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インターバル制に加えフレックスタイムを活用し帰り支度をするキャサリン・マクレランさん(東京・中央のリコー)

インターバル制に加えフレックスタイムを活用し帰り支度をするキャサリン・マクレランさん(東京・中央のリコー)

仕事の終業時から翌日の始業時間までに、休息や睡眠に十分な時間を確保する「勤務間インターバル制」が、一部企業で使われ始めた。社員はゆとり時間を、自己研さんやスポーツ、地域の友人との交流などに充て、時間外労働時間が減った例もある。6月のニッポン一億総活躍プランでも推奨された同制度が、社員に何をもたらすか探った。

リコー本社・リコーグローバルサービス推進室で働くキャサリン・マクレランさん(32)は1週おきの週末、終業時間より2時間早い午後3時半に「早帰り」することがある。参加しているビジネススクールの授業に向け、みっちりと学習に取り組むためだ。「宿題は大量に出るし、ケーススタディーに割く時間も必要」とキャサリンさん。

キャサリンさんの時間の使い方を可能にしたのは、同社が2014年に導入した「エフェクティブ・ワーキングタイム制」(図)だ。午後8時以降の残業禁止によるインターバル制と、午前9時から午後3時半をコアタイムとするフレックスタイム制を組み合わせたリコー独自のシステムで、基本的に全部門で取り入れられている。

同社人事部ダイバーシティ推進グループリーダーの児玉涼子さんによると、エフェクティブ・ワーキングタイム制の根幹は午後8時以降の残業禁止だ。午後8時まで残業しても、翌日午前9時の始業までに13時間のインターバルが自動的に得られる。国際基準であるEU労働時間指令は、インターバルを11時間以上としているが、2時間上回る。

さらに社員は午前7時から出勤可能なフレックスタイムを併用できる。仕事の繁閑をにらみインターバルを最長17時間30分から最短11時間まで自分で組めるのだ。キャサリンさんは「机にばかり座っているとストレスがたまる。勉強以外にも人と交流したり、ジムに通ったりしてリフレッシュしている」と、ゆとり時間の拡充を歓迎している。

厚生労働省が3月に発表した「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究報告書」によると、インターバル制の導入企業は、1743社中39社と2.2%にとどまる。肝心のインターバル時間は「7時間超8時間以下」の28.2%が最多で、「12時間超」の15.4%が続く。

国内初の導入例は、情報通信設備建設労働組合連合会(通建連合)傘下の東北情報インフラユニオンが1972年、当時の電話工事ラッシュに対応するため結んだ、実質インターバル制の労使協定とみられる。その後、現在につながる過重労働防止の流れが起き、三菱重工業やKDDIなどが導入を始めた。

わが国のインターバル制には労働法上の定義はない。このため制度設計は各企業の労使に任され、リコーのような独自展開が目立つ。通建連合にも「夜中工事などでインターバル時間が翌朝の始業時間に重なった場合、重なった時間は非就労でも働いたものとみなす」(事務局長の反田丈裕さん)という独自性がある。

「インターバル制はフレッセイ組合員の意識を変える効果がある」と話す土屋紀之さん(群馬県伊勢崎市のフレッセイ富塚店)

「インターバル制はフレッセイ組合員の意識を変える効果がある」と話す土屋紀之さん(群馬県伊勢崎市のフレッセイ富塚店)

今年の春季労使交渉では、地方のスーパーマーケットにも広がった。群馬県などで約50店を展開するフレッセイ(前橋市)もその一社で、インターバル時間は11時間。導入交渉をしたフレッセイ労働組合委員長の土屋紀之さん(38)は「残業圧縮ばかり考えていたが、インターバル制は休息時間を確保して健康と生活を大切にする考え方。社員にとっても発想の転換で、導入の意義は大きい」と話す。

土屋さん自身は、群馬県伊勢崎市のフレッセイ富塚店で農産チーフとして、午前7時半から午後5時ごろまで働く。店の営業時間は午前9時から午後11時までと長いが、部門ごとに勤務スケジュールを組んで働くため、インターバル不足はまずない。土屋さんは車で1時間弱の群馬県桐生市の家に帰った後、ゆとり時間を地域の友人や家族との交流に使っている。今後は「社員の中には通勤時間が長い人がいるので、実態を観察し、インターバル時間の延長などを考えていく」と話す。

企業のメリットは何か。実はリコーの制度は、09年までの旧フレックスタイム制の混乱の反省から生まれたものだ。児玉さんは「当時、社員の出社時間がどんどん遅くなり、非効率な残業が増えた。そこで午後8時以後の残業禁止を核とした新制度にした」と話す。導入効果は大きく、以前は年間約1900時間だった社員の平均労働時間は14年度に1876時間、15年度に1849時間に減った。

フレッセイ執行役員の堀川博史さんは「インターバル制には、労使とも残業に頼らない環境をつくる上での"歯止め"の意味がある」と話す。同時に「導入によるイメージアップで社員の採用に効果が出るかも」と期待する。

秋以降に国会審議が始まる労働基準法改正案で、インターバル制は焦点の一つになる。導入企業で社員や企業にどんな効果が出たか、まず見定めていくことが大切だろう。

(礒哲司)

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