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栄養豊富な藻の一種、ミドリムシ(学名ユーグレナ)の大量培養技術を確立し、食品中心に業績を順調に伸ばす東京大学発ベンチャーのユーグレナ。2020年にミドリムシ由来の油を使って飛行機を飛ばすことを目指して今夏、横浜市にバイオジェット燃料の精製プラントを着工する。全日本空輸やいすゞ自動車、伊藤忠商事など様々な大企業を巻き込んで「夢」を実現しようとするミスターミドリムシ、出雲充社長に経営戦略などについて聞いた。

他社とオープンイノベーション

――ミドリムシから抽出した油のジェット燃料化を目指しています。夢のような挑戦をどのように実現していきますか。

「2008年5月に伊藤忠に出資していただいて以来、大勢の研究者などの仲間と、そうそうたる大企業と一緒にバイオジェット燃料の商用化に向けてやってきました。やらなければいけないのは(社外の知見を生かして革新的な製品を開発する)オープンイノベーションです。バイオジェット燃料の産業化は、ベンチャーじゃなきゃダメ、大企業じゃなきゃダメと言うのではなく、ベンチャー企業と大企業が一緒でなければできないんです」

「航空機燃料の市場は、国内で年1兆円。日本の温暖化防止目標を達成するには、この26%をバイオ燃料に置き換えなければいけない。単純計算でも2600億円の大きなビジネスになる。それは伊藤忠もJXも無視できない市場です。我々は創業10年で、売り上げがなんとか100億円まできた。でもこれからジェット燃料のためのパイプラインをつくってタンクをつくって、航空会社に供給するなんて無駄なことはしない。燃料のロジスティクスはすでにJXなどが持っている。我々だけで流通網をつくるのもばからしいし、できないこともわかっている。そこで大手と私どもが組んでオープンイノベーションを起こしていくことが大事だと。それを最初にわかってくれたのが伊藤忠でした」

ユーグレナ社長の出雲充氏

ユーグレナ社長の出雲充氏

――「ミドリムシ?何それ」というところから、どのようにして大企業を巻き込んでいったのですか。

「まずビジョンを中心におきました。我々はミドリムシで飛行機が飛ぶとか、バスが走るとか、健康になるとか、きれいになるとか、いろんなことを言ってきた。2020年に、口だけじゃなくて、それをひとつずつプロトタイプというか、商品化して全部そろえますよと。『2020年に現実にします』というのがビジョンです」

「2020年の東京五輪の時には、ミドリムシの燃料を使った旅客機で来て、バスはミドリムシの燃料で走って、ホテルの隣のコンビニにはミドリムシの飲料が売られている――。こういうことを皆さんにお話しして、『やってください』といっています」

「ホラじゃない」

――ソフトバンクグループの孫正義社長も「ホラ吹き」と言われてもビジョンを示して見える化し、巨大企業グループを築きましたね。

「孫さんは個人的に尊敬していますが、我々はホラを吹いているわけではない。ここがたぶん、IT(情報技術)や巨大なサービス産業のビジネスと一番違うところです。我々はとにかくテクノロジー、科学技術の力で、今までできなかったことをできるようにしますと言っている。日本は石油はほとんどとれないが、ジェット燃料をミドリムシで作れるようにする、これは少なくとも大学の研究室ではできている。研究段階ですでに可能なものを産業化しようとしているだけ。つまりサイエンスからスタートしている」

「我々のビジネスはホラじゃ困るんです。私の定義では大学の研究室でできてないことはホラです。エビデンス(証拠)があって、科学的に不可能なことを言っているのではありません。研究室ではできましたが大学だけではもったいないから、広く社会の皆様に還元して驚いて喜んでもらう。それが我々のような大学発ベンチャーの使命です。我々はホラ吹きじゃダメなんです。大学ではできたジェット燃料を産業にしなければいけない」

