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ぼくらのリアル相続

相続放棄しても借金は消えず、親戚中を追ってくる 税理士 内藤 克

2016/7/1

 数年前、私と同年代のお客様から連絡を受けました。
「亡くなった叔父が税金を滞納していたらしく、税務署から私宛てに督促状が届いてるんですけど」
「叔父さんには家族がいましたか?」
「はい、奥さんと子供が2人います」
「おかしいなぁ、納税義務はその家族が引きついでいるはずですが……。振り込め詐欺かもしれないので、その書類をファクスしてください」
 送られてきた書類は確かに税務署からのもので、そこには「叔父さんの相続人が相続放棄したため、あなたが納税義務を引き継ぎました」という内容の文言がありました。

■全員で放棄しないと意味がない

 「相続放棄」も、非常に誤解が多いものの一つです。これは、相続人が承継する財産債務の一切を引き継がなくする民法上の手続きをいいます。通常、財産よりも債務が大きい場合は「相続放棄すれば返済しなくてよい」とアドバイスされますが、実はそのアドバイスは完全ではありません。

 冒頭のケースでは夫の借金が多額であったため、相続人である妻と子供は放棄したと思われます。しかし、だからといって借金や滞納している税金、すなわち債務がこの世から消えるわけではありません。これが最もよく誤解されている点です。妻と子供が放棄した場合、債務は血族相続人の第2順位である「父母」が引き継ぐことになります。今回は父母がすでに他界していたため、第3順位である兄弟姉妹、およびその子が引き継ぐことになったのです。

 彼らは叔父さんに借金があったこと、家族が放棄したことなど何も知らされていなかったため、大騒ぎになりました。「自分の親の借金ならまだしも、叔父さんの未払いの税金! しかも家族がいるのに、我々が払うなんて」と。

 よく聞いてみると相談者の他に、同じ通知を受けていた親戚が7人いたことがわかりました。その後、それぞれが話し合い「自分たちも全員そろって放棄しよう」という結論に達したそうです。このように、親戚同士が連絡を取り合える状況(仲のいい状態)であれば問題はありません。しかし、通知を受け取った人が個々に放棄をすると、債権者は放棄していない人へ取り立てに行くため、取り残された人が結局は負担することになります。そのため親戚中で「放棄の連鎖」が生じることになるのです。

■相続発生から3カ月以内に放棄しないとダメ?

 民法の規定には、「相続放棄は相続があったことを知った日から3カ月以内に裁判所で手続きしなければならない」とあります。もちろん当事者の妻と子供はこの期限内に手続きを行っていましたが、8人のところへ通知が来たのは相続開始からすでに2年ほど経過したある日のこと。つまり、今度は「すでに放棄できる期限を過ぎているのでは!?」という疑問が持ち上がったわけです。

 民法では「相続開始(死亡)から3カ月以内」ではなく「相続開始があったことを知った日から3カ月以内」となっています。「じゃ知らなかったフリをすればいいの?」という疑問もあるかと思いますが、まあお待ちを。今回のケースでは叔父さんが亡くなったことは全員知っていましたが、奥さんと子供が相続放棄したことにより、自分たちに相続権(マイナス財産含む)が発生した事実は知らなかったのです。税務署から督促状が届いて初めてこれを知ることになりました。そのため、督促状が届いた日から3カ月以内であれば相続放棄には十分間に合うのです。

■放棄の際にはみんなと相談を

 冒頭のアドバイスについて不完全だというのは、自分たちが放棄すればその時点で「債権・債務が消滅する」と勘違いしている方があまりにも多いことです。繰り返しますが、相続放棄をしても債務はなくなりません。

 血族相続人がいる場合は自分が放棄すると次の順位の人に返済義務が引き継がれるため、内緒で放棄してしまうとその後の親戚付き合いに影響を及ぼすこともあります。将来のことを考えると、相続放棄をする場合はその旨を関係者全員に説明し、弁護士のアドバイスを受けたうえで慎重に進める必要があるといえます。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

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