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私を変えたMBA

「膨大な予習は経営者へのトレーニング」米国での学び 魚谷雅彦・資生堂社長に聞く(上)

2016/6/27

ライオン、日本コカ・コーラ社長などを経て、2014年4月、資生堂の社長に就任した魚谷雅彦氏(62)。積極的なマーケティング改革やダイバーシティー(多様性)経営の推進など、強力なリーダーシップを発揮して、日本を代表する老舗企業を大きく変え始めた。その魚谷氏が、「自らの原点」と強調するのが、若かりしころの米ビジネススクールへの留学だ。

■最初の就職先はライオン。動機は、海外留学だった。

私が経営学修士(MBA)を取得することになった原点は、海外への憧れでした。高校1年の時に出会った英語の先生がとても型破りな方で、授業も面白く、英語がとても好きになりました。好きこそ物の上手なれで、成績もぐんぐん上がり、学年で1番になったこともありました。

その流れで、大学は実家に近い京都市にある同志社大学の文学部英文学科に進学。そこで出会った英作文の先生が、これまたユニークを絵に描いたような人。長髪に真っ白なジーンズ姿で現れたと思ったら、「君たちに生きた英語を教えたい」と言って、実際、教科書に出ていない面白い表現をたくさん教えてくれました。

ますます英語が好きになり、休日にはよく平安神宮に行き、外国人観光客に「How are you? 」と話しかけていました。

そうなると当然、外国に住みたくもなります。就職は最初、商社を考えましたが、当時は文学部は門前払い。調べたら、ライオンに社内留学制度があることがわかり、ライオンを受けました。

面接では、他の学生が「消費財で世の中に貢献したい」などと立派な志望動機を述べる中、私は「留学したい」の一点張り。面接担当者から「では、留学してわが社にどう貢献するのか」と聞かれても、「留学してから考えます」と頑固に留学にこだわりました。変なやつだと思われたに違いありません。

しかし、それがよかったのか、入社2年目という異例の速さで社内の留学試験を受けることを認められ、3年目に米国に留学することになりました。

ただ、当時の私は、ビジネススクールやMBAについては、ほとんど無知、無関心。とりあえず海外留学したい。その気持ちだけでした。

■18校に願書を送り、最終的に、ニューヨーク市マンハッタンにあるコロンビア大学ビジネススクールに決めた。

やはりビジネスを学ぶなら世界のビジネスの中心地がいいだろうと考え、コロンビア大を第一志望にしました。

私は英語検定試験1級も持っていたので、英語にはかなり自信がありました。ところが、授業が始まると、周りの話す英語がわからない。ネイティブはもともと話すスピードが速い上、授業では自分をスマートに見せようとするから余計に早口。彼らの英語が聞き取れないからと言って「I beg your pardon? 」などと聞き返そうものなら、誰にも相手にしてもらえなくなります。他国からの留学生の英語も、なまりが強くて、やはりよくわからない。大変なショックで、自信喪失状態に陥りました。

特に、ケーススタディー方式で進めるマーケティングなどの授業は議論が中心なので、とても苦労しました。苦労したのは、英語の問題だけではありません。日本の学校教育というのは、講義をおとなしく聞いてノートを取るスタイル。対照的に米国の学校教育は、小さい時からディベートの訓練を徹底的にやります。日本の教育システムの中で育った私は、そうした議論中心の授業に大いに戸惑いました。

■卒業できないのではないかと危機感を抱き、スピーチを学ぶための学校にも通った。

2科目落とすと退学なので、必死です。週2回、平日の夜に、スピーチやディベートの訓練で有名なデール・カーネギー・スクールに通うことにしました。

ダブルスクールは大変でしたが、これが結果的に大正解。カーネギー・スクールは15人ぐらいのクラスでしたが、私より年上のビジネスパーソンがほとんどで、将来は組織のリーダーになりたいとか、人生に意欲的な人ばかり。授業では話のテクニックだけでなく、人を動かすために自分をどう表現するかといったリーダーシップのようなことも学びます。最後の授業で先生が私たちに向かって言った「リーダーに必要なのは、自分の人生を情熱を持って生きること」という一言に感銘を受け、今でも私のベースになっています。

ビジネススクールの授業の予習(リーディング・アサインメント)も量が多くて大変でしたが、これは今振り返れば、経営者としてのトレーニングだったのだと思います。経営者というのは、読まなければならない報告書や、出席が求められる会議が、山ほどある。しかし、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃと、忙しさに目を回しているようでは、経営者失格です。きちんと優先順位を付けて、本当に重要なことにどれだけ時間を割き、迅速に意思決定できるか。これが経営者に求められる資質です。

リーディング・アサインメントも同じで、一度に4冊も5冊もアサインメントが出ても、最初から最後まで全部読む必要はありません。本当に重要なポイントはどこか自分でよく考えれば、読まなくていいところが自然とわかってきます。すると予習も効率的にできるようになる。最初のころはそれがわかりませんでしたが、続けていくうちに徐々にコツをつかんでいきました。

インタビュー/構成 猪瀬聖(ライター)

(下)資生堂魚谷氏「ダイバーシティーは海外MBAで鍛えよ」>>

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