは少ない。多くの人ではちょっとした早朝覚醒から始まる。

早朝覚醒が起こる原因はさまざまだが、最大の原因は加齢とともに必要睡眠量が減少することにある。また、睡眠の中でも特に深い睡眠が減るため、ちょっとした刺激、例えば物音や寒さ、尿意などで目が覚めてしまう(年齢とともに必要睡眠量が減る理由については「ゾウとネズミ、よく寝るのは…」で詳しく解説したのでご一読いただきたい)。

つまり、中高年では眠りを維持する力が低下するようになり、早朝覚醒が起こりやすくなる。白髪や老眼と同じように、ある程度の早起きは正常な加齢変化と言える。ただし、当初は「年相応」に思われても、その「ちょっとした」早起きがさらに強度の早起きを招く悪循環の第2ステップにつながる。

【第2ステップ:過剰な朝の光】

早起きをしても、それだけで早寝になるわけではない。睡眠時間が短くなるのだから、就床時刻は同じにして少し早めに目を覚ませば済む話だ。実際、50代の働き盛りのサラリーマンの多くはそのような生活をしている。

早起きに引き続いて早寝が始まる大きな原因が過剰な「朝日」である。

早く目覚めると自ずとその日の活動の開始時刻も早くなる。特にリタイア後は出勤の必要が無いので、のんびり朝日を謳歌するようになる。暖かい季節ともなれば、朝5時台から散歩や体操、庭仕事などにいそしむご老人たちを多く見かけるが、この時に浴びる早朝の太陽光が早寝を引き起こす。

体内時計が光で調節されているのをご存じの方も多いだろう。大部分の人では体内時計の周期は24時間ジャストでないため、太陽光のような強い光で毎日時刻合わせをする必要がある。ただし、光を浴びる時刻によって体内時計の針を進めたり、戻したり、全く逆の作用を発揮するので注意が必要である。

光と体内時計の関係性については「夜型生活から脱却する効果的な方法」で解説したが、平たく言えば朝の光は朝型(早寝早起き型)に、夜の光は夜型(宵っ張り型)に体内時計をシフトさせる。

そのため、睡眠リズムを保つには朝と夜の光量のバランスが大事になる。雑誌やネット上で「朝の光で体内時計をリセット!」などのキャッチフレーズをよく見かけるが、これは夜型に傾きやすい若者向けのアドバイスとしては有効だ。

ところが高齢者では逆に、体内時計を朝型に傾ける光を多く浴びるようになる。早朝覚醒のためだ。例えば、夜22時頃に寝つき朝5時頃に目を覚ます高齢者であれば、早朝(4時過ぎ)から昼頃にかけて太陽光のような強い光が目に入ることで、その人の体内時計は大きく朝型にシフトする。まさに早朝の散歩で浴びる光は体内時計を超朝型に固定する役目を果たしている。

早い時間帯から眠気が生じるようになり、夕食が済んでしばらくするとゴロンと横になりたくなる。それまで楽しんでいた22時台のTV番組もなんとなく集中できず、途中でうたた寝をするようになる。奥さんから「寝室でちゃんと寝てください」とお小言を喰らって、すっかり早寝の習慣ができ上がってしまうのである。

「朝の光で体内時計をリセット!」は早朝覚醒気味の高齢者には逆効果なのでご留意を。

■過剰な朝型光と減る夜型光の「ダブルパンチ」

【第3ステップ:減る夜の光】

昼過ぎから深夜にかけての光は体内時計が朝型に傾きすぎないようにする一種の歯止めとして作用しているのだが、高齢者ではこの時間帯の光を浴びる機会が少なくなる。

高齢者の場合、散歩は暑さをしのぎやすい早朝か日没後にすることが多い。買い出しも働く世代で混み合う夕方を避けて開店早々に出向くなど、何かと午前に比べて午後の太陽光を浴びる機会が少なくなりがちだ。

また、早寝をすれば当然ながら体内時計を夜型にする家庭照明の光も目に入らなくなる。家庭照明は太陽光に比べて作用は弱いが、最近は光量の大きい大型液晶テレビや(体内時計さの調節作用が強い)ブルーライトを多く含むLED照明なども増えて、無視できない夜型作用を発揮する。

夜の明るい光は朝起きが苦手な若者には良くないが、過度の早寝と早起きで困っている中高年には役に立つ。夜間に特殊な強い光を浴びることで高齢者の不眠症状が改善することも臨床研究で確かめられている。具体的な方法については次回、詳しくご説明する。

いずれにせよ、過剰な朝型光と減る一方の夜型光のダブルパンチで中高年の早寝早起きは加速するのである。

【第4ステップ:意欲・体力低下】

現役時代は早寝には一定の歯止めがかかっている。なぜなら仕事や付き合いで帰宅時間が遅いため早寝には限界があるからだ。早く帰宅した日にもTVや読書など余暇を楽しむなどして、さほど就床時刻は早くならない。

しかし、リタイア後はとたんに早寝が始まる。体力的な低下もあるのだが「起きていてもやることがない」「TVも映画も面白くない」などの理由から21時頃に早々と布団を被ってしまう人も少なくない。

このような「消極的な早寝」は睡眠満足感を大きく損なってしまう。考えてもみてほしい。あくまでも平均だが、正味の睡眠時間は60代で6時間そこそこ、70代になれば6時間を切る。21時から寝たのでは朝までの9時間のうち3時間も悶々と目を覚ましていることになる。

冒頭にも書いたが、多くの高齢者では必要以上に早寝早起きをしている。その睡眠サイクルで元気に不満なく生活できていれば結構だが、睡眠満足感が乏しく不眠症につながることもある。そのようなときは、意識的に少し遅寝をした方が睡眠の質は格段に向上する。

そのためには、今回取り上げた4つのステップからなる悪循環をどこかで断ち切る必要がある。そこで次回は体内時計の朝型シフトを防止する、さらにはより積極的に夜型シフトさせることで、睡眠の質を向上させる方法についてご紹介する。

(イラスト:三島由美子)
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2016年6月9日付の記事を再構成]

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著者:三島 和夫
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
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