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孫正義氏(左)とアローラ氏

孫正義氏(左)とアローラ氏

ソフトバンクグループ社長の孫正義氏(58)が後継者候補としていたニケシュ・アローラ氏への禅譲を撤回し、当面社長を続けると表明した。三顧の礼で迎え、巨額報酬を払ってきたナンバー2の退任はあまりにも唐突だ。孫氏の「変心」の裏には何があったのだろうか。

「まだもう少しやり残したことがある」。22日のソフトバンクの株主総会。孫氏は60歳の誕生日に社長を退き、アローラ氏に禅譲する計画だったことを明らかにした。そのうえで、「寂しさを感じた」と思い直して引退撤回を決めたと語った。

しかし、孫氏が引退を決めていたとはとても思えない。今年5月、決算発表の記者会見。筆者が投げかけた「孫さんは今年59歳になります。これまで60歳代で後継者に譲ると公言してきましたが、その際の有力候補はやはりアローラ氏ですか」との質問に対し、アローラ氏に対する評価を一段と高めていると肯定的な答えを返した。しかし、会見が終わると、「60歳代といっても、69歳まである。まだ10年以上もあるからね」とボソッとつぶやいた。

これが孫氏の本音だろう。あるソフトバンク幹部も「健康問題でも起きない限り、10年後どころか20年後もトップは代わらないでしょ」という見方だった。

確かに孫氏には「引退」の2文字が何度かよぎったことはあるかもしれない。IT(情報技術)業界は日進月歩で技術革新が進む世界。孫氏と同世代のスティーブ・ジョブズ氏はすでに故人となり、ビル・ゲイツ氏も第一線から退いた。今やシリコンバレーの起業家の主役は40歳代や30歳代だ。

孫氏のいうとおり現役にこだわれば、老害に陥りかねない。しかし昨年6月、アローラ氏を迎え入れた株主総会で「まだ(仕事の)満足度は3%。世界のトップ企業になる」と宣言していた孫氏が早期引退を真剣に考えるだろうか。

孫氏の「引退発言」の裏には、アローラ氏退任を納得感のあるかたちで収めたい、との思いがあったからではないだろうか。孫氏は「後継者」としてアローラ氏の名前を公然と語っていた。その退任となれば、様々な臆測が飛ぶ。アローラ氏自身も簡単には了承しないだろう。だから「孫さんは引退を決意し、アローラ氏に後継を託す考えだったが、個人的な感情で翻意し、アローラ氏に円満に辞めてもらうという筋書きにしたのでは」と指摘するソフトバンク関係者もいる。

なぜか。

実は今春、市場関係者や社内から2人の間に成長戦略に対する考え方にズレが生じているという見方が広がっていた。アローラ氏は母国のインドなど新興国のベンチャー系企業への投資を加速してきた。一方、孫氏は米携帯電話子会社、スプリント再建を核にしたキャリア事業の強化にシフトしようとしていた。

ソフトバンクの社外取締役で孫氏の「兄貴分」である2人もこう助言した。日本電産会長兼社長の永守重信氏は「スプリントを売却してはダメだ。事業にまい進しないと」と強調、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏も「投資よりも事業」と何度も孫氏に諭してきた。

すでにアリババ株などの相次ぐ売却で2兆円の「軍資金」を確保した孫氏。再び米欧市場でのキャリア事業拡大を狙うには十分だ。

孫氏は常に合理的で理性的な判断をする経営者だ。「自らの感情的な思いで、人事を決めることもない。あくまで人材の価値や戦略によって判断を下すタイプの経営者だ」(ソフトバンク幹部)。

今回のアローラ氏退任劇の答えは、そう時を経ずに見えてくるかもしれない。2000年前後のことだ。当時、数々の大型買収を繰り広げていた孫氏は筆者にポツリとこう語った。「僕は投資家としてではなく、あくまでも事業家として大成したい」

そして現在のキャリア事業につながる通信事業に参入していった。その「初心」は今も変わっていないようにみえる。

(代慶達也)

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