貯蓄型保険、マイナス金利で駆け込み加入すべき?保険コンサルタント 後田亨

マイナス0.245%になり過去最低を更新した長期金利(1日午前、東京都中央区)
マイナス0.245%になり過去最低を更新した長期金利(1日午前、東京都中央区)
この連載では一般のお客様との対話を通して「実は間違っている保険の常識」を考えます。今回は、マイナス金利の影響で貯蓄型商品の値上げや販売停止が進む中、代理店から「今のうちに入っておきましょう」と促されている独身女性Iさん(40)との会話です。

後田(以下、U):「貯蓄型商品への加入をすすめられているのは、マイナス金利で保険会社の運用環境が悪化していて、現時点で取り扱いがある保険でも保険料の引き上げや販売停止が予想されるので、早めの加入が望ましいと、そういうことですよね?」

Iさん(以下、I):「はい。代理店の人から『今ならまだお得ですよ』と言われています。本当なのでしょうか」

U:「今、提案されている商品がこの先値上げされる場合、相対的な比較では今入るほうが有利だといえるでしょう。でも、現行でもすでに魅力的な商品ではないですからね。もともとお勧めでない商品がもっとお勧めでなくなる、という感じです」

I:「急いで入る価値はないということですか」

U:「はい。長期金利が下がって、貯蓄商品の値上げや販売停止が話題になると、必ず駆け込み加入を促す営業活動が活発になります。私が20年前に大手生保の営業部にいた当時から変わっていないですよ」

I:「そうなんだ……」

U:「今回、具体的にはどんな保険をすすめられているのですか」

I:「『終身保険』で、60歳までに解約した場合、戻ってくるお金が一般的な終身保険より少ない代わりに、60歳までの保険料を抑え、その後の払い戻し率が高くなっている保険です。全部で約700万円の保険料を払って、戻ってくるお金が750万円くらいになります」

U:「トータルで50万円弱の差額があるのを見ると、今のうちに入るのもありか、という気がするわけですね」

I:「そうなんです」

U:「パーセンテージに直してみるといいですよ。単純計算すると、増え方としては107%に足りないくらいです」

I:「はい」

U:「次に、個人の話に置き換えてみます。Iさんに20年間、毎月一定額のお金を貸してほしいという人がいます。『全部で100万円貸してくれたら107万円くらいにして返す。でも、それは20年後以降の話であって、それ以前に貸したお金を返してほしいと言われても、借りた額を下回る額しか返さない。差額分あなたは損する』と言われたらどうですか?」

I:「ずいぶんひどいなぁと思いますね」

U:「『20年間、他人のお金を拘束するのにそこまで言うか?』と」

I:「ええ(笑)」

U:「保険会社の商品設計部門の人に聞いたら、ある契約が20年間解約されない確率は、楽観的に見て50%くらいだろうということです。つまり約半分の人が何らかの事情で解約するんです。しかも、20年間、仮に金利が上昇してもそれには対応できない商品である点などを加味すると『今のうちに……』どころか、そもそも検討しなくていい保険だと思いませんか」

I:「では、なぜ代理店の人は勧めるのでしょうか?」

U:「3つ考えられます。まず、遠い将来の返戻金額だけを見て『いい話』だと思っている場合。昔の私がそうでした(苦笑)。次に手数料率が高いこと。最後はその両方で、お客様と自分の双方にとっていい話だと思っている。でも高い手数料は確実に運用の足を引っ張ります」

I:「代理店の人は掛け捨ての保険に比べ、終身保険の手数料は安いと言っていましたけど」

U:「それは掛け捨ての保険が高過ぎるだけでしょう。終身保険の手数料率だって決して安くはないですよ。契約した年度に限っても、年間保険料の20~30%くらいは手数料に消えてしまうことが珍しくない。20年間保険料を払うのであれば、400メートルトラックを20周走る競技で、1周目はスタート地点から100メートルくらい下がったところから走り出すイメージです。有利なレースにはならないでしょう」

I:「それはわかりやすいですね(笑)。やめておきます」

U:「マイナス金利は話のネタにすぎない。いまどき、保険で貯蓄をすること自体が不利なのだと覚えておいてください」

後田 亨(うしろだ・とおる) 大手生命保険会社や乗り合い代理店を経て2012年に独立。現在はバトン「保険相談室」代表理事として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。著書に「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)や「がん保険を疑え!」(ダイヤモンド社)、「保険会社が知られたくない生保の話」「保険外交員も実は知らない生保の話」(日本経済新聞出版社)など。公式サイトはhttp://www.seihosoudan.com/とhttp://www.yokohama-baton.com/

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著者 : 後田 亨

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