46カ国でサンゴ礁の大調査、意外な傾向が判明
世界各地でサンゴの白化が深刻化している一方で、予想よりはるかに良い状態のサンゴが残る「ブライトスポット」があることが、最新の研究で明らかになった。理由はシンプル、サンゴ礁で漁が程よく行われているからだ。
研究に参加した環境NGO(非政府組織)、コンサベーション・インターナショナルのジャック・キッティンジャー氏は、サンゴ礁の保護に重大な影響を与える研究結果だと言う。
「これまでサンゴ礁の保護といえば、海洋保護区にある手つかずのサンゴ礁を守ることに重点が置かれてきました。今後は国際的なマーケットとの関係も考慮する必要があるでしょう」
2016年6月15日付の科学誌「ネイチャー」に発表された研究論文は、大学から自然保護団体、ナショナル ジオグラフィック協会が進める「原始の海プロジェクト」など、34機関の科学者39人が執筆者に名を連ねる。6月19~24日に米国ハワイで行われる国際サンゴ礁シンポジウムに先立ち、人々の関心を高めるために発表された。同シンポジウムは4年に1度、世界中の研究者たちを集めて開催されている。
気候変動に伴う温暖化と海面上昇によって、サンゴ礁のダメージが深刻化している。特に今年はエルニーニョ現象が重なり、海水温がさらに上昇している。これに魚の乱獲が加われば、サンゴ礁にとって最後の一撃となりかねない。
しかし、持続的な管理が行われているサンゴ礁は、気候変動の長期的な影響に適応できる可能性が高い、とキッティンジャー氏は考えている。
「ダークスポット」は35カ所
研究チームは気候変動の影響をより細かく理解するため、46カ国のサンゴ礁を6000回以上にわたって調査。漁獲量が最も高い海域では魚などの生物が最も少なく、その結果、サンゴ礁が最も減少していることがわかった。サンゴ礁が荒廃している35カ所の「ダークスポット」は世界中に点在しているが、カリブ海、アフリカ沖、人口の多い都市から近いインド太平洋で多く見られた。
一方、持続的に利用されているサンゴ礁は最も良い状態を保っており、ソロモン諸島、インドネシアの一部、パプアニューギニア、キリバスなどで15の「ブライトスポット」が確認された。
ブライトスポットをさらに調べてみると、明確なパターンがいくつか見つかった。そのなかには、「こんなことが?」と思われる意外なものも含まれていた。まず、昔からの漁業権が守られている海域では、サンゴ礁が最も健全だった。こうした海域では、漁をできるのは地元の漁師だけで、よそ者は締め出される。人々が海の恵みに頼って生活している地域ほど、この傾向は顕著だった。
「これは直感に反する結果でした」とキッティンジャー氏は話す。「サンゴ礁への依存度が高ければ、漁獲量も高く、その場所はダークスポットになると予想していましたが、結果は正反対でした。実際は、サンゴ礁への依存度が高いほど、管理が行き届いている傾向にありました。おそらく、大切な資源を破壊すれば、自分の首を絞めることになるためでしょう」
これに対し、あちこちから漁師がやって来る海域は"共有地の悲劇"に陥っている傾向があった。漁業の管理がずさんな海域も、サンゴ礁のダメージが比較的大きかった。
魚とサンゴは切り離せない関係にあると、キッティンジャー氏は指摘する。魚が藻類を食べ、その繁殖を抑制しているためだ。もし魚が乱獲されれば、藻類が繁茂しすぎて、サンゴは窒息してしまう。
ブライトスポットで見られたもう1つの傾向は、近くに深い海があることだ。深い海があれば、魚は大きく育ち、漁師から逃れる可能性も高くなる。
サンゴ礁を救うには?
論文では、サンゴ礁を守るための対策として、各国政府がマーケットを規制し、海域の管理を促すべきだと提言している。企業や消費者も持続可能な魚介類を求めたり、違法な漁業を拒絶したり、地元の人々の権利を尊重すべきだと訴えたりすることで、役割を果たすことができる。
「サンゴ礁の保護に取り組んでいると、悲しくなることもあります。しかし、素晴らしいことに、希望の種を見つけることができました」とキッティンジャー氏は話す。「今後はこれらの種を増やしていかなければなりません」
ただし、世界中で起きているサンゴ礁の急激な減少を考えると、「もう猶予はあまり残されていません」
(文 Brian Clark Howard、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年6月20日付]
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