サーフェスよりも魅力的? ThinkPad X1 Tablet
戸田覚の買うか買わぬか思案中
最近は、携帯ノートの新機種が増えており、中でも2イン1や、マイクロソフトの「サーフェス」シリーズのようなタブレットが目立っている。そんな中で、レノボからもサーフェスに似たスタイルの新型タブレット「シンクパッドX1タブレット」が登場した。果たして人気のサーフェスや他社のライバルモデルを超える魅力を持っているのだろうか。今回も辛口で思案していく。
遅れた理由は限界までの作り込み
実は、この製品は2016年の2月9日に発表され注目していたのだが、ようやくの登場となった。どうしてここまで遅れたのだろうか。
「そこはおわびするしかないのですが、設計中に想定外のことが数多く起こりました。8.45ミリの極薄のボディーにあらゆるパーツを詰め込んでいくのがとにかく大変でした」(レノボ・ジャパン Think Pad開発 第一タブレットシステム設計 マネージャーの木下秀徳さん)
大変なのは理解できるが、魅力的な製品を待ち望んでいる我々ユーザーとしては、計画通りに出してほしいところだ。とはいえ、限界まで作り込んだというだけあって製品の質感は上々で、まさにシンクパッドシリーズらしいつや消しの黒に所有欲がそそられる。ボディーはマグネシウム合金製で剛性感が高く、また軽い。気になる堅牢性は通常のノート型の「シンクパッドX1カーボン」と同じとのことだ。
サイズは291×209.5×8.45ミリで、重さは767グラム。ライバルとなる「サーフェスプロ4」が、292.1×201.4×8.4ミリで、766グラム~だから、ほとんど同じといっていいだろう。注目したいのは背面のキックスタンドの機構の違いだ。サーフェスは下の部分が上に開くのに対して、シンクパッドX1タブレットは上の部分が下に開く。
「スタンドを上から下ろして開く方式を採用したのはペンで入力する際、机の上にフラットな状態ではなく、傾斜を付けた状態で置けるからです。また、膝の上に載せて使うときにも安定させやすくなります。さらに、本機の特徴であるモジュールを取り付ける際には、この方式が干渉が少なくベストでした。欠点は背面のデザインが少しごちゃごちゃすることでしょうか」(木下さん)
なるほど、角度はややキツイが、スタンドを開くことで傾斜を付けた状態で机の上に置け、フラットな状態よりペン入力しやすくなる。ただし、膝の上ではサーフェスよりは安定しているものの、通常のノートパソコンに比べると、決して使いやすいとは言い難い。
液晶はサーフェス同様に縦横比が3対2でタブレットとしてはとても使いやすい。解像度は2160×1440ドットで、2736×1824ドットのサーフェスプロ4には負けている。とはいえ、液晶のサイズが12型なので、この緻密さなら不満を感じることはまずないはずだ。
独自の別売モジュールで拡張性が向上
最大の特徴が、別売のモジュールを追加できることだろう。そもそも本体の拡張性は、通常サイズのUSB端子が1つと、USBタイプC端子が1つに、ミニディスプレーポートを搭載する程度だ。まあ、タブレットとしてはそう悪くないのだが、キーボードを取り付けて携帯ノート的に使おうと考えると物足りない。
そこで、本体下部のカバーを取り外し、棒状のモジュールを取り付けることで拡張性が向上する。モジュールは、セカンドバッテリーとHDMI出力端子、USB3.0端子、専用の拡張ドックなどを接続するOneLink+端子を搭載した「プロダクティビティー・モジュール」と、プロジェクターを内蔵した「プレゼンター・モジュール」の2つが用意されている。
プロダクティビティー・モジュールの重さは260グラム。本体とキーボードと組み合わせても1.3キロ強なので十分に持ち歩ける。拡張性が確保されるだけでなく、セカンドバッテリーも搭載するので、本体の駆動時間が約5時間延びるというメリットもある。また、モジュールがグリップのような構造になっているので本体を握りやすくなる。
「モジュールには自信を持っており、携帯ノート並みの利用ができると確信しています」(木下さん)
モジュールはしっかりと装着できてデザイン的にも美しい。僕なら、基本的には付けっぱなしで利用するだろう。また、モジュールを付けた状態でテーブルに置くとおだやかな角度が付き、キックスタンドで傾斜を付けたときよりもペン入力が快適になる。さらにモジュールを付けた状態でも、スタンドとキーボードは問題なく利用できるのが素晴らしい。ただし、OneLink+端子は、ほとんど使わないと思われるので、できればUSB端子をもう1つ増やしてほしかった。
ちなみに本体のみの場合、外部映像出力はミニディスプレーポートとなり、4Kでの出力はできない。会社のデスクなどで日常的に外部ディスプレーとつなぐなら、モジュールを取り付けてHDMI接続するのが妥当だろう。こちらは4K出力にも対応する。
今回は、プレゼンター・モジュールを試用する機会は得られなかったが、コンパクトなプロジェクターとしては十分な性能のようで、2メートル先に60型の画面を投映できる。なお、プレゼンター・モジュールにはHDMI入出力端子を備えるので、ほかのパソコンなどの映像も投映できる。バッテリーも内蔵するが、それはプロジェクターで消費する電力を補うためのもので、本体の動作時間は延びない。
