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夕張破綻10年 年収300万円台の市長、次のキャリアは 北海道夕張市長 鈴木直道氏が語る

2016/7/2

 北海道の夕張市が財政破綻して10年。小学生が高校生になるほどの月日がたった。鈴木直道市長(35)は地方創生のための「地方版総合戦略」の策定にあたり、高校生も策定委員会のメンバーに加えた。夕張再生を担うのは市長や市議などの政治家だが、若者には不人気な職業だ。市長の年収は300万円台。その半面、首長としての責任は重い。市の再生に奮闘する鈴木市長が政治を取り巻く課題を話す。

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■“人気投票”で決まる、不人気なトップ

 18歳選挙権を前に、高校生と政治について話す機会がありました。みんな口をそろえて「政治家にはなりたくない」といいます。本来、選挙は人気投票です。尊敬に値する人気のある人を選ぶというのなら、政治家も憧れの職業になってもよさそうですが、現実にはギャップがあるようです。なってほしい人がなっていなかったり、政治家になりたいと思う環境ではなかったりすることの裏返しではないでしょうか。

 若者に不人気の理由の一つに政治家の「次のキャリア」が描きにくいこともあります。政治家という仕事は実感として非常に勉強になります。落選したら戻ってこい、という企業もあっていい。しかし、現実に一部の企業を除いて元の職場に戻れる可能性は非常に低いでしょう。キャリアを描くうえで、政治家になれば制限を受けることも、なり手がいない理由ではないでしょうか。

夕張市長 鈴木直道氏

 私はいつも「日本の政治は中途半端だ」と感じています。戦後、公職選挙法により、貧しくても裕福でも、選挙に立候補できるようになりました。しかし、選挙はお金がかかるし、現実にお金がないと出られない。

 かつては地元の有力者などが政治家になっていましたが、最近は彼らも選挙に出ません。志があってもお金がないから、なれない人も多い。結局、そこそこお金持ちで、政治家という職業になりたい人がなってしまいます。不人気で、なり手がいないからです。しかし、そんな不人気な人たちが物事を決めている、不思議な状況です。

■破綻時の小学生は、高校生に

 今年3月、夕張市の実情に応じた、今後5カ年のまちづくり計画である「地方版総合戦略」を策定しました。日本一高齢化率の高い夕張市ですが、策定委員会のメンバーには高校生もいました。夕張市が破綻したときにはまだ小学生だった少女です。

 彼女は「大人は市が破綻したことを子供に説明しなかった。どこか触れちゃいけないような空気だった」と当時を振り返っていました。ずっと「他の人は未来をどう考えているのだろう」と思っていたそうです。

 高校生になり、策定委員会に入り、夕張市の未来を議論するなかで「大人もみんな『この町がよくなればいいなと』思っていたが、口に出す機会がなかったんだ、ということがわかった」と話していました。

 彼女は保育士になるために夕張市を離れますが、この策定委員会に入ったことで「いずれは夕張に戻りたい」といっています。若い世代を中心に町に対する意識が変わってきたように感じます。「若い世代は政治に関心がない」といわれるなか、ここまで熱心に町の政治を考える若者がいることはすごいと思います。

鈴木市長と夕張の子供たち

誰がなっても同じではない

 自治体のトップは「誰がなっても同じ」というわけではありません。首長は政策の決定権を持っているからです。実質的に予算を決める権利(予算調製権)を持つのは首長です。

 首長は最後の決定者です。「振り返ったら誰もいない」という状況のなかで、私は絶えず決めることが怖い。しかも、私に決断を求められる事案は、A、Bという選択肢があるが、どちらもメリットとデメリットが拮抗していて、現場が判断できないというときがほとんどです。

 幸いなことに職員も「市長、これ間違ってますよ」などといってくれるので、孤独ではありません。私も頑固なので、ときにはけんかになるほどですが、職員を説得できないのなら、市民に私の思いは届きません。

 もし何年後かに、「あのときのお前の決断は間違っていた」といわれたとしても、首長という立場を与えられているのだから、それは背負って生きていくしかないんです。

■市長の報酬7割カット

 私が夕張市長になってはやいもので6年目になりました。2期目の任期満了までまだ3年ほどありますが、今回、再生計画の抜本的な見直しという政治的な機運をなんとかつくり上げることができました。

 具体的な部分をこれから決めていきます。総務相に計画案を持って行くのが、来年の3月です。計画変更の同意をもらえれば、破綻11年目の年度、2017年から新しい計画をスタートすることができます。私の2期目の後半には新たな計画を実行して、破綻から10年を経て初めての明るい話題とすることを目指しています。

 前回の選挙で私は無投票で当選しました。夕張市では市長の報酬は7割カットしているため月額で25万9000円、年収にすれば300万円台です。

 このため「なり手がいないのでは」という指摘もあります。私が市長の間にこの問題を解決する必要があるとは思いますが、市民、職員の生活を改善してから、最後に見直すべきだと思っています。

 市長の報酬をカットしたことで、この5年間に7000万円を削減できました。2期8年で1億2000万円の削減になります。このお金でほかの事業ができるのです。

■市長になって後悔はない。未来は市民が決める

 次の出馬について問われることもたびたびありますが、職員に限らず、町のリーダーが増えてほしい、というのが今の思いです。課題だけは山積みしているので、多様な人材が必要なのです。

 私は夕張市に家も建てましたし、市長をクビになり、どんな立場になったとしても一生、夕張市に関わり続けます。今後、私が市長になるかは、市民が決めることでしょう。

 私は政治家になって後悔したことはありません。疲労感を覚えることはありますが、毎日が刺激的です。厳しいこともいわれるし、「つらいことばかりでしょう」といわれますが、だからこそ、小さな成果がとてもうれしいのです。

 深刻な課題がある地方であればあるほど、人が集まりません。東京に課題がないというわけではないでしょうが、“体力”があります。大都市に人口が集中する傾向が進み、地方の置かれた厳しい状況に対し、問題意識を持つ機会がないのだと思います。

 夕張市の魅力は課題があることです。今後、夕張市は課題の背景を共有し、関心を持って関わろうとしてくれる「関わり人口」を増やしていきたいと思っています。夕張で生まれ育った人たちだけでなく、市外から若い世代が集まり、夕張の課題に寄り添ってくれています。夕張市にとって、市職員や市民に加えて、彼らこそが宝なのです。

鈴木直道氏(すずき・なおみち)
1981年埼玉県生まれ。99年東京都入庁。働きながら法政大学の夜間課程で地方自治を学び、2004年に卒業。08年都庁から夕張市に派遣。10年都庁退職、11年夕張市長に当選、現在2期目。

(松本千恵)

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