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企業社会に深く浸透してきたロジカルシンキング。その一方でロジカルシンキングに長けた人がつくった計画が実行段階で行き詰ったりするケースも増えてきた。どうやら職場は合理的なだけでは動かないようなのだ。「経営も職場運営も合理性と非合理性の双方を前提とし、考える時代に入った」と人材マネジメントに詳しい永田稔氏は指摘する。永田氏の最新刊『非合理な職場』(日本経済新聞出版社)からその実態を考察した第1章を4回に分けて紹介する。

昨今、ロジカルシンキングや思考力に関するビジネスパーソンの関心は非常に高く、ロジカルシンキングについてのビジネス書籍の刊行やセミナーなどが相次いで実施されている。ロジカルシンキングはすでにビジネスパーソンにとって必須とも言えるスキルであり、このスキルなしではビジネスの現場で活躍することは難しいだろうと思われるほどである。

筆者は、組織・人事コンサルティングを仕事としているが、昨今は人事評価項目の中にも「論理的思考力」や「論理的問題解決力」が入っており、企業としてもこのスキルを社員に求めているのがわかる。

筆者も戦略コンサルティング会社で数年を過ごす中で、当初叩きこまれたのが、このロジカルシンキングであり、その基礎をなすロジカルツリーでありMECE(ミーシー、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive, もれなく、だぶりなく、)という考え方であった。

私自身、演繹法や帰納法などの概念は知ってはいたが、実務レベルでそのような論理的な思考を使ったことはなかったので、非常に目新しく、ロジカルシンキングに慣れるに従って、この方法なしには問題解決者として通用しないと感じるほどであった。

この思考方法がこれほどまでにビジネス世界に広がったのは、筆者の考えでは「もれなく」考える点にあると思う。もれなく考えるということは、普段思考の陰になりがちな点を俎上(そじょう)に載せることにより、業界やその世界の常識に慣れた人に対し、「その業界の常識では考えつかなかったインパクトのある解決策」を与えることができる点にあると思われる。

しかし一方で、このようなロジカルシンキングを使う機会が増えるにつれ、またこの思考法が世の中に広まり多くの人が使うようになってくるにつれ、この思考方法が通じない、この思考法だけでは組織や人を動かせないケースに出合うことが多くなってきた

読者の皆さんも以下のようなケースに出合ったことがあるのではないだろうか?

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社内の人が現実を見ようとしない。
自分の問題意識が周囲に伝わらない

あなたが会社の事業や組織に対し問題意識を持ち、上司や同僚にその問題意識や問題意識を持つに至った事実を伝えても、あなたの訴えや危機意識をまともに受け取ってもらえないことはないだろうか?

例えば、新たな競争相手の登場に対し、あなたが危機感を持ち周囲に訴えても、

「いや、所詮、XX社製だろ、我々の技術にかなうわけないよ」

「我々の相手にする顧客は、技術に劣るあの会社の製品は買わないよ」

などの楽観的な答えばかりがかえってきたりはしないだろうか?

また、別のケースでは、あなたはトップが決めた莫大な投資が勝ち目のない危険な賭けだと思っている。

あなたがいくら市場の状況や今後の顧客の需要動向を伝えても、「何をそんな勇気のないことを言っているんだ」というような情緒論に問題がすり替えられてしまい、事実をベースとした議論ができないことはないだろうか。

このような話は多くの企業の中にしばしば転がっている。

仮に、事実をベースとした議論をしていても、議論が立脚する事実が異なるケースもままある。また事実から引き出される「意味合い」が楽観的で全く異なるのもまま見られるケースである。

このように、あなたがロジカルシンキングをマスターしても、そのロジックが組織の中で通じないことは、まま発生するのである。

なぜこのようなことが起きるのであろうか?

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やるべきことが明らかにもかかわらず、社内が盛り上がらない

危機を乗り越えるために戦略や方針が決まり、やるべきことが明確であるにもかかわらず、社内がなんとなく盛り上がらない、ノリが悪いことに苛立(いらだ)ったことはないだろうか?

確かに今までのやり方と違う戦略や方針に戸惑うのは理解できるが、このままだと

危機的な状況に陥ることがわかっているにもかかわらず、社内に漂う「後ろ向き」感

に困惑したことはないだろうか?

