変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

富士フイルムホールディングス(HD)は写真フィルム市場の消失という危機を乗り越え、ヘルスケアや高機能材料、印刷など多様な分野で業績を伸ばす会社になった。2017年度は過去最高益の更新に挑む。「本業消失」を乗り越えた古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)。76歳となるが、なお意気軒高なカリスマ経営者にリーダーシップの要諦などについて聞いた。

(下)「とんがったことを」富士フイルム、76歳の変革者 >>

 ――構造改革にリストラ、新規事業と様々なことをこなしてきました。1番苦しかったところはどこでしたか。

「苦しかったというか、大切だと思ったところは、どうしたら生き延びられるか。生き延びるだけでなく、一流企業として存続できるかだ。やらなければならないことを、何もかも同時にやらなければいけなかった。だが、経営資源というのは有限だ。経営というのはどこかを削って、その分どこかを増やして強くするということを決める。写真がどんどん減っている時に巨大な工場を持っているのは大変なコスト。これは整理しなきゃいけない」

「でも1番の問題は何を増やすかだ。何をやったら生き続けて、成長できるか。この問題を解くのは非常にクリエーティブな仕事だ。守りに入るのではなく攻めるところが何よりも大事だ」

 ――古森さんは学生時代にアメリカンフットボールをやっていた。攻めの姿勢はそこで培われたのですか。

「アメフトで1番養われたのは闘争心だ。戦いを恐れぬ心。私はもともと負けず嫌いだ。アメフトはこれを増幅してくれた。ガチンコ勝負をするしかない、それが戦いの本質だと学んだ。暴力という意味じゃなくて、どんなことも力と力の激突が物事を制しているということ」

富士フイルムHD会長兼CEO 古森重隆氏

富士フイルムHD会長兼CEO 古森重隆氏

「私の会長室には『力』という書がかかっている。この力というのは暴力でも力ずくでもなく、本当の力のこと。真の力がなければダメなんだというのが私のモットーだ。小手先の受験勉強じゃなく、いい本を読み、運動をし、闘争心を養う。そういうふうに力をつけていかないといけない。会社だってみんなそうだ。基礎的な力をちゃんとつけないと仮にうまくいってもそれは一時的なものでしかない」

 ――アメフトは頭脳とパワーといわれます。頭脳というか戦略的な部分はどう考えているんですか。

「それももちろん考える力という力。耐える力、人を説得する力、構想力、企画力、忍耐力。人の能力というのは力だ。そういう力がぶつかりあって世の中が進む。『人生は力学だ』。力で動く」

「力というのは実力だからこれで勝負が決まる。でも、力があれば何をしてもいいわけじゃない。大事なのはモラル。フェアじゃなきゃいけない。私は卑怯(ひきょう)なことは絶対にやりたくない。リーダーシップというのは、色々な力を持った人がその力に基づいてフェアに集団を率いていくということだ。リーダーシップを一言で言えばやっぱり力だ。力のある人には人がついてくる」

 ――まさに古森流の「アメフト経営」ですね。人がついてくるリーダーってどういう人なんでしょうか。

「『この人に着いていけば大丈夫だ、勝てる』っていう信頼感。おのずと決まるもんだ。みんなのためを思ってやってくれる人、勝ち続けてくれる人、そう言う人って分かるんだよ。動物だって分かる。人間だって分かる。そのリーダーシップがどうやれば備わるかが問題だ」

「生まれつき備わってるやつもいるが、現代社会は複雑で生まれつきだけじゃどうにもならない。一つ一つ壁を乗り越えて身につけていくしかない。サラリーマンなら新入社員の壁を乗り越えて、一人前の仕事ができるようになって、その後はまとまったチームのリーダーになる。さらに部長になって、と段階は色々ある。その中で課題をきっちり解決して、業務を遂行すること」

「その中で私が大事だと思うのは、『今まで通りやってちゃだめだ』ということ。よく『前任者のやったことを守ってやります』みたいな就任挨拶をみるが、バカじゃないかと思う。君の新しさ、イノベーションは何なんだと問いたいよ。やはり、その立場立場でイノベーションをやらないとダメだ。今までできなかったことをできるようにするような。そういうことを積み重ねて力を付けていく。そういう人間がリーダーになる」

 ――古森さんはゴツゴツというか、言いたいことを言ってそれを通してきた人のように感じます。

「まぁいつもというわけじゃないが、根幹はそうだ。上司と喧嘩(けんか)したことは随分ある。たいてい私の言い分が通った。勝ったという言い方はしたくない。ねじ伏せたいというわけじゃない。サラリーマンで上と喧嘩して勝てるというのはあまりない。私の言い分が通るのは、私の方が会社として正しいことをしようとしていたからだ。私的な待遇とかそういうことで喧嘩をしたことはない。会社として絶対にこうすべきだと思ったから喧嘩をした。戦い方は色々あるが戦って、通った。そういうのが3~4回あるかな」

 ――これまでリーダーとしてやってきて、失敗に学んだエピソードはありますか

「失敗ね、リーダーは失敗しちゃいけないんだ。それはダメなリーダーだ。私はよく言うが、ナンバー2までは竹刀の勝負。でもトップは真剣の勝負だ。自分が負ければ会社が倒れる。だから絶対に負けられないし失敗しないというつもりでやっている。ただ、今は失敗しないために何もしないで任期を終えて交代するリーダーもいる。こんなトップじゃ話にならないがね。リーダーは積極的に手を打って、でも失敗してはダメなんだ」

古森重隆氏(こもり・しげたか)
1963年東京大学経済学部卒、富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)入社、96年フジフイルムヨーロッパ社長、2000年富士写真フイルム社長、03年富士写真フイルム社長兼CEO、12年富士フイルムホールディングス会長兼CEO。76歳

(代慶達也 小河愛実)

(下)「とんがったことを」富士フイルム、76歳の変革者 >>

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック