いよいよ夏本番、格別の涼しさを求めて北海道・知床エリアの滝へ。実はこの時期だけの感動のドラマが、ある滝で繰り広げられているのです。知床半島では滝を眺めながらの世界遺産クルーズもいかがでしょうか。
7月になりました。今年の夏も暑そうですね……。でも、滝のありがたみが一番感じられるシーズンといえるかもしれません。特に今回は、格別の涼しさを味わえる上に大スケールの自然の営みを体感できる、ユニークな北海道の滝をご紹介したいと思います。
女満別空港からクルマでさらに1時間ほどの斜里郡清里町。知床半島の付け根、斜里岳の麓に位置する人口4500人ほどの小さな町です。
「清里」というと山梨県のほうをイメージする人も多いでしょう。北海道の清里町は観光地としてはそれほど知られていないかもしれませんが、滝ガールとしてはかねてから気になっていた場所。ピンポイントでこの町を訪れたい理由がありました。
斜里岳から流れる斜里川の上流にある「さくらの滝」。ここでは、夏のこの時期だけ、感動の絶景が見られるのです。
感動! 命をかけたサクラマスの滝ジャンプ
こちらがその「さくらの滝」です。10mほどの幅に、落差は3.7m。滝としてはそんなに大きなタイプではありません。
実はこの滝のネーミングは、「サクラマス」から来ています。そう、ここは産卵のために遡上したサクラマスたちが、ジャンプして越える(!)という珍しい滝なのです。上流で産卵できないと卵は流されてしまい、ふ化することができません。この滝はどうしても越えなくてはいけない自然の厳しいハードル。専門家によると、毎年約1万匹がチャレンジして、滝を越えることができるのはわずか5%ほど。そのことをテレビ番組で知ってから、ずっと実際に見てみたいと願っていました。
遡上の時期は、毎年6月上旬から8月上旬までとされています。わたしが訪れたのは2年前の8月のお盆休み。滝ジャンプが見られるかギリギリのタイミングでした。どきどきしながら行ってみると……。
わあ!!
ぴょーん! ぴょーん!
次々、跳んでいます!
時期的にピークは過ぎていたかもしれないのですが、それでも10秒間に5匹くらいの割合で、ジャンプに挑んでいました。滝越えの成功率はとにかく低くて、わたしが見ていた間ではゼロ。岩場にしたたかに打ち付けられたり、水量の激しい部分に当たってひっくり返ったり。それでも、諦めずジャンプを続けるサクラマスのお母さんたちの姿に、思わず胸が熱くなります。
ドキュメンタリー番組にあるようなシーンですが、やっぱりリアルに眼前にすると迫ってくるものが全く違います。命がつながれていくのか、それともこのまま途絶えるのか……? まさに今ここで、滝を舞台に繰り広げられている命の物語。時間を忘れて見入ってしまいます。
こんなにドラマチックな滝って、なかなかありませんよね。この時期だけ、この場所だけの光景。感動すること間違いなしですよ。
名水グルメはミシュラン掲載のそばの名店へ
滝で繰り広げられるドラマに魅せられたあとは、清里町が誇る名水グルメもぜひ楽しんでみてください。広い畑の前、ぽつんと立つのが「秀峰庵」さんです。
こちらはミシュラン北海道版の「ビブグルマン」として掲載されたこともあるお店です。農家も営んでいらっしゃるご主人。そば粉の生産から製粉まで手がけていて、しかも摩周湖からの伏流水で打っているという、まさに清里の自然をぎゅっと詰め込んだおそばがいただけますよ。
食後には、近くの「神の子池」にも立ち寄ってみます。神の湖と呼ばれる摩周湖の水が、少し離れたこの場所でまた湧き出していることから「神の子」と呼ばれています。青く輝く様子は、本当に幻想的です。
この湖水の清らかさをあらためて目の当たりにすれば、あのおそばの味わいも、ひと際深く印象づけられるはずです。
滝だらけ、 世界遺産の知床クルーズ
清里町のお隣、知床海岸沿いの斜里町にも足を延ばしてみましょう。斜里町もユニークな滝の宝庫です。
まずは知床半島の入り口にあるこの名瀑から。「オシンコシンの滝」は、日本の滝百選にも選ばれるだけあり、いつも観光客で賑わっています。
アイヌ語で「滑り落ちる川」を指す「チャラッセナイ川」の河口付近で見られる、末広がりの滝です。落差は50m。滝の前に立てば、たっぷりの水しぶきを浴びることができ、爽快度満点です。
知床はユネスコ世界自然遺産にも選ばれている場所として有名ですが、その雄大な魅力を体感できるアクティビティーとして人気なのが知床半島クルーズです。実はこのクルーズコース、「滝クルーズ」ともいってもいいくらい。海岸に長く連なる高さ約100~200mの崖には、知床連山や知床五湖を水源とする豪快な滝がいくつも流れ落ちているのです。
遠くに見えるのが、カムイワッカの滝。世界遺産の大スケールを、遠景だからこそ味わえますね。
逆に、船が近寄ってくれる滝もあります。こちらは、フレペの滝です。「乙女の涙」とも呼ばれる繊細な滝です。
こちらは直接、海にドボドボと注ぐ、カシュニの滝。
滝壺で水しぶきを浴びて、というわけにはいきませんが、輝く海と滝がセットの景色をこれだけたくさん見られるのは、知床ならではといえるでしょう。滝が落ちた海岸付近には魚がたくさんいるらしく、餌を探すヒグマの姿も見ることができます。
北海道では短くて貴重な夏。特に知床ではスケールの大きな自然の営みに、滝を通じて触れることができます。ぜひ楽しみつくしてください。

滝ガール。2015年まで日経BP社に編集記者として在籍。学生時代から10年以上、趣味の滝めぐりで日本全国を行脚。2013年に自身の滝活動の情報発信サイト「takigirl.net」を開設。日本の滝のポテンシャル、楽しみ方をウェブサイトや雑誌で情報発信するほか、都会で暮らす女性向けに滝めぐりのレクチャーや滝yogaイベントを開催している。 http://takigirl.net/