市販なら10万円超!? リオ五輪公式ウエアの秘密アシックス、寒暖差に対応/機能性とデザイン両立

アシックスはリオ五輪日本代表のウエアなどを幅広く手掛ける
アシックスはリオ五輪日本代表のウエアなどを幅広く手掛ける

アシックスは8~9月に開かれるリオデジャネイロ五輪・パラリンピックで日本代表が着用するオフィシャルスポーツウエアを開発、独占的に提供する。日本らしい赤と白、リオのカーニバルを象徴するネオンイエローがテーマカラーだ。選手が本番で実力を最大限発揮できるよう、外見だけでなく機能にも繊細な工夫を施している。

「この製品をもし市販したらとんでもない価格になる」。アシックスのウエア開発担当の一人、戦略企画チームの山辺高大さんはこう話す。素材や機能、デザインに最新技術を組み合わせた結果、推定価格で1着10万円を軽く超えてしまう超高級。市販はせず、五輪とパラリンピックに出場する選手だけが袖を通すことができる。

これまで、五輪ウエアは複数のスポーツメーカーで開発してきたが、今大会ではアシックスが単独で開発・提供する。背景には、海外展開をにらんだしたたかな思惑がある。費用面だけみれば完全な赤字になるため、ライバル他社は手を挙げなかったが、アシックスは世界的なブランド浸透の近道になると踏んだ。

国内では少子化などでスポーツ用品の売上高が減少する一方、欧米やアジアは伸びが著しい。アシックスの2015年12月期の連結売上高に占める国内の売上高は1006億円で、米州の1361億円、欧州の1160億円を下回った。5年前は国内の売上高は米州、欧州の倍程度あっただけに、海外シフトは急で、今後も生命線になる。

選手が表彰式や選手村で着用するこのウエアには、大きく3つの工夫が施されている。

1つは機能性だ。燃えるようなサンバのイメージが強いリオだが、大会が開かれる8~9月は冬の気候だ。日中、セ氏25度程度まで上がる気温は、朝夜にはセ氏15度程度になることもある。薄手でもダメ、厚手でもダメ。このためウエアの表地には適度な通気性と、ハリやコシがある素材感のある最新ニットを使用。裏地は過度な通気性を抑え、伸縮性を高めた。

汗をかくと不快になるワキ部分はメッシュ状にし、通気性を確保した。尾山基社長は「選手が本番で最高のパフォーマンスができるよう、選手村や表彰式で快適に過ごせるように開発した」と自信を見せる。

素材は日本の複数の繊維メーカーと共同開発したが、どこのメーカーと組んだのかは公表していない。繊維メーカーは五輪のスポンサー企業ではないため、五輪関係の製品の話題で名前が出せないという。「一緒に努力をしてきた企業さんなのですが」とアシックスの開発担当は恐縮しきりだ。

2つめの工夫はデザインだ。ウエアの開発期間は構想を含め約2年だが、その約半分を「日本の顔」となるデザインに費やした。コンセプトは世界や人々をスポーツでつなぐ「CONNECT(コネクト)」。デザインの一部に連続性のある模様を取り入れたが、一番頭を悩ませたのが襟部分にある桜の模様だ。

大きすぎず、小さすぎず。しかも「アスリートの着る物。かわいくなってはだめ」。まずは下地の色を鮮やかな赤「レーシングレッド」に決め、これに映える桜の色や模様を探っていった。

開発は東京五輪のエンブレムの盗作問題が騒がれた時期と重なる。桜はフィールドホッケーやラグビー日本代表も使う汎用性の高いもの。「類似のデザインは本当にないのか」と担当者は神経をとがらせた。枝付きの桜の案もあったが、試作品を作ってみると「遠山の金さん」の入れ墨に見えてしまったとの逸話も。

日本オリンピック委員会(JOC)や日本パラリンピック委員会(JPC)とも何度も協議し、10以上の候補から絞り込んで出来上がったのが今回のデザイン。各選手のウエアすべての正面が同じような桜の花びらの配置となるよう、布の裁断の仕方にこだわった。

3つ目の工夫は着る人への優しさだ。ウエアのファスナー部分には開催国のブラジルで願い事に使われる黄色のミサンガを取り付け、その先に取っ手を付けた。手にまひがあるパラリンピック出場選手でもチャックの上げ下ろしができるよう、取っ手は幅の違う2種類を用意した。

五輪とパラリンピックで同じウエアを着用するのは史上初。パラリンピックの選手向けには、肘部分を切り取るなどの特別加工を後から施すようにした。ただこうした加工を希望したのは5%以下。「パラリンピックの選手は一人のスポーツ選手として見てもらうことを望んでいる」とマーケティング統括部の原邦彰さんは語る。

自然環境への配慮にもこだわった。このトレーニングウエアでは裏地に約30%、植物由来の素材を使っている。エコと性能とのバランスで30%程度の使用が最も効率性が高いという。ポロシャツには100%植物由来の素材を使った。ほかにパンツ、赤・蛍光緑・灰色の3色のTシャツ、ハーフパンツ、トランク、バッグなどを提供する。素材などは異なるが一部はレプリカモデルとして一般発売もする予定だ。

ウエアは選手村などで海外の選手から交換を求められることも多いが、交換は禁止。なくした場合に備え、JOCやJPCが予備を現地に運ぶ。大会後は選手にそのままプレゼントされるが、着る場所が限られるため、多くの選手はサインをして恩師や練習場所、所属企業にプレゼントすることが多いという。

このウエアを着た日本代表の選手が何人、表彰台で満開の笑顔を咲かせることができるか。開催が待ち遠しい。

(大阪経済部 林英樹)

[日経産業新聞2016年6月30日付]