37歳・外資系バリキャリ 今も思い出す地元の彼
キャリア女子ラブストーリー ~アラフォーからの恋愛論
こんにちは。ライターの大宮です。東京・丸の内の新丸ビル内にあるそば店で、外資系メーカーに勤務する桑原章子さん(仮名、37歳)と会食しています。都内の某酒場で、僕は章子さんと知り合いました。明るくて人懐っこい性格でお店のオーナー夫婦にも愛されている女性です。
僕は見知らぬ人に話しかけたりするのが苦手なのですが、オーナーから章子さんをさりげなく紹介してもらい、お店で顔を合わせれば一緒に飲むようになりました。先日は、お店の常連仲間の女性が開いてくれた合コンで久しぶりに恋人ができたと報告してくれたのです。めでたい! 一杯ごちそうさせてもらいましたよ。
良き酒場には良き出会いがある、というのが僕の持論です。おいしいお酒と料理を真面目に提供して、誠意のある接客をしているお店には、大らかで遊び心があって常識もある大人が集まりやすいですよね。その場限りのお付き合いで飲み交わしてもいいし、合コン仲間や恋人、結婚相手を見つけることも可能だと思います。僕の場合は、取材先を確保させてもらいました。
「この連載のテーマは何ですか? 読者の人たちは何を期待しているのでしょうか」
仕事帰りのスーツ姿でそば屋に現れた章子さんは、ちょっと緊張した面持ちで聞いてくれました。いつもは酒場でお互いに酔っぱらった状態で会っているのですが、今日はなんだか仕事モード。会社では法人営業として辣腕を振るっている章子さんは、プロジェクトの「ゴール」を共有することが習慣になっているでしょう。
この連載の取材対象は、がんばって働いて一人暮らしできる程度以上の収入を得ているアラフォー独身女性。仕事と恋愛の状況を聞き取り、僕の勝手な感想も交えながら文章にしています。目的やゴールは特にありません。「こういう恋愛をしている人もいるんだな」とケーススタディにしてもらえるといいなと思っています。
「なるほど~。確かにこの年齢になると恋愛事情を話す機会が少なくなりますね。特に会社では口にしません。オジサンたちの格好のネタになってしまいますから。親しい女の先輩は社内結婚をすることが決まっていますが、私以外の誰にも話していないみたいです。他の人たちはどうしているんだろうと気になることもあります」
章子さんによれば、30歳を過ぎたあたりから特に仕事関係の人とは恋愛や結婚について話しにくくなるとのこと。仕事のできるアラフォー女性は、男性からも女性からも嫉妬の対象になりやすいため、プライベートなことを理由にして陰口を言われるのは避けたいですよね。仕事関係の人とはSNSなどで一切つながらないようにしている人も少なくありません。
でも、酒場の友だちならば平気ですよね。利害関係がないので気軽に話せます。20代の頃からさかのぼってあれこれ聞かせてくださいとお願いすると、章子さんはリラックスした笑顔を浮かべてくれました。
大学を卒業するまでは関西地方にいた章子さんは、大手の日本企業への就職で上京。風呂トイレ共同の女子寮で暮らしながら、法人営業部門に数少ない女性の総合職として配属されました。
「知識ゼロからのスタートでしたが、すごく鍛えてもらったと思っています。上司や先輩から言われた通りに一生懸命に働いていたら、3年目ぐらいから驚くほど成績が良くなりました。でも、最初はつらかったな……。地元に帰りたい、とずっと思っていました」
仕事のプレッシャーと孤独感に押しつぶされそうになっていたとき、地元の友だちが京都で結婚式を挙げました。そこで知り合ったのが、4歳年下の理容師である貴彦さん(仮名)です。
「約束の時間はちゃんと守るし、気遣いもできて、ひょうきんなところもありました。頭の回転も速い。好きだったな……。今までの人生で、ずっと一緒にいたいと思えた男性は彼だけです。太っていてすごく優しい彼に、東京の仕事でしんどかった私は寄りかからせてもらいました」
「待っていても、帰ってこないね」
遠距離恋愛ながらも貴彦さんの優しさに包まれて少しずつ元気になった章子さん。仕事もだんだんうまくいくようになり、「地元に帰りたい」という気持ちは薄れていきました。1年後、貴彦さんとの別れの季節を迎えることになります。
「彼は早く結婚して一緒に暮らしたかったようです。でも、地元と家族をすごく大事にしているので、彼が東京に来るという選択肢はありません。『待っていても、帰ってこないね』と言われてしまいました」
職人気質でかつ心優しい男性にひかれる傾向があるという章子さん。別れてから10年以上たつ今でも、貴彦さんのことは心残りだと明かしてくれました。でも、貴彦さんではなく仕事を選んだのも章子さん自身なのです。
あのときに会社を辞めて、キャリアも捨てて、地元に戻って貴彦さんと結婚していたら、章子さんはどんな生活をしていたのでしょうか。貴彦さんの経営する理容室を手伝いながら、子育てをしていたのかもしれません。持ち前の好奇心や社交性はPTAや地域行事に大いに発揮していたことでしょう。
ただし、貴彦さんとの結婚を選んでいたら、現在の仕事と生活を経験することはありませんでした。都心の酒場で見知らぬ人同士で仲良くなる、なんてこともあり得ません。
僕たちは2つの人生を歩むことはできません。今まで選んできたひと連なりの道筋を受け止めつつ、この先の道も自分の足で探っていくしかないのです。不安ですよね。「これが最高の道だ」なんてとても言えません。あれこれ後悔も残ります。だからこそ、「あったかもしれない幸せな生活」を感じさせてくれる人を、いつまでも懐かしくいとおしく思い出すのでしょう。それもまた人生の喜びだと思います。続きはまた来週。
フリーライター。1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに就職。1年後に退職、編集プロダクションを経て02年よりフリーに。著書に『30代未婚男』(共著/NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)など。電子書籍に『僕たちが結婚できない理由』(日経BP社)。読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京もしくは愛知で毎月開催中。
ライター大宮冬洋のホームページ http://omiyatoyo.com/
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