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首尾よく今の年収よりも高い年収をもらえる約束を得て転職をしても、それがキャリアダウンの始まりになることがあります。

会社の中での第二の出世=転職でのキャリアアップとは、今の年収よりも高い年収を提示されて転職することではないのです。そのことに気付かない人たちは、やがて最初にいた会社よりも条件の悪い会社で働き続けるか、終わりのない転職の繰り返しに陥ってしまうかもしれません。

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転職がキャリアダウンの始まりになる理由

人事制度が転職に影響する2回目のタイミングは、転職したあとで最初に訪れる人事評価のタイミングです。(人事制度が転職に影響する1回目のタイミングについての記事はこちらから)この時、転職時に適用された等級の給与のレンジ(上限と下限の幅)にうまく収まる転職ができていれば、評価は楽しみを運んできてくれます。転職先の会社の人事制度にきっちりとはまることができているから、結果を出すほどに認められ、報酬に反映されるからです。

仮に転職した先での評価が悪かったとしても、その結果は自分なりに納得のいくものです。むしろ良い結果を出せればさらに飛躍的に年収が増えることだってあります。これはキャリアアップに成功したタイプの転職です。

しかしもし、転職をした人だけが特別にもらえる給与に設定されて、転職時に適用された等級の給与レンジよりも上に位置していたとしたらどうなるでしょう。

このような人に対して、人事制度的には2種類の運用が検討されます。

人事的な特別扱いがキャリアダウンのきっかけになる

第一の運用は、特別扱いが続いてしまうことです。評価を実施して、期待通りの成果を出したとしても、特別扱いだから給与は増えません。

この場合、さらに給与を増やすためにするべきことは一つだけです。それは昇進すること。課長として転職したのなら次長や部長に昇進することで昇給することができます。しかしそれは実は、以前の記事で紹介した、王道出世に他なりません。結局のところ、転職して年収が増えたと喜んでいても、転職したあとはそこで上を目指さなくてはいけないわけです。

しかし、転職してきて数年の課長と、その会社で20年近くも働いていて社内の知人友人も多い人たちと、どちらが部長に昇進しやすいでしょう? 転職時のハロー効果(実態よりも良く見えている状態)はいつまでも続きません。

転職したからこそ、さらに厳しい出世競争にさらされる場合すらあります。

転職したその年はともかく、翌年以降は厳しい雰囲気の中で働かざるを得なくなる人は、決して珍しくないのです。

盛った分だけ評価を下げられる悪循環

第二の運用はもっと厳しいものです。「等級を超えた給与を支払っているんだから、もちろんとびぬけた評価じゃないとダメだ」という判断をされてしまうことです。

とはいえ、ほとんどの人にとって、慣れない仕事で転職1年目に飛びぬけた結果を出すことは難しい。結果として転職2年目に年収を下げられてしまう人も多いのです。

せっかく転職したのにどんどん年収が減ってしまう。周囲との関係も悪くなり、さらに条件の悪い会社に再転職せざるを得なくなる。そんなマイナスのスパイラルが生じてしまうのです。

このような状態に陥る理由の一つに、盛ってしまった、ということがあります。

転職する際に、職務経歴書を少しばかり脚色するのは珍しいことではないかもしれません。しかし、その内容を強く脚色しすぎる人がいます。

たとえば私が人事制度改革をお手伝いしているタイミングで、その会社に中途採用された人がいました。しかし彼を雇って1カ月後、社長から、どうも働きぶりにキレが見られない。どう思いますかというご相談がありました。そこで職務経歴書を拝見したのですが、それはすばらしいものでした。要約すれば、現在30代前半だけれども、海外の大学を出て、日本に戻り投資会社で経営企画の仕事をばりばりと進めていた、というものです。

そこで私は彼に対して、面談形式でのアセスメントを実施してみました。

このアセスメントというのは、特に2010年以降広まっている人材評価の手法です。私自身も職員数万人の某政令指定都市の幹部クラス昇進判断のアセスメントだけでなく、グループ従業員数十万人にのぼるサービス業や製造業の経営幹部アセスメントを実施してきました(ちなみに弊社では昨年から、より効果的にアセスメントを実施するための、クラウドアセスメントサービスも開始し、多くの企業にご活用いただいています)。

そうしてアセスメントで彼の行動を確認してみると、たしかに違和感があります。そこで質問を繰り返す方法で確認したところ、以下の事実がわかりました。

経営企画といっても、週単位での経営数値を集めて報告資料にまとめることがメーン。

本来の企画業務は外部のコンサルタントを中心に行っており、社内では行っていなかった。

さらに、投資先の人手が足りない場合にはそこで働いてもいた。それも飲食チェーンでのホールスタッフなどの比較的ルーチン的な作業であった。だから転職時に示した年収はうそではないが、深夜割増や残業などの諸手当が多く積まれた状態での年収であったこと、などがわかりました。

社長には、さすがにそのまま報告するわけにはいかなかったのですが、「職務経歴書の通りではなさそう」という事実だけは伝えました。結果として彼は年収を100万円以上下げられて、マネジャーではなく、作業者として再出発することになりました。

転職でキャリアアップするためにしなくてはいけない質問がある

転職するなら、転職後の等級とそこでの給与レンジを確認しておく

それがキャリアアップ転職に必要な条件です。

日本人はなぜか自分の処遇について尋ねると転職できない、と考えがちです。転職エージェントから、転職面接時に給与の話はしない方が良い、という助言を聞くこともあります。が、本当にそれはまっとうな感覚なのでしょうか。

たびたび転職についての相談をされることがありますが、その時に必ず言うのが「必ず、人事制度を確認してください」ということです。実際にある人からの転職相談に際してそう強く言ったところ、次にお会いしたときにこういう返事をいただきました。

「昇給の仕組みとか評価基準を聞いたんですけれど、いくら聞いても『それは社外秘だから』と笑いながら答えてくれなかったんです。どういうことでしょうか」

私は素直に「その会社はやめておきましょう」と伝えました。

今時、評価制度のあり方を社外秘にしている会社は時代遅れです。詳細はともかくとして、概要くらいは伝えても全く問題はありません。それに、これから新しく採用しようとしている人にも言えないような社外秘なのであれば、それはつまり、「入社してから伝えないと逃げられてしまうような人事制度」だと公言しているようなものです。

隣の芝生にもまた人事制度がある

転職すると新しいキャリアが待っている。今の会社で不遇をかこっていると、そういう感覚にとらわれることがあるでしょう。

けれども、転職した先にもまた多くの従業員がいて、彼らの働き方や給与を定める人事制度があります。その制度が今いる会社よりも自分にあっているものなのかどうか。それがわからないまま転職したとしたらそれは大きなリスクを抱えこむことになります。

結局のところ、転職したからといって、その先の会社の人事制度が自由を与えてくれるものでなければ、自由は手に入りません。

転職で手に入るものは、アンマッチの解消です。自分が生み出す価値に対して最適な対価を与えてくれる状況が手に入る。それが転職によって手に入る最良の結果です。たまたま自由度が大きな会社に転職できるかもしれませんが、転職した先の会社でも、上の立場に昇進していくと、結局自由度は減ってゆきます

だからこそ、もし自由を手に入れようとするのなら、私たちは第三の出世を視野にいれなければいけないのです。その出世の道は、自由の代わりに失うものがあります。けれども、誰しもがいつかその道を選ぶことになるのです。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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