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牧場で企業研修 馬にリーダーシップのスキルを学ぶ

2016/6/30

馬を使った企業研修を主催するコース代表の小日向素子さん

丸い柵で囲まれた馬場の中に、1頭の馬と1人の女性。柵の外にはそれを見守りながらメモを取る人、動画を撮影する人。ときどき歓声も上がる。持ち時間の10分が過ぎ、柵から出てきた女性は「難しかった~」と言いながらも笑顔を見せた。

ここは埼玉県比企郡、美しい里山の風景の中にある牧場。馬場で行われているのは、馬を相手にした企業研修だ。この日参加したのは30代から40代の女性ばかり4人。大手サービス業の女性執行役員、大手製造業の技術部門の管理職、やはり大手企業の営業職、そしてコンサルティング会社のマネージャー。

馬を相手に、マネジメントやリーダーシップ、チームワークなどを学ぶという企業研修。日本ではまだ聞き慣れないが、欧米ではそれほど珍しいものではないという。研修プログラムを主催する株式会社コースの代表、小日向素子さんはこう説明する。

「馬と暮らす文化の蓄積がある欧米では、馬とのふれあいで心身を癒やすホースセラピーは広く浸透しており、健康保険が適用される国もあります。一方、馬の特質を学び、接することでコミュニケーションやマネジメントのスキル向上に役立てるという方法論も、1990年代から提唱されてきています」

具体的に、どのような研修を行うのだろうか。例えば最も初歩的なものが、1人ずつ馬に相対し、馬のそばに近づいて、馬にふれずに自分の後をついてこさせるというセッション。馬は犬などと違って言葉をまったく理解できないため、まず馬の警戒を解き、ついてこいというメッセージを言葉以外の方法で伝えなくてはいけない。

こちらの意図が通じない馬に向かってどのようなアプローチをするかに、その人なりのコミュニケーションスタイルが如実に表れる。柵の外の参加者たちはそれを観察し、お互いにフィードバックをする。普段、自分でも気づかない自分の行動特性を指摘されて驚く人、苦笑する人など。馬を囲んだグループセッションは終始なごやかに進む。

■「馬は接する人の姿を映す“鏡”のようなもの」

参加者同士が協力し合って複数の馬を動かすセッションでは、チームワークのスキルも鍛えられる

牧場にいるのは小型の馬でも体重は約400kg、大型の馬なら1トンを超える。近づいてくると想像以上に大きく、最初は少し恐怖感も覚える。だが慣れてくると、馬の側も言語以外のあらゆる感覚を使って人間を観察し、反応していることがわかってくる。

馬には、特に研修の「先生」としてふさわしい特質がたくさんあると小日向さんは説明する。

「まず、馬は特定の人を覚えてなついたりはしません。その時々に、そのときの相手のふるまいに対してストレートに反応します。基本的に“一期一会”で生きています」

つまり犬のように、飼い主には従うがほかの人のいうことはきかない、ということがない。指示の出し方が正しければ、相手が大人でも子どもでも同じように指示に従う。だから研修では、さまざまな人が馬を相手に、自分の指示の出し方を試すことができる。

さらに、馬には相手の意図を読み取って同調するミラーリングという特性があるという。人間同士が相手の言葉づかいやしぐさを真似するようなものだが、馬はもう少し深いところまで感じ取っているのではないかという。

「馬は、その人の体の動きや呼吸、雰囲気、“気”のようなものを感じ取っているようです」。そのため、口に出す言葉とは裏腹な感情や、自分自身が気づかないうちに態度に出てしまっている本音などを、馬がそのまま体現することがある。つまり馬は自分自身を映す鏡のようなものなのだという。

このように鋭敏な感覚と相手に対する協調性を持っているのは、馬が肉食動物の餌食になる弱い動物で、生き延びるために群れをつくり、常にいち早く危険を察知することが重要だったからだそうだ。

■環境激変期に求められる臨機応変なリーダーシップ

小日向さんは大学卒業後、大手通信会社や外資系メーカーを経て、某業界ではトップのグローバル企業の部長に30代半ばで就任し、日本でのマーケティングの全権限を与えられて活躍していた。しかし2008年のリーマン・ショックの余波で勤務先が他社に買収され、リストラされた。その後、牧場を全国で経営し、ホースセラピーや牧場と一体となったオルタナティブスクールの運営を手がけている寄田勝彦さんと出会い、「馬の世界」の奥深さに触れた。

日本の大企業と外資系の企業、どちらの組織も経験してきた小日向さんにとって、馬の群れのリーダーシップは新鮮に映るという。

「弱肉強食的な階層構造の組織では、強い力のあるリーダーが、追い落とされるまでずっと階層構造の頂点に君臨するというのが一般的です。ところが馬の群れは必ずしも強い者がリーダーとはなりませんし、リーダーはしばしば入れ替わります」

弱い動物である馬は環境に応じて生き延びるために、その時々にふさわしい資質を持った馬がリーダーになるという。環境や周囲の条件が変わればリーダーも臨機応変に交代する。つまりリーダーシップのスタイルが多様なのだという。変化の激しい環境に置かれた組織や多様性を持った組織、ネットワーク型の組織の運営で求められるリーダーシップの形や、自分自身のリーダーシップのスタイルを知る上で、馬から学ぶところは多いという。

牧場という非日常の場で、普段接したことのない大きな馬を相手にした研修は、細かいことまでが強く印象に残る。「時間のないエグゼクティブにこそ、こうした研修を経験してほしい」と小日向さんは語る。

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