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新しい相続のかたち

空き家問題、地域力と家族信託で解決を 弁護士 遠藤英嗣

2016/6/24

 いま、空き家問題が非常に深刻な問題としてクローズアップされています。空き家問題は高齢化社会の中で、早期に解決の道筋をつけておくべき大きな課題の一つだと思います。この空き家問題の解決に「民事信託を活用する」という考え方があり、私のところにも利用方法についての相談が増えてきました。今回は家族信託を使った空き家問題の解決を考えてみたいと思います。

■「中小企業の減少」と「空き家問題」

 私は様々な職業の人が集まるグループで、家族信託についての勉強会に参加していますが、その一つに「事業承継信託勉強会」があります。この5月、この勉強会に中小企業基盤整備機構(中小機構)の実務者2人においでいただき、中小機構が行っている「中小企業の事業承継の支援」の実情について説明をいただきました。

 お2人の説明によりますと、ここ5年間で中小企業が40万社近く減少しているそうです。減少の原因は(1)適当な後継者が見つからない(2)事業の引き継ぎ先を見つけるのが難しい(3)売り上げの減少などで資金繰りが悪化して事業の継続ができず廃業や倒産に至る――とのこと。

 私は以下の点に注目しました。一つは、中小企業が減少する理由として「事業の後継ぎ(後継者)がいないための廃業」がかなり大きい割合を占めていること、もう一つは、中小機構が事業の引き継ぎ先を見つけているという部分です。

 私は、中小企業のオーナーが抱えている「事業承継」の問題と空き家問題は根幹が同じなのではないかと思いました。

 空き家問題の根は深く、空き家を排除すればよいという考え方では解決しないのが現状です。対症療法だけでは解決にはならないのです。

 今年3月、東京都葛飾区は昨年5月に全面施行された空き家対策特別措置法に基づき、空き家を行政代執行(行政機関の命令に従わない人に対し、その本人に代わって行政機関が強制的に撤去や排除をすること)で取り壊す作業を行いました。多くの自治体で地域を活性化するために様々な努力をしていますが、行政代執行に動いた自治体はまだ数えるほどしかありません。

 解決を困難にしている最大の問題は相続です。相続によって権利関係が複雑化し、建物やその中にある家財道具に手を出せないのです。

 さらに、所有者の高齢化と管理能力の低下も挙げられます。廃屋同然の中で、病弱なご夫婦が住み続けていることも少なくありません。親族に「後継者がいない」ということも大きな原因のようです。加えて「家屋の維持費」や「税の負担」の問題もあるでしょう。

■民事信託を活用しよう

 私は、空き家問題を抱える地域の方々に対するセミナーなどで、解決の方策の一つとして所有者による「生前の信託契約」による解決方法を提案しています。地域のつながりが希薄化したといわれる今日ですが、この問題を解決するために必要なのは、やはり地域力にあると思います。

 この信託契約のキーワードは(1)空き家となる恐れのある建物の所有者の意思がしっかりしている間に生前信託契約を締結し、高齢の所有者に代わって第三者が管理する(2)契約にあたっては、建物の管理が困難と思われる相続人には引き継がず、第三者を後継者に据える(3)利用者の募集と賃貸借契約などは、「空き家バンク」の協力を得た地域のプロジェクトチームを活用する(4)改築リフォーム等により建物の付加価値を高めて収益性の高いものにする(5)所有者又は相続人は、その収益受益権を受けて経済的な負担を補う(6)行政、さらには幅広く地域の力を借りその支援を受ける――というものです。

 これらの事項を個人が実行するのは難しいでしょう。そこで、事前解決型の組織として「空き家再生プロジェクトチーム」を創設することを提案しています。今の空き家対策特措法が考えている「空き家再生プロジェクトチーム」は事後的なものです。私が提案しているのは、空き家になる前に予防的に動き出すスキームの創設です。

 まず、プロジェクトチームには地域で「持ち家の管理が難しくなっている人」「後継者がいなくて悩んでいる人」を把握してもらいます。もしそのような人がいれば、基礎調査を行い、空き家防止・再生が可能と分かれば、本人や相続人に対し、所有者本人と財産を守りつつ円滑な承継ができるスキームがあることを教授するのです。

 本人にその意思があれば、プロジェクトチームと専門家がプラン策定と関係者への説明を行い、空き家バンクの応援も得つつ、第三者である後継者を選考し、プランが円滑に動くような支援を行います。こうして、所有者本人の老後の安心設計も考えた契約を締結できるようにするのです。

 この契約については、本人や家族の理解を得るのが難しかったり、金融機関の融資の壁があったりすることはわかります。しかし、地域の衰退を防ぐためにも、しっかり理解してもらう必要があることは間違いないと思います。金融機関が融資を実行しやすいよう公的援助制度の創設も考えてほしいところです。

 特に空き家問題が深刻なのは商店街です。シャッター店舗が増えることで連鎖的に他の店舗の集客力も失われ、地域の中小企業の衰退が進むことに危機感を感じている関係者は多いはずです。

 後継者がいないとか、事業の引き継ぎ先が見つからないという問題は、まさに中小企業の事業承継問題と同じです。中小機構が中小企業のために後継者問の解決策を提案したり、M&Aの仲介を行ったりしているように、空き家問題にも同じような問題意識をもって動く事前解決型の組織が必要なのではないかと思ったのです。

 家族信託を活用すれば、空き家問題の解決に向けた選択肢が増えることになりますが、それだけでは複雑化している問題の解決にはなりません。地域力や空き家再生プロジェクトチームを活用することにより、個人では解決できない空き家問題の解決の糸口が見えてくるのだと思います。

遠藤英嗣(えんどう・えいし) 1971年法務省検事に就任。高松地方検察庁検事正などを歴任し、2004年に退官。05年公証人となり、15年に退官。公証人として作成した遺言公正証書は二千数百件に及ぶ。15年に公証人を退官し弁護士登録。日本成年後見法学会常務理事を務めるほか、野村資産承継研究所研究理事として税務の専門家と連携して、資産の管理・検証などを研究する。主な著書に「増補 新しい家族信託」(日本加除出版)、「高齢者を支える市民・家族による『新しい地域後見人制度』」(同)などがある。

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