天才・武藤敬司の理想郷、W-1担う若武者(プ女子)
今回のコラムのテーマ、プロレス団体W-1(レッスル・ワン)に関して6月28日に衝撃の情報が飛び込んできました。5名の選手が契約満了につき6月30日をもって退団。選手の大量離脱は年初の新日本プロレスをはじめプロレス界で過去何度も繰り返されてきました。団体の動向が注目される今、W-1は大きな転換点に差し掛かっています。
W-1は全日本プロレスを退団した武藤敬司(むとうけいじ)選手が2013年に旗揚げした比較的新しい団体です。最近ではDDTプロレスリングの高木三四郎社長が手腕を見込まれ、経営部門の最高責任者(CEO)に就任したことでも話題になりました。
少しさかのぼって6月8日の後楽園ホール大会、この日は個人的に注目する試合が2つありました。第5試合の「黒潮"イケメン"二郎vs.グレート・ムタ」、メーンイベントの「KAIvs.芦野祥太郎(あしのしょうたろう)」です。
10数年前、たまたまテレビで見たグレート・ムタの「非現実」な世界観に衝撃を受けたのが、私がプロレスに興味を持つきっかけでした。
それから10年のあいだで「中の人」武藤選手の古傷であるヒザの具合は年を追うごとに厳しくなっているようです。でも、ムタはこの日も不変のオーラをまとい後楽園ホールに現れました。「イケメン試練の七番勝負 第五戦」と銘打たれたこの試合でムタと対峙するのは、次世代の「非現実」提供者、黒潮"イケメン"二郎、略してイケメン選手です。
福山雅治のポップなラブソング「HELLO」のイントロが流れると、観客がいっせいにそわそわし始めます。赤いショートタイツにド派手なひまわり柄のジャケットを羽織ったイケメン選手の入場です。場内のテンションは急上昇。一直線にリングへ……ではなく客席に突入しウエーブヘアをかき上げながら場内を練り歩くイケメン選手。さびの「恋が走りだしたら~♪」に合わせて沸き起こる「イッケッメン! イッケッメン!」の大合唱。たっぷりと客席の反応を楽しんだあと、じらしにじらしてようやくリングイン……。
このイケメン選手の入場が何ともすごいのです。ちょっとした体調不良なら治ってしまうんじゃないかというぐらい強力かつ即効性のある「多幸感」が湧き上がり、これだけでチケットの元を取ったとすら思えます。こんな「ゼニの取れる」入場をキャリアわずか4年半、23歳の若手レスラーが確立しているのだからもう天性の才能というしかありません。
試合は健闘したもののムタお得意の毒霧をこれでもかと食らって完敗でしたが、これから経験を重ねて実力を身に付けたら間違いなくプロレス界の中心人物となる逸材です。
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そしてメーンイベントはチャンピオンのKAI選手に若手の実力者、芦野選手が挑戦するタイトルマッチ。KAI選手も突き抜けた個性を持ったプロレスラーです。正統派エースとして期待されつつもどこか思い悩む印象のあったKAI選手。ベルトを獲ってもファンからブーイングを受け空回りする期間が続きました。それがあるとき突然吹っ切れ、自身のルーツでもあるインディープロレス好きを完全に解放してコスチュームもグレーのランニングシャツにジーパンというストリートファイト仕様にチェンジ。あっけにとられるファンを尻目に「自由」を標榜しのびのびと闘っています。
そんなKAI選手に苦々しい思いを抱くのが芦野選手です。日本体育大学でのアマレスの実績を引っさげて入門し、鍛え上げられた肉体からはデビュー1年強とは思えない風格を漂わせています。きっちり横分けした黒髪の下の鋭い眼光が、目の前に立つ楽しげなチャンピオンを突き刺します。
芦野選手の執ようなアンクルロックに苦しめられるも、一瞬のすきを突き脱出したKAI選手が本家公認「雁之助クラッチ」で丸め込みベルトを防衛、歓喜の「自由」を叫び大会を締めました。
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今回のイラストはKAI選手のフィニッシュ技「雁之助クラッチ」を描かせていただきました。本家は考案者のミスター雁之助選手です。まわりのスーパーボールはKAI選手のぴょんぴょん飛び跳ねる独特な入場をイメージしました。
選手の離脱に加え、7月2日にはイケメン選手と芦野選手の負傷欠場が発表されました。ピンチには違いないでしょうが、これまでの顔ぶれが激変することで風向きが変わって窮地を脱した新日本プロレスリングの例をごく最近見たばかりです。W-1は良い意味でアクの強い、個性的な若手選手がたくさんいることが武器です。設備の整った道場と「プロレス総合学院」という学校も擁するW-1が逆境を乗り越えて若い力を中心にさらに盛り上がっていくことを期待しています。
8月11日には横浜文化体育館でのビッグマッチも控えています。そこではKAI選手の王座戦、秋山準選手率いる全日本勢との6人タッグマッチ、さらにはイケメン選手vs.飯伏幸太選手のシングルマッチなど注目のカードがそろっています。
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