「ゲス」な話と「いのち」の話 ユキヒョウの赤ちゃん
さて今年もあっという間に折り返し点を過ぎ7月です。7月1日は旭山動物園49回目の開園記念日でした。実は日本は動物園大国です。とても数が多いのです。もう一つ大きな特徴は公立の動物園が多いことです。このことは自治体単位で運営していることを意味しますから、世界的に動物園には行政区を越えたグローバルな視点に立った役割が求められる潮流の中、日本の動物園がその表舞台に立てない根底になっています。
■自治体が運営する動物園の悩み
自治体の税金で運営している動物園が、他の自治体やましてや他国に対し市民の税金を使う活動は行い難いのです。常にその自治体にとってどんなメリット、見返りがあるのかが求められてしまいます。
ゲスな話になりますが、旭山動物園は北海道民だけではなく海外からも観光客が足を運ぶ動物園になりました。その経済的な恩恵は北海道にとっても大きなものがあるはずですが、北海道庁や恩恵を受けている他の市町村からは旭山動物園の運営に予算を組んではもらえないのです。
なぜ自治体が設置、運営する動物園が多いかというと、戦後の復興の中で昭和30年代から40年代にかけて地方の成功の象徴として動物園が争うように開園したからです。ですから必要なインフラとしてではなかった、と言うことです。
旭山動物園も昭和42年日本最北の動物園として、北海道第2の都市の動物園として開園しました。ところがお祭りムードが去り新鮮味がなくなると、維持、運営に多額の税金が必要なことが重荷になり始めます。
そこで予算を組むにあたり入園者数が対議会、対市民に対しての大きな説得材料になってきます。動物園は競うように日本初、北海道発などのキャッチコピーで目新しい動物を導入しました。まさに「客寄せパンダ」はその象徴です。
愚痴っぽくなってしまいましたが、特に財政状況が厳しくなる一方の地方都市の動物園にとって動物園が明確な理念を持ち、市民にとっても博物館、科学館、図書館などと同列の必要なインフラとして認識してもらえるようになっていけるのか真価が問われる時期に入ってきているように感じます。
理屈はともかく、動物園は命を預かっています。カバの百吉はあと40年は生きます。40年後、百吉の命に責任を取れているのか、そもそも旭川市は存在しているのか、そんな不安がよぎる49回目の記念日でした。
今日も淡々と動物たちは生活しています。アムールトラの子供は日々成長しじゃれ合う姿は見ていて時間を忘れます。実はユキヒョウも繁殖に成功していて6月26日から公開をはじめました。
僕はあまり「かわいい」という表現は好きではないのですが、悔しいかな思わず「かわいい」と心の中で言ってしまいます。ネコ科動物の子は特に見た目や仕草が無条件に人の心を動かしますが、その中でもユキヒョウは群を抜いています。モノトーンの毛並み、青い目、大きな手足、太い尻尾…まぁとにかく百聞は一見にしかず。ぜひその目で確かめてみてください。
■「なんで人は死ぬの?」
そういえば、動物園にはたくさんの学校が、漠然と「命の大切さ」を感じさせたい、学ばせたいとの目標をもってやってきます。先日子供たちに「死ってなに?」と質問してみました。
多くの子が「病気」と答えました。じゃあ「生まれるってなに?」するとちょっと迷いながらも多くの子が「病気」と答えました。「なんで?」と問うと「だって病院で死ぬし病院で生まれるから」。なるほど。
生まれること、死ぬこと、生きものの当たり前が病気と感じる中、「命の大切さ」をどうとらえられるのでしょう?
こんなこともありました。若い住職さんが運営している幼稚園の子に「なんで人は死ぬの?」と問われ、答えに窮したそうです。園長ならどう答えますか?と聞かれました。
僕ならば虫だって死ぬよね、人も虫も生きものだよ、同じだよねって答えるかなと。さらに子供は好奇心の塊だから、虫を捕まえて飼ってみたらいいと思います。飼えば死にます。
僕は昆虫少年だったので、まあとにかく捕まえました。オニヤンマを捕まえた時は、天にも昇る気分でした。緑の目、真っ黒の体色に鮮やかな黄色。飽かず虫かごに入れて眺めていました。
バッタを入れたり何とか飼おうと思うのですが、数日で死んでしまいます。動かなくなり緑の目が茶色くなり、鮮やかな黄色が色あせていきます。
何回も繰り返すうちに自然と「もう捕まえるのはやめよう」と思うようになりました。「命は大切」なんて考えてもいないのですが。生きているうちはそこに存在しています。
死んでから心の中で生き始めます。でも死を心で受け止めないと、生き始めないように思います。心にたくさんの命が生きていることが「命は大切」の原点のように思います。
アムールトラ、ユキヒョウと生まれ、子供の一挙手一投足に歓声が上がっています。その一方で6月26日カピバラが老衰で死亡しました。生まれた数だけ死があります。死は病気ではありません。病気は死の原因の一つに過ぎません。いつ訪れておかしくありません。だから今を生きるのです。
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