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医療費、公的保障手厚く 月100万円でも負担9万円弱

2016/7/2

 「知って得する社会保険」のテーマで議論をしている筧ゼミ。3回目は公的な医療保険制度について取り上げ、今回も最年長のゼミ生、屋久仁達夫さんが発表します。小学校の同窓会で久しぶりに田舎に帰ってきたそうです。
筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 岡根知恵(おかね・ちえ、38=中)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

 屋久仁 なにしろ40年ぶりの再会ですから、感無量でした。同じ教室で学んだ仲間ですが、私のような会社員だけでなく、家業を継いだり、学校の先生になったり、人生いろいろだなと実感しました。医療保険制度も同じ。日本は国民皆保険といって、だれもが公的な医療保険に入りますが、働き方や年齢などで制度が少しずつ異なります。

  そうですね。どんな制度があるのか、説明してください。

 屋久仁 表にまとめたのでご覧ください。主なものだけでも、市町村単位で自営業の人などが入る市町村国保、中小企業の協会けんぽ、大企業の組合健保、公務員などの共済組合、75歳以上の人の後期高齢者医療制度の5つがあります。

 岡根 主なものだけで? もっと、すっきりできないのでしょうか。

  日本の医療保険制度は、1927年に施行した健康保険法で工場ごとに義務づけたのが始まりです。その後、健保が相次いで設立されました。国民健康保険法によって国民皆保険になったのは61年のことです。そのまま健保と国保の制度が一本化されずにきました。まずは制度にかかわらず共通の仕組みを知っておきましょう。

 屋久仁 はい。病気やケガなどでかかった医療費のうち、どれだけ自己負担するかの割合は、年齢と所得で決まっています。私たち現役世代は3割。高齢者はかつて原則1割でしたが、2014年4月以降に70歳になった人から、70~74歳の5年間は2割に上がりました。高齢者でも現役並みの所得がある人は3割負担になっています。

 岡根 うちの子どもは小学生ですが、医療費は無料ですよ。

 屋久仁 乳幼児の自己負担は2割、小学校に入学すると大人と同じ3割というのが原則ですが、多くの自治体が中学生まで医療費を助成しています。自治体が発行する医療証を病院窓口で出せばお金がかかりません。自治体によっては高所得者世帯は助成しなかったり、一部自己負担にしていたりするので確認しておくといいでしょう。

  高額療養費制度は調べましたか。

 屋久仁 もちろんです。重い病気やケガで手術をしたりすると、医療費が月100万円を超えることも少なくありません。仮に100万円とすると3割の自己負担でも30万円ですから、家計がギリギリで貯金が少ない人には重い負担です。だからどんなに医療費がかかっても、年齢や年収に応じて1カ月当たりの自己負担を一定程度に抑える仕組みがあります。それが高額療養費制度です。

 岡根 具体的にはどのくらいですか?

 屋久仁 年収が平均的な約370万~770万円の現役世代の医療費が月100万円だったとすると、自己負担は月8万7430円。医療費が2倍の月200万円でも9万7430円と1万円しか増えません。保険適用される診療の費用が対象です。ただ、がん治療などでこうした負担が何カ月も続くと厳しいですから、直近12カ月で3回、高額療養費の対象になっている場合は4回目から自己負担を月4万4400円に減らすルールがあります。一定の条件をみたせば、家族の医療費も合算できます。

 岡根 それでも住宅ローンや教育費といった削れない支出が多い世帯は家計のやり繰りが苦しくなるかもしれませんね。

 屋久仁 そうした不安から民間の生命保険会社の医療保険に入る人も多いのですが、慎重に考えた方がいいでしょう。実は大企業の組合健保や公務員などの共済組合では、高額療養費の共通ルールより自己負担をさらに少なくする付加給付で保障を手厚くしているところがあります。年収にかかわらず、自己負担は月2万円や2万5000円といった例があります。

  組合健保などの付加給付には人間ドックの検診費用の助成や保養所などもありますね。保険料は事業主も折半で負担するし、加入者は現役世代とその家族で医療費があまりかからないので手厚いのかもしれません。屋久仁さんが作ってくれた表でも、市町村国保の加入者1人当たり年間医療費は32万5000円、後期高齢者医療制度は93万円なのに対し、組合健保は14万6000円ですからね。

 岡根 でも組合健保の財政は厳しいと聞いています。夫も先日、保険料がまた上がると愚痴を言っていました。

 屋久仁 高齢者が多い市町村国保や後期高齢者医療制度の医療費は、保険料と自己負担だけでは足りません。そこで税金を入れるわけですが、それでも足りない分は組合健保、協会けんぽ、共済組合などから支援金を出す仕組みです。約1400ある組合健保の6割は支援金の負担が重くて、赤字になっています。

  25年には団塊世代が全員75歳以上の後期高齢者になるから、医療費はもっと膨らむ可能性があります。どの医療保険制度に加入していても、中高所得層を中心に保険料の負担は重くなり、保障は削られる可能性があると考えておいた方がいいですね。

■高所得層に応分の負担
 ニッセイ基礎研究所主任研究員 篠原拓也さん
 高齢化の進行による医療費の増加を抑えるため、国は高所得層に応分の負担を求める見直しを進めています。昨年1月から高額療養費の自己負担が重くなりました。医療費100万円の場合、年収が約770万~1160万円の人は月17万1820円、それ以上の年収の人は月25万4180円です。高齢者は「現役並み」の収入がある人だけを自己負担3割にしていますが、将来はその範囲が広がる可能性もあります。
 共働き夫婦の場合、どちらかが病気などで退職すると配偶者の健保の被扶養者になることがあるので、万が一のためお互いの健保の制度と保障をよく確認しておきましょう。会社員の多くは組合健保または協会けんぽに加入しますが、保険料は給与から天引きなので自分がどんな健保に入っているのか分かっていない人も少なくありません。(聞き手は表悟志)

[日本経済新聞朝刊2016年6月25日付]

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