――巨大ビジネスを実現するための具体的な戦略や組織づくりにどのように取り組みますか。

「我々は今どのようなステータスにあるかを見極めると、自然と答えがでてくる。ユーグレナは創業10年ちょっとで社員が190人になり、東証1部に上場しています。そんな会社は他にはありません。東証1部ということだけに意識が行くと、何でも自分でやろうというふうになってしまう。特に我々は会社を創業してからずっと貧乏だったので、放っておくと自分でやりたくなっちゃうんですね。人間ってそうでしょう。我々で(ミドリムシ燃料の)ガソリンスタンドを整備して、なんてなっちゃうんです。でもそれではいけない」

培養技術に社員190人を集中

「我々の何が世界で一番すごいのかというと、ミドリムシの培養技術です。この技術で、日本でも世界でも圧倒的にナンバーワンを維持するために、190人全員を集中させないといけない。そうしないと、日立製作所などの巨大企業に追い抜かされる。(バイオジェット燃料が)毎年2600億円のビジネスになるのなら、100億円でも500億円でも投資して、200人体制でやろうとなるじゃないですか」

「しかし、我々はミドリムシだけに10年間コツコツやってきた。この分野の人材を集め、培養技術で世界トップを走っている。いくら日立でも、うちからライセンスを受けてビジネスモデルを確立していくほうが効率的だと思っていただければ、ありがたい。そのために圧倒的な技術の優位性を10年、20年、30年と維持し続けなければいけない。それが生命線です。その前提があれば、ミドリムシの培養プールについてとか、お互いの特別な技術やパテントを交換できるわけです」

――ミドリムシの培養技術に集中し、あとはオープンイノベーションでパートナー戦略を広げていくという戦略ですか。

「ミドリムシのアプリケーション(応用分野)はヨーグルトやジュースからガソリン、ジェット燃料や、(家畜の)エサ、化粧品など非常に広がってくる。ですがやっぱりコアを見極めるのが大事です。コアじゃないことをやろうとしてはいけない。たとえば培養プールの設備を今から我々がつくるといって、日立に追いつけるのか。追いつけません。そんなのは一緒につくった方がいいに決まっている。コアを見極め、培養技術で圧倒的ナンバーワンでいることで、世界一のパートナーと組む。(ジェット燃料の精製プラント設計のライセンス供与を受けた)米シェブロンもそれであきらめてくれたという成功パターンがある。ミドリムシの技術が世界で1番であるならば世界一の企業と組める。人って不思議で、特に昔貧乏だと、すぐ垂直に統合したがる。でも大事なのは『余計なことはしない』ということです」

他社には絶対まねはできない

――グローバル競争のなか、日本の電機大手は中国勢などに敗れた会社もある。技術的な優位を保てますか。

「微生物のオペレーションとか管理というのは、日本が一番進んでいる。確かに半導体とか、デジタル製品なんかは、他からまねされやすいかもしれない。しかし、薬でも食品でも、微生物が時間をかけて色々な生命の反応があって出てくるものというのは、絶対まねできない」

――ユーグレナはまだベンチャー企業の段階ですが、ミドリムシの培養技術に関してはトップ人材を集めているのですか。

「もちろん。我々の1丁目1番地ですからね。おかげさまで全員来てくれますね。東京大学や大阪府立大学などめぼしい大学の人材を全員知ってますから。せっかくこんなにミドリムシを勉強してきて、うちに入らないでどうするんだと、そう思っています」

――出雲さんは創業以来走り続けていますが、ストレス解消の息抜きとか、趣味とかはないのですか。

「よく『休みの日に何をしてるんですか』と聞かれるんですが、いまも365日体制です。ミドリムシにはクリスマスもお正月もないですから(笑)」

出雲充氏(いずも・みつる)
1998年東京大学文科3類入学、3年進級時に農学部に。2002年東大農学部農業構造経営学専修課程卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入社。05年8月、ユーグレナを設立。36歳。

(代慶達也 庄司容子)

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