あなたが新しい方針や施策に何か問題があるのかを聞くと、「新方針は理解できるのだけど、新しいやり方はうちの会社に合うのかな?」という頼りない答えや「生き残るためにはしょうがないのだろうね」という諦めにも似た声が聞こえてくるのみである。新しい方針や施策に対し全く盛り上がらない状態である。

一方で、昔、別の商品の開発方針を打ち出した際には、社内は盛り上がり、「この方針こそうちの会社らしい」と皆が高揚し、組織全体にやる気が高まっていったこともあなたは覚えている。

この違いはどこから生まれてきているのだろうか? 好き嫌いとも言える態度は何が原因なのだろうか? 論理的なだけでは人は納得しないのだろうか?

また、M&Aである会社との提携話が出た際に、相互の事業を共同で実施することに明らかに魅力があるにもかかわらず、社内の大半の人はその提携に反対だった。反対の理由は「あの会社とは風土が違いすぎる」「スタイルが違いすぎて、一緒にやってもうまくいくはずがない」との意見が多く、結局その後、提携はしたものの、統合作業はうまくいかず、両社がバラバラに運営をされている状態である。

両社の統合を隔てる文化や風土とは一体何だろうか?

人や組織はメリットを理解すると行動を起こすと考えていたが違うのだろうか?

そうでないとしたら何がそうさせているのだろうか?

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インセンティブをいくら用意しても、やる気が高まっていかない

あなたはあるチームのリーダーであり、新たな方針をチームに浸透させ成果を出さなければならない。

各メンバーに目標を設定し、その目標を達成したら特別にボーナスを出すことも人事部と掛け合い周到に準備をした。

メンバー一人ひとりと個別に話をし、新たな方針の背景や必要性、達成すべき目標、目標を達成した際のボーナスについても説明を行った。

しかし、数カ月経っても芳しい成果はなかなか上がらなかった。メンバーはそれなりに活動をしているようだったが、今ひとつ全体にやる気も感じられない。積極的に活動しているようにはどうも感じられなかった。

あなたは自分の昔のことを思い出すと、世代の違いを感じずにはいられない。

自分もまだ40代半ばなので、それほど昔ではないがかつては皆、会社の方針でましてや特別にボーナスが出るというと「よし頑張ろう」という気持ちになったものだったとあなたは思い出す。

しかし、世代の違いだけでこんなにも反応が違うものだろうかという疑問もある。

一方で、若い世代はまったくやる気がないのかといったらそうでもない。

先日、実施した会社のイベントには、思ったより多くの若い人が集まったし、自分たちが企画したイベントについては嬉々として行っていた。

正直、どのようにやる気を高めていったらよいのか迷う毎日である。

以上のような問題に出合ったことは、どなたでもあるのではないだろうか?

特に、問題解決者として解決策を机上の案から実際の成果を出そうという段階になると、以上のような問題に出合うことが私自身もしばしばあった。

このような場面にあったときには、当初は自分が考えたことが受け入れられないことに対し、単に相手の無理解ではないかと思っていたときもあったが、今現在は私自身が組織や人間というものに対し、いかに無知であったかと反省をしている。

永田稔(ながた・みのる)
松下電器産業(現パナソニック)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経てウイリス・タワーズワトソンに入社。一橋大学社会学部卒業、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にてMBAを取得。20年近くビジネスモデル、組織モデル、人材マネジメントモデルを一体としたコンサルティングに従事。2016年6月にウイリス・タワーズワトソンを退社し、心理学とテクノロジーを融合させた人の能力支援システムの研究開発・商業化を行うヒトラボジェイピー(HitoLab.jp)を心理学者、IT技術者などと立ち上げる。
共著に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(講談社現代新書)、『リーダーシップの名著を読む』(日経文庫)、『攻めのガバナンス 経営者報酬・指名の戦略的改革』(東洋経済新報社)。早稲田大学MBAプログラム非常勤講師。

(2)「状況や問題の共有」まずそれが難しい >>

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非合理な職場 ―あなたのロジカルシンキングはなぜ役に立たないのか

著者 : 永田 稔
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,728円 (税込み)

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