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転ばぬ先の不動産学

目安は月3万円 戸建て住宅でも「修繕積立金」 不動産コンサルタント 田中歩

2016/7/6

マンションを買うと管理費と修繕積立金が、車を持っていれば駐車場使用料がかかります。一方、戸建て住宅の場合はこれらの費用はかかりません。マンションの管理費は毎月1万~2万円、修繕積立金にしても同じくらいかかりますから、管理費と修繕積立金で毎月2万~3万円かかるわけです。

戸建て住宅の管理は自分で掃除道具を購入して自ら掃除するという点で、コストゼロではありませんが、実質的な支出は伴わないと考えていいでしょう。修繕についても気にしなければしなくても済むわけですから、戸建てのほうが「コストがかからなくてよい」ということをおっしゃる方が多いのもうなずけます。

戸建て住宅では管理費と駐車場使用料はかからないと考えてもよさそうです。しかし、修繕積立金は必要ないと思っていていいのかというと、そうではないと筆者は考えています。

修繕を一切しないで保有し続けていると、修繕をこまめにした場合に比べて、間違いなく建物の劣化速度は早まるでしょう。また、どうにもならない状態になってから慌てて修繕すると、その費用はこまめに修繕している場合に比べて膨らむことになるでしょう。

私たちの体と同様、定期的に検診をして早期に問題を発見できれば、軽い処置で治癒するけれど、放置していると取り返しのつかないことになるということと同じだと思います。

いやいや、それなら、建て替えたほうが安いのではないか。そんなご意見もあるでしょう。

確かに、こまめに修繕するコストの合計が、新築に建て替える際の費用と変わらないのであれば、そのほうがよいかもしれませんね。しかし、実際のところはどうなのでしょうか?

小松幸雄氏と遠藤和義氏の論文「戸建住宅のライフサイクルコストの推計(日本建築学会計画系論文集第534号2000年8月)」によると、一般的な規模の木造戸建住宅を30年間修繕して使って建て替えた場合と、60年間修繕して使った場合を比較すると、「3590万円×2回(30年間のライフサイクルコストの2倍)-5400万円(60年間のライフサイクルコスト)」となり、後者のほうが約1780万円節約できると結論付けています。

木造住宅は20年程度で価値がゼロになるといわれていますので、例えば20年間一切修繕をせずに建て替える場合と60年間修繕をしながら利用する場合を比べると、前者は少なくとも6525万円(新築費用1663万円×3回+60年間の光熱・水道費1536万円)かかりますので、60年間修繕しながら使ったほうが、1120万円程度節約可能という結果になります。

この試算では一般的な約100平方メートルの木造在来工法住宅をベースにしていますが、そのリフォーム費用を見ると30年で約1000万円、つまり月額3万円程度の修繕積み立てをしながら適宜修繕していけば、一定の価値を保ちながら長く住宅を使うことができるという意味で、戸建て住宅を買う方には参考にしていただきたいと思います。

もし、こうして維持管理された建物がきちんと評価される仕組みが将来できあがれば、維持管理されていない建物よりも高く売れるかもしれませんし、売却しなくても価値ある建物であれば家を担保にお金を借りる、いわゆるリバースモーゲージで、老後生活にゆとりをもたらすことも可能になるでしょう。

国土交通省は今年3月に閣議決定された新たな「住生活基本計画」の中で、適切な維持管理やリフォームを実施することにより、価値が落ちず、その魅力が評価されるような中古住宅が流通する市場をつくることを目標に掲げました。住宅が資産として次の世代に承継される新しい流れを創出するとともに、リフォーム投資を拡大し、住み替え需要を喚起することによって、多様な居住ニーズに対応し、人口減少時代の住宅市場の新たなけん引力を創出するとしています。

そのための施策として(1)建物状況調査(インスペクション)や住宅履歴情報等(住まいの維持修繕などの履歴情報)を活用した消費者への情報提供の充実(2)既存住宅の価値向上を反映した評価方法の普及・定着(3)住宅を担保とした資金調達を行える住宅金融市場の整備・育成――などを挙げています。

簡単にいえば、住まいのコンディションをホームインスペクションなどでチェックし、これを踏まえて修繕した記録をきちんと残していくことで住まいの価値を維持するとともに、こうした建物の価値を適正に評価できる方法を確立して、住宅ローンやリバースモーゲージに生かしていこうということなのです。

戸建て住宅だからといって、修繕を一切しないという選択はありえない時代がもうそこまで来ているといってよいかもしれませんね。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。

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