拡張性で残念なのは、個人ではLTEモデルを購入できない点だ。法人向けとしては、要望があった場合、顧客が自社で検証したうえで購入可能とのことだが、レノボとして動作を検証しているわけではないという。これからタブレットを買うなら通信回線の内蔵は絶対条件と考えているだけに、ぜひ対応してもらいたいところだ。
完成度が高いキーボード
この種のタブレットはカバー兼用のキーボードが使えるのが一般的になっている。初代サーフェスが登場したときには打ちづらさにガッカリしたものだが、最近はかなり使いやすくなった。シンクパッドX1タブレットのキーボードは、底面にマグネシウム合金を採用し、非常にしっかりとした作りだ。多少強めにタイピングしてもたわみが少ないのでとても打ちやすい。
しかも、この薄さにしてキーストロークは1.35ミリを確保。さらに、パンタグラフ方式を採用するメカニカルキーボードだ。しばらく使ってみたのだが、打ちやすさは文句なしだ。さすがに通常のノート型のキーボードに比べると若干ストロークが浅く感じるが、それでも、普段の9割程度のタイピング速度で快適に打てるだろう。
さらに素晴らしいのがトラックポイントを採用していることだ。「トラックポイントをこの薄いキーボードに搭載するのはたいへん苦労しました。しかし、シンクパッドの特徴ともいえるデバイスですから、設計を見直してなんとか搭載できました」(木下さん)
トラックポイント用には左右の独立したボタンがタッチパッド上に付いているのでとても使いやすい。本来なら、タッチパッド用に下にも独立したボタンが欲しいところだが、そこはスペースの関係で妥協するしかなかったとのこと。緻密な作業はトラックポイントを使い、大胆に利用するときは画面タッチすればいいだろう。
付属のペンは、最近採用するモデルが増えている静電容量タイプだ。静電容量といっても、専用のコントローラーを搭載しており、細いペン先で快適に書ける。電磁誘導方式に比べるとやや精度は落ちるように感じるが、使ってみた印象ではまったく問題はなかった。電磁誘導方式よりも本体が薄く作れるのが最大のメリットだ。
よく考えられているのがペンの装着方法だ。キーボードに細いスリットが付いていて、そこにペンホルダーを装着できる。また、本体に取り付けたいときにはUSB端子にホルダーを装着することもできる。サーフェスの磁石による取り付け方式も良いのだが、ペンが落ちてしまう可能性が低いのは本モデルの方式だろう。
モバイル用途ならストレス感じず
さて、気になるのがCPUで、全モデルがコアmシリーズを搭載している。モバイル用のCPUなのだが、アトムに比べると断然パフォーマンスが高い。ただし、サーフェスプロ4が搭載するコアiシリーズには当然劣っている。
「今後は、コアiも検討しています。しかし、重さや価格とのトレードオフになり、現時点ではコアmで十分だと考えています」(木下さん)
確かに、今回、試用してみてもストレスを感じることはほとんどなかった。ストレージがSSDなので、低価格のA4ノートより体感上のレスポンスでは優れているとさえ感じた。さらに、カスタマイズで、PCIe接続の高速なSSDも選択でき、容量も最大1テラまで選べるのがすごい。
モバイル用途ならコアm5を選べば間違いなく快適だと思う。ただし、オフィスに戻ったら外部ディスプレーと接続してデスクトップパソコンとして利用したいと考えているなら、コアm7を選んだほうが安心だろう。
製品を詳細に見て、最も悩ましいと感じたのが、ほかのシンクパッドX1シリーズとの比較だ。軽量なノートパソコン型の「X1カーボン」、液晶が回転する「X1ヨガ」も魅力的で、価格帯も似通っている。しかも、ユーザー層は完全に重なっているだろう。普通に考えてこの中から2台買う人はいない。僕ならどれを買うかと問われたなら、この夏に登場する予定のX1ヨガの有機ELディスプレーモデルを見てから決めたいと思う。
ライバルとなるサーフェスプロ4と悩むところだが、タブレットとして考えるなら、僕は本機を選ぶ。サーフェスプロ4のほうがコアiモデルを選べるなど性能では上だが、モバイル用途ならコアmでも十分。さらに本機の場合、モジュールで端子類を増やしたりできるのが最大のメリットだろう。カバー兼用のキーボードの完成度も高く、太鼓判を押したい。
ただ残念なのが直販の価格体系が複雑なこと。キャンペーンで頻繁に割り引いているのだが、今号の記事執筆時点ではコアm5モデルが割り引かれていた。コアm3やコアm7のモデルが欲しいとなると、通常価格となりかなり割高に感じてしまう。これでは実質的な選択肢が減ってしまうと思うのだ。
著書が130冊を超えるビジネス書作家。年間300機種以上を評価する、パソコン批評の第一人者でもある。そのキャリアは20年近くに及び、ユーザーの視点で、パソコンの良し悪しをずばり斬る。
[日経PC21 2016年8月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
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