投資で取るべきリスク、駄目なリスク(窪田真之)楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト

「東証マザーズ市場のバイオ株人気を見ていると、ITバブルを思い出す。本物の成長株は一握りだろう」

英国の欧州連合(EU)離脱が決まり、日経平均株価は直後に急落しました。その反動もあって足元では回復基調にあるようですが、世界経済への不透明感や円高リスクへの警戒から輸出型の大型株は戻りが鈍いようです。それに代わって活況を示しているのが東証マザーズ市場などに上場する小型株です。

東証マザーズ市場を見ていると、まるでカジノのような印象を受けます。利益も配当も出ていないバイオ株で、時価総額が数百億円まで買い上げられている銘柄が多数あるからです。このような夢だけで買われているマザーズ株は、上昇する時も下落する時も値動きが派手です。安心して長期投資できる対象とはいえません。それでもバイオ株は個人投資家に根強い人気があります。

夢のある銘柄をバリュエーション(投資尺度)を無視してどこまでも買い上がる動きを見ると、私は2000年前後のIT(情報技術)バブル相場を思い出します。IT革命によって世の中が一変するという興奮がIT関連株をどんどん上昇させました。1999年12月に東証マザーズに上場したインターネット総合研究所は、売上高が10億円足らずなのに時価総額1兆円まで買われました。

ITバブル相場を振り返って総括すると「IT革命は本物だった。でもそのとき急騰した銘柄の大部分は偽物だった」となります。インターネット総研は経営不振から2007年に上場廃止になりました。

今、バイオ株が買われる理由はわかります。革新的なバイオ技術によって、今まで治療できなかった難病に治療の道を開く可能性が出てきたからです。「バイオ革命は本物」だと思います。ただし、今、人気のバイオ株の多くが将来鳴かず飛ばずに終わる可能性を私は危惧します。本物の成長株は一握りだけでしょう。本物を見分けるのは至難の業です。玉石混交のバイオ株に資金を投じるのはきわめてリスクの高い投資になると思います。

最近の株式市場で私が驚きを感じていることがもうひとつあります。東証1部の大型株の中には数千億円の利益を上げ、予想配当利回りが3%以上に達しているのに、見向きもされない銘柄が多数あることです。東証1部の予想配当利回り(加重平均)は今、2.3%です。中でも大型株の配当利回りが高くなっています。

東証1部の時価総額上位で見ると、日産自動車は5.1%、三井住友フィナンシャルグループは5.1%、三菱UFJフィナンシャル・グループは4.0%、ホンダは3.4%、日本たばこ産業は3.0%、トヨタ自動車は2.9%などとなっています。長期金利がマイナス0.2%の時代に、魅力的な水準ではないでしょうか。

もちろん、株の配当利回りは確定利回りではありません。業績が悪化して配当が減らされるリスク、株価が下落するリスクもあります。それでも、日本を代表する大型株で予想配当利回りが3~5%の水準まで上昇した銘柄に、時間分散しながらコツコツと投資していくのは取る価値のあるリスクだと思います。

93年にさかのぼって、配当利回りと長期金利の関係を見てみましょう。当時は株の配当利回りは1%もありませんでしたが、長期金利は5%もありました。93年に10年物国債を買えば、10年間で50%(税引き前)の利回りを確保できたのです。それでも、当時5%の利回りに魅力を感じた投資家はほとんどいませんでした。

今では信じられないことかもしれませんが、当時はまだインフレ期待が高かったのです。70年代の石油危機のときにインフレ率が10%を超えた記憶もまだ残っていました。「インフレは必ず復活する。高インフレ復活を前提とすると利回り5%程度の国債では魅力がない」と考える人が多かったのです。今振り返ればそれは過去の高インフレ経験に引きずられた誤りでした。

実際には90年代を通じてインフレ率・金利ともに下がり続けました。93年に10年物国債を買えば宝物になったのに、その判断ができる人は少なかったのです。

翻って今、10年物国債利回りがついにマイナスとなり、株の配当利回りは2.3%まで上昇しました。時価総額上位銘柄には予想配当利回りが4~5%に達しているものもあるのです。それでも注目されないのはなぜでしょう?

世界を見渡すと、今さまざまなリスクがてんこ盛りです。こうした環境下で、日本の個人投資家が株式投資のリスクを取らないのは、ひとつの立派な判断です。ところが同じ日本の個人投資家が極めてリスクの高い東証マザーズのバイオ株に積極的に資金を投じているのは不思議でなりません。真のリスクに対する認識が不足しているのかもしれません。東証マザーズ株は、夢があるからリスクは小さいと感じてしまうのでしょうか。

株式投資の本質は、企業に資金を投じて企業があげた利益から少しずつ分け前を受け取ることです。配当利回りに注目した長期投資が株式投資の王道だと考えています。

私は短期投資を否定しているわけではありません。むしろ25年間のファンドマネージャ経験の中で短期投資をさんざんやってきました。投資対象は万年赤字のインターネット株ではなく、あくまで業績の裏付けがある小型成長株です。しかしながら小型成長株は値動きが荒いので、常に銘柄をウオッチする必要があり、とても手間暇がかかります。

短期的にバタバタと売り買いする時間のない個人投資家は、大型割安株に投資するか、株には投資しないか、どちらかが適しているのではないかと私は考えます。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏とレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏が交代で執筆します。
窪田 真之(くぼた・まさゆき) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。87年住銀バンカース投資顧問(当時)に出向、日本株ファンドマネジャー兼アナリスト。90年住友銀行証券部海外業務開発プロジェクトチームに異動、91年ニューヨーク駐在。92年住銀投資顧問(当時)日本株ファンドマネジャー、99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー、2014年2月楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト。15年7月から所長兼務。大和住銀投信投資顧問では日本株の運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。99年の運用開始から13年まで担当した「大和住銀日本バリュー株ファンド」(愛称「黒潮」)は長期に安定した成績で知られる。金融庁企業会計審議会の会計部会臨時委員も務める。著書に「投資脳を鍛える!株の実戦トレーニング」(日本経済新聞出版社)、「クイズ 会計がわかる70題」(中央経済社)など多数。
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