テレビCM、若手起用目立つ SNS通じ拡散狙う
ブレイク続々、新・登竜門に
出演者が相次いでブレークすることから、"人気女優への登竜門"と呼ばれるテレビCMがある。1980~90年代には、宮沢りえ、池脇千鶴らを輩出した三井不動産リアルティ「三井のリハウス」や、大塚製薬「ポカリスエット」(中山エミリほか)、アサヒ飲料「カルピスウォーター」(内田有紀ほか)などが目立っていたが、2000年代に入って新人の出演が減る傾向にあった。それがこの数年、再び若手の起用が増え、新たな登竜門CMも誕生している。
そのひとつが東日本旅客鉄道(JR東日本)の「JR SKISKI」だ。若者のスキー離れを食い止めようと、12年から内容刷新した際に起用した本田翼がブレーク。それ以降も川口春奈ら、次世代を担う女優がキャスティングされるCMとして注目度が増している。ベネッセコーポレーション「進研ゼミ」も、土屋太鳳ら新進の女優を起用し続ける。
若手の起用を再開するCMも増えた。リクルートマーケティングパートナーズ「ゼクシィ」は、01年から「ゼクシィCMガール」を選んでいたが07年で休止。それを13年から再開し、松井愛莉、広瀬すずら若手を次々と出演させている。「ポカリスエット」も、近年は北野武といった大物を起用していたが、15年から再び若手女優路線へ転換。今年は新人の八木莉可子を抜てきした。
ブランドの顔、育てて広げる
なぜ新人の起用が増えているのか。CMに求められる役割が時代とともに変わり、必要とされるタレントも変わってきたからだ。CM総合研究所の関根心太郎代表は、CMの変化をこう説明する。「バブル時代は、CMを流せば商品が売れた。商品説明よりもブランドイメージの訴求が重視されていた」
イメージを構築する際、色のついていない新人が合うケースも多い。それが80~90年代に登竜門CMが多く生まれた理由のひとつだ。しかしバブルがはじけて不況になると、広告宣伝費は縮小。「CMも費用対効果を求められ、商品の特徴を直接表現する手法が主流となった」。タレントを起用するなら知名度が高いほうが認知につながるため、新人の起用は減少した。
だが、10年ごろから交流サイト(SNS)やスマートフォンが普及し、CMを取り巻く環境は一変。「商品やサービスの説明はウェブなどに任せ、SNSでの拡散を狙ったイメージCMが増えるようになった」。こうして、CMに再びイメージを喚起する役割が求められ、若者ターゲットのCMを中心に若手が起用されるケースが増えているわけだ。
実際、近年出稿量が増えているスマホゲームアプリのCMを見てもイメージ重視の映像が目立つ。コロプラ「白猫プロジェクト」のCMは、ゲーム画面をほとんど映さず、桜井日奈子がゲームを楽しむシーンに時間を割く。同社広報によると、「桜井さんがかわいいという声が多く届いており、"桜井さん=白猫"と認知してもらうため、長く起用している」という。
企業からすると、CMに起用した新人をブランドの顔に育てていく時代が再び来たといえるが、以前と違うのはSNSなどを通じて消費者の声を吸い上げる機会が増えたことだ。
バブル時代に登竜門となったCMが企業から消費者への一方通行だったとすれば、SNS時代の新・登竜門CMは、消費者を巻き込んで拡散していく双方向型。女優ではないが、菅田将暉がKDDI「au」の"鬼ちゃん"役をきっかけにSNSで認知が広がったのも同じパターンだろう。新人や若手のタレントをCMで目にする機会は今後さらに増えそうだ。
(「日経エンタテインメント!」7月号の記事を再構成。文・羽田健治)
[日本経済新聞夕刊7月9日付]
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