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不動産リポート

住宅が「価値貯蔵機能」を持つ日が来る 不動産コンサルタント 長嶋修

2016/6/29

今後、中古住宅は価値が落ちない物件と落ちる物件に両極端に分かれそうだ(都内の住宅街)

不動産には資産としての「価値貯蔵機能」がある。不動産を保有することで将来に備えて価値を蓄えることができるし、必要ならば貨幣やモノと交換することができるという意味だ。

しかし、住宅については価値貯蔵が機能不全を起こしている。戦後の高度経済成長期からバブル期までは、地価が断続的に上昇したためこの問題が隠蔽されてきたが、バブル崩壊以降、「建物に価値貯蔵機能はない」という日本特有の欠点が露呈している。

今では多くの人が知るようになったが、建物の価値が25年程度でゼロになるのが当たり前なのは、先進国で唯一、日本だけである。

国民全体が保有する土地や建物などの資産から負債を差し引いた「国富」(国全体の富=正味資産)は3108兆5236億円(2014年度国民経済計算)。日本の場合、住宅資産に占める土地と建物の比率はおおむね7対3だ。しかし、他の先進国では土地と建物が逆転していて、例えば米国では土地1、建物3の割合だ。

土地資産額は1600兆円あったバブルのピーク時に比べすでに60%以下になったが、今後本格的な人口・世帯減の中でさらなる減少は必至。もちろんその内訳は文字通りバラバラで、価値が落ちるところとそうでないところが極端なコントラストを描くというイメージをしておくとよいだろう。

これから空き家問題が深刻化するうえ、過大に評価されてきた地価の歪みが修正されていくのではないだろうか。

例えば都心や都市部の好立地。その他地域では「立地適正化計画」に基づき自治体が「人口密度を維持する」と宣言する立地などは価値を維持できる可能性が高く、一部では上昇も見られるだろう。それ以外の多くの地域はその価値を限りなくゼロに向け下げていくしかない。

人口密度が保たれる地域において、建物の状態について一定のコンディションが確認できるものについては中古住宅として市場価値を維持できる可能性が高い。

価値が落ちない、落ちづらい住宅市場であるなら、住宅購入は家計にとってまさに「貯蓄」になる。所有者はこれを原資に住み替えも容易になる。

数千万で買ったり建てたりした住宅の価値が全く評価されないために、住み替えたいのに住み替えられないという、多くの住宅所有者がこれまで抱えてきたジレンマから解放され、住宅を購入することがまさに資産形成になる。

また「自宅を売却することなく住み続けながら、その資産価値を現金化できる仕組み」として各政党のマニフェストにしばしば散見された「リバースモーゲージ」も、画餅に終わることなく活用でき、一生をかけて住宅資産を使い切ることも可能になる。このようにして住宅所有が資産効果をもたらすことが内需経済に与える影響は大きいだろう。

住宅市場の変化は、国の経済構造にも変化をもたらす。例えば新築販売時の売り上げや利益は業界側(販売側)のものだが、中古住宅の評価は一個人の資産として計上される。

建物の価値が落ちる現在の状況下では、中長期的に見れば住宅所有者は非所有者に比べて消費を抑えることや、家計内債務超過に陥っているケースが多いことなどがわかっている。短期的に内需を喚起する住宅投資も、長期的に見れば内需を傷めていた可能性が高いのだ。

また土地そのものへの投資は、当初の開発以降はほぼ新たな投資を生まないが、建物の場合は修繕やリフォームへの投資が断続的に行われる。リフォーム市場規模は現在6兆7000億円(2015年矢野経済研究所)で、倍増させることは十分に可能だ。我が国の住宅投資に占めるリフォーム投資の割合は30%弱と、他先進国の半分程度にすぎない。

住宅市場は「新築主導で、買ったそばから価値が下がる」といったこれまでのあり方から、「選ばれた立地で建物のコンディションが良好なら価値を持ち続ける中古住宅主導」へと、時間をかけて切り替わっていく。そのような過渡期に住宅購入をするなら、その際の判断に必要な事柄はこれまでのコラムを参照されたい。

長嶋修(ながしま・おさむ) 1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など、著書多数